巨大市場に挑む中小企業

2019-03-01 10:00:08

于文=文

新潟大学の近くにある株式会社TCBの小さなオフィスでは、スタッフが問い合わせ電話の対応に連日追われている。代表取締役の原幸一さんも、社員と共に電話対応やメールの返信に時間を割く。昨年11月に上海で行われた第1回中国国際輸入博覧会に参加したことで、静かだったオフィスに活気が訪れたのだ。

「良い物を安く」が反響呼ぶ

原さんは元科学者で、定年前は環境整備関連会社で汚染廃棄物の研究を行っていたが、研究職の激務で体を壊したことから健康に気を配るようになった。本業の傍ら、健康食品の開発を始めたところ、発酵ニンニクに免疫力を大幅に高める作用があることを発見し、黒ニンニクエキスでつくる健康食品を開発した。定年後も研究を重ね、化粧品などの新製品を開発している。

訪日中国人観光客が必ず買う物の一つに、日本のスキンケア製品や化粧品があるが、原さんの製品はドラッグストアでは売っていない。高級な希少品だからなのか、それとも市場での知名度が低いからなのか。

そんな疑問に原さんは、「うちの製品の売価は数千円ですから、何万円もする日本のブランドスキンケア製品よりもずっと安いですよ。普通の人にも良い物を使ってもらいたいんです」と笑う。

しかし、営業に話が及ぶと、原さんの表情が曇った。理由の一つは中小企業ゆえの人手不足で、原さん自身も研究者であり、販売には疎いこと。もう一つはドラッグストアやデパートに進出するには値段を上げるしかなく、それは原さんのポリシーに反すること。現状では口コミ(5)で販路を広げるしかないという。

「市場での反響は悪くありません」と原さんは言う。「博覧会では、わが社が入っているブースはものすごい人出で、100件近い問い合わせが来ました。日本に戻ってきてからも問い合わせが途切れません。国有の大手製薬工場、大型の越境EC企業(6)、化粧品会社からの問い合わせもありました」と反響に目を見張る。博覧会を利用して中国市場に打って出るという作戦の成果は、原さんの期待を超えていたようだ。

伝統の技に知恵を乗せる

新潟県の燕三条駅は東京から新幹線で約2時間、東京と新潟をつなぐ上越新幹線の開通が決定した際、燕市と三条市の境界上に建てられた駅だ。駅名の命名には、両市の間で議論が絶えず、田中角栄元首相らの仲裁で、燕三条の名前に決まったという。燕三条地域は長年金属加工を主要産業とし、日本製カトラリー(ナイフやフォークなどの食器)の90%を製造している。中国人に人気の魔法瓶メーカーサーモスもここで生まれた。

駅からタクシーに乗り換え、広大な田畑の間の小道を西に向かう。岡部洋食器製作所は水田の近くにぽつりと建っていた。1954年に創業され、60年以上の歴史を持つ岡部洋食器で、現在代表取締役を務める岡部高文さんは3代目。工場では熟練工が手でスプーンを磨き、包装や発送作業も全て手作業だ。岡部さんを含む職員は皆職人気質で、労を惜しまず、手作業にこだわることで看板を汚すことなく今までやってきた。しかし今、工場のラインで稼働している機械は1台だけで、注文の減少は避けがたい事実と見える。時代のニーズと伝統的製品のミスマッチは、多くの日本の中小企業が抱えている難題だ。

「私たちが中国市場に売り込もうとしているのは、シリコンのスプーン、柄が曲がるカトラリー、頭を反らせずに飲めるシリコンのコップの3種類です」と岡部さん。「シリコンスプーンとコップはベビー用です。柔らかく丈夫なシリコンを使うことで、金属カトラリーのようにお子さんの口を傷つける心配がありません。曲がるスプーンは高齢者用で、自由に変形するため、体の不自由なご老人や、食事の世話をするヘルパーさんの負担を軽減しています」と製品の特徴を語る。

現在の中国はベビーブームの再来とともに、高齢化社会にも突入している。高齢者と小さな子どもを抱える(7)家庭の需要は多いと、岡部さんは判断に自信を持つ。「生き残るためには、イノベーションが必須です。これらの製品は日本でもよく売れていますが、海の向こうには、もっと大きな市場を持つ中国の逼迫した需要があるのです。わが社の製品はすでに上海髙島屋での販売が始まっていて、今後の業績アップに期待しています」と意気軒高だ。

「匠」の技術を国際市場に

1980年代から90年代にかけ、中国で「最も良いテレビ、冷蔵庫、ラジカセ」といえば確実に日本製だった。しかし今の中国市場で、生活必需品となったスマートフォンやパソコンの日本ブランドを見掛けることはほとんどない。日本のブランド力はすでに失われてしまったのだろうか。専門家は「ブランド力がなくなったのではなく、ハイテクな部品と独創的な製品を研究開発し、管理する方向に変わった。また、これらの技術は大企業や大学の研究室で開発されるとは決して限らず、中小企業の発明によることが多い」と明かす。

しかしグローバルマーケットに向けて打って出るのは、中小企業にとって至難の業だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐藤秀二さんは「中小企業は巨大な中国市場に精通していないため、どこを頼りにし、誰を信じればよいのかが分からず、安定した実力と確かなチャンネルを持つ企業とつながりを持つことはさらに難しい」と語る。資金不足や人脈不足の中小企業にとっては、博覧会や商談会が最も手っ取り早いプラットフォームなのだ。

中国との交流チャンネルは日々増えている。技術と創造力があれば、小さな企業であっても中国の大市場で勝ち抜くことができる時代が今、到来する。

 

人民中国インターネット版 201931

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