【外商投資法】安定発展を見込む日系企業

2019-05-20 10:26:37

李家祺=文

3月に開かれた全国「両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議の年次大会)」は、中国経済の情勢に新たな変化をもたらした。中でも、国内総生産(GDP)成長率の目標を昨年の65%前後から60~65%に下方修正したこと、第13期全人代第2回会議で可決成立した「外商投資法」などはとりわけ注目を集めた。これらの重要な改革のシグナルを、中国に拠点を構える日系製造業企業はどう見ていて、中国市場の変化にどのように適応していくのか。

変化に順応しモデルチェンジを

改革開放以来、数多くの日本企業が中国市場に進出し、投資や事業展開を行ってきた。これらの企業は改革開放以降に中国経済が飛躍した歴史の目撃者であり、中国のビジネス環境が持続的に改善を繰り返してきた事実の立証者でもある。中でも、ガラスメーカーAGC(旧旭硝子)と建設機械メーカーの日立建機は、ともに1990年代に中国に工場を建てた大手企業だ。 「中国市場の『良さ』はその発展と多様性にある。この20年間で、中国市場は他国ならば5060年間を要する発展を遂げた」と、日立建機(上海)有限公司の程暁明社長はこのように中国市場を評価する。変革が激しい環境の中で、市場のニーズに順応し、自身の経営戦略を絶えず調整することが、同社が中国で発展してきた鍵だった。

一方、AGCは90年代に中国でブラウン管テレビ用ガラスの製造工場をつくった。2008年から同社はいっそう力を投入して、全方位的に中国市場に進出した。同社の中国総代表で、AGC(中国)投資有限公司の上田敏裕社長によると、中国経済の急成長と政府による家電の消費促進政策などの影響で、中国は一躍世界のテレビ市場で重要な一部となった。この変化に順応して、同社は10年に中国大陸部で液晶パネルの製造工場をつくった。

日立建機の程社長も、海外企業の中国進出にとって、「ローカライズ」(3)が重要な意味を持つと強調した。程社長によると、同社は中国に進出してから、常に努力してローカライズを押し広げている。現在、同社が販売している数種類の代表的な機種に使われている部品のうち、約90%は中国で現地生産されたものだ。 また、AGCと日立建機を代表とする日系製造業企業は、インターネット時代の潮流に合わせ、多数の技術的イノベーションを実現した。日立建機は、自社開発の情報通信技術を使ったサービスソリューション「ConSite」を中国のメッセンジャーアプリ「微信(ウイーチャット、中国版LINE)」と結び付け、機械のオペレーターがスマートフォン(スマホ)を使ってリアルタイムで設備の稼働状態を調べられるようにしている。故障が発生すると、直ちに対処できるようオペレーターのスマホに警告が届く。

中国市場の未来を見込む

今年のGDP成長率の目標が60~65%に設定されたことは、各方面で議論を呼んだ。中国経済の先行きを悲観的に捉える声もあるが、日系製造業企業は違う意見を持っているようだ。程社長から見て、中国市場は依然として大きな潜在力と魅力がある。国際通貨基金(IMF)のデータによると、昨年の米国と日本のGDP成長率はそれぞれ29%と11%で、中国の66%には遠く及ばない。「中国の巨大な経済規模(4)だけでも、建設機械市場にとって強い支えになる」と程社長は言う。 「実際のところ、いかなる国でも高度成長を維持し続けることは不可能だ」と、AGCの上田社長は考える。「次の段階における中国にとって、より重要な発展目標は『安定維持』だ。この目標を実現する過程で、われわれ外資が役割を果たす余地も大きい」

上田社長はまた、中国の建設分野における盛んな発展が、新素材の分野で先端技術を持つAGCに新たな市場をもたらしたことに注目する。「現在、北京と上海だけでなく、多くの都市でもランドマークとなる建物の建設が盛んになっている。これはわれわれにとって大きなチャンスだ。われわれはより多くの新素材技術が、中国に導入できることを期待している」

発展の最中にある「一帯一路」イニシアチブも、日本の製造業により多くの利益をもたらす。3月、中国とイタリアは「一帯一路」建設の共同推進に関する覚書に調印し、イタリアは主要7カ国(G7)の中で最初に同イニシアチブに参加した国となった。現在、中国は150以上の国国際機関と「一帯一路」協力の文書に調印した。関係者によると、日立建機は「一帯一路」沿線諸国それぞれのニーズに応えようと、「一帯一路」プロジェクト対応に特化した部署を設置した。程社長は、「一帯一路」は同社により多くの海外展開の可能性をもたらす、と考えている。

一方、中国市場で得た特別な経験も、これらの製造業企業のグローバルなビジネス展開において優れた参考となった。程社長によると、例えばチベット自治区のクライアントからフィードバックされたアドバイスと現地での建設機械の稼働状況は、海抜が高い場所で使われる機械を開発するために大いに役立つ。

約2年半前の北京赴任をきっかけに、上田社長は中国で暮らすようになった。中国の印象について、「中国はどこも活気にあふれている。この活気の底に秘められているものこそ、まさに大きな商機だ」と言う。

新法による新チャンスを期待

上田社長と程社長は口を揃えて、より「公平、公正、透明」な市場秩序への期待に言及した。

今年の第13期全人代第2回会議で可決成立した「外商投資法」では、内資外資系企業の公平な扱い、外国投資家による投資の保護の強化、地方政府の約束順守履行(5)の促進などの内容が強調され、外国投資家のためにより公平で透明性のあるビジネス環境をつくろうとしている。

上田社長は、同法とその関連法規政策は非常に重要な意味を持っていると考える。AGCはかつて、地方の政策によって投資が難航していたことがある。しかし、「外商投資法」の成立はこのようなリスクと不確定性を解消し、同社のような製造業企業がクライアントと良好な信頼関係を築き、より優れた製品を提供することを促す。上田社長はまた、海外企業が中国市場に向けて、より積極的な経営方針の調整を促すと指摘する。例えば、中国での投資をより優先したり、グループ全体における中国市場の比重を引き上げたりすることなどが挙げられる。

また、「外商投資法」では、行政機関とその職員が行政手段を利用して技術移転を強制してはならないと明確に規定している。これについて、上田社長は次のように述べた。「このような制度的保障があれば、企業はより安心して先端技術を中国に導入するようになるだろう。急速に高まる中国人消費者のニーズに対応するには、日本の技術をそのまま導入するだけでは不十分で、中国での現地開発力を向上させることが極めて重要だ。現在、AGCは上海での研究開発の展開を検討中だ。これも外資系企業の知的財産権に対する法的保護を必要としている」

最後に上田社長はこう付け加えた。「私たちは『外商投資法』成立後の実践状況と中国のビジネス環境の変化を見つめていく。この変化によるチャンスを逃すことはない」

 

人民中国インターネット版 2019年5月

 

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