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大メコンに生きる(1)聖なる水は天上より来たる

 

プロローグ

3年前、中国中央電視台(CCTV)は、大メコン川流域(Greater Mekong Subregion=GMS)の6カ国のテレビ局が共同で、メコン川流域について『同飲一江水(同じ川の水を飲んで)』と題したテレビドキュメンタリー集を制作することを決定した。私はその番組制作のチーフディレクターをつとめることになった。

メコン川のことは、もともとまったくと言っていいほど知らなかった。中国青海省に源を発するメコン川は、中国内では瀾滄江と呼ばれるが、人家もまれな西南山地の山間を流れる川でしかないからだ。チベットへ向かう途中、高い山から谷を望むと細い白糸のような川が見え、その流れが咆哮する音も聞こえてくる。あれが瀾滄江だと、誰かが教えてくれた。

瀾滄江の下流がメコン川であるということは知っていたし、その風景を映像でちらっと見たことはあったものの、外国のテレビ局との合作でこの川とこの川の流れる大地を撮影するなどということは、それまで考えてみたこともなかった。

30年前、テレビ番組の制作を勉強し始めたばかりの学生だったころ、母校にNHKとCCTVが共同制作したドキュメンタリー番組『シルクロード』の撮影に参加した先生たちがいて、とても羨ましかったことを覚えている。当時、NHKは世界でもっとも優れたテレビ番組制作機構であり、すべてが先進的かつ科学的で、私たちにとって学ぶべき存在であった。NHKはその後、長江や黄河の撮影でもCCTVと共同制作を重ねている。プロフェッショナルであり、実力、経験、経済力を兼ね備え、外国でも堂々とその力を発揮できるということは、この国際的なテレビ局をわれわれが尊敬するに十分な理由であった。

あれから30年がすぎ、世界も中国も大きく変わった。現在、CCTVも当時のNHKと同じように、外国でほかの国のテレビ局と共同で撮影することになった。その撮影クルーの責任者が私である。思いもよらないことだった。

今年1月、『同飲一江水』はCCTV及びその他のテレビ局で放映され、好評を博した。かつての私が何も知らなかったように、多くの人にとって大メコン川流域とはあまり知られていない存在だったせいもある。まずこの大メコン川について、そしてその流域の概況についての説明から始めたいと思う。(文・写真=李暁山)

高原から海へ

瀾滄江─メコン川は、世界で6番目に大きな川である。中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの6カ国を流れている。その経由地域は、国際的に大メコン川流域(GMS)と呼ばれる。現在、中国国内でこの地域に含まれるのは、雲南省と広西チワン族自治区である。

この川は、広く豊かな土地を育む雄大な川である。大メコン川流域の257万平方キロの土地に、3億2000万人、百以上の民族が暮らしている。

この地域の北側はヒマラヤ山脈の延長の高原、南側は広い平原である。瀾滄江─メコン川は、この地域を南北に貫いている。

瀾滄江─メコン川は、世界でもっとも高低差の大きな川の一つである。全流域の本流の高低差は、5167メートル。流域面積が百平方キロ以上の支流が、138本ある。源は、青海・チベット高原の雪山と湿原である。雲南省境内で横断山脈を縦断し、高山の深い峡谷の中を激流となって走り、その高低差が3000メートルに達することもある。それからシーサンパンナ(西双版納)のサトウキビ畑の中を緩やかに流れてゆく。やがて、ラオスの山地やミャンマーのシャン高原、タイ東北の台地に入ると、メコン川と呼ばれるようになる。

ここはアジアの熱帯地域で、気候は乾季と雨季に分かれ、稲や常緑のモンスーン雨林の成長に適している。ラオスとカンボジアの国境では、メコン川は突然数段の階段を流れ落ちて有名な「コーンの滝」を形作る。また、支流がトンレサップ湖につながる。トンレサップ湖はメコン川流域でもっとも大きな淡水湖で、メコン川の洪水を緩和している。ここから、アジア最大の穀物倉庫であるメコン川デルタに注ぎ込む。最後には、ベトナム南部で水かきを広げたようなたくさんの支流に分かれ、さらに広い海に流れ込む。

瀾滄江─メコン川のように豊かで複雑な川は世界のどこにもないという。水源から河口に至るまでに、砂漠以外の気候環境及びあらゆる地形をカバーしている。氷河のある寒帯、亜寒帯、温帯、亜熱帯および熱帯にある乾寒(乾燥していて寒い)、乾熱(乾燥していて暑い)、湿熱(湿度が高くて暑い)などさまざまな気候帯もそろっている。また、氷河、湿原、高原、高山・峡谷、中低山・広い谷、沖積平原などバラエティーに富んだ地勢を経由する。

水源地に生きる人々

朝、日差しがチャジャリマ(査加日瑪)山を照らし出すと、ザシ(扎西)家の人々は早々と起き出す。この日は、彼の次男のアカ(阿卡)がテント内にある仏壇の前の銅製の鉢に清らかな水を満たし、お祈りの支度をした。彼は出家して山向こうの寺院にいるが、家族が牧場を引っ越すのを手伝うため、一時的に家に帰っているという。

そろそろ冬がやってくるというころ、山全体はすでに氷に覆われている。しかし、氷や岩石、草の根元の下から、水は相変わらず流れ続けている。ここの水は1年中絶えず湧いている。タングラ(唐古拉)山の北に位置するチャジャリマ山は聖なる山であり、チベット語で「多彩なる山」という意味を持つ。ここのチベット族の人々は、聖なる山は天につながり、聖なる山から流れてくる水も、天につながる聖なる水であると信じている。ここから流れ出す水が、最終的に瀾滄江となり、そしてメコン川と呼ばれる。

ザシ一家はチャジャリマ山の麓で暮らしている。ザシはテント付近の草原に腰をおろし、引越しについて家族と相談していた。この季節に冬季の牧場に引っ越すことで、荒れ果てた夏季の牧場を休ませて回復させ、また水源を保護することもできる。ここのチベット族の人は遊牧生活を営み、牧草や水源の変化にしたがって移動してゆく。これは古くから伝わる経験によるもので、命を連綿と受け継ぐことは大地の持続的な活力にかかっている。人々は長い歳月の中でこれを認識し、自然に順応して生活し、そのことに満足して楽しむことが、堅固な生活スタイルとなっている。

黒いテントは黒ヤク(チベット高原に生息するウシ科の動物)の毛で編んだもので、丈夫で水を通さない。表面の白い模様は白ヤクの毛で編みこんだ縁起のよい図案である。この大きなテントを支えるのはわずか二本の木だけで、解体も便利である。ほんの一時間あまりのうちに、ザシ一家はすべての持ち物を自家用のトラックに積み込んだ。トラックを買う前は、荷物をいくつかの包みに分けてヤクに背負わせ、新しい牧場にゆっくりと移動するしかなかった。

牧民たちが仕事をするときはいつでも、楽しい気持ちをこめて、自分で作った歌を唄う。

聖なる雪山の麓、幸福をもたらす水が流れ、泉水は大地にあまねく分布し、河川の源となる。小さなせせらぎは大きな川となり、吉祥の祝福をもたらして、私たちはここで別れても、互いに恋しく思い続ける。

 

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