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遼・金王朝 千年の時をこえて 第4回

 宋王朝が中国の南部で栄えていた頃、中国北方はモンゴル系の契丹人によって建てられた遼(907~1125年)と東北部から興ったツングース系女真族の金(1115~1234年)の支配するところとなっていた。これら両王朝の時代に、北京は初めて国都となったのである。

遼仏教文化の精華─独楽寺

契丹の勢力は938年までに南方へ広がり、燕雲(幽薊)十六州をその支配下に置くまでになった。遼の版図は五つの地域(道)に区分けされていた。本拠地の上京以外に、四つの副首都が置かれたが、それらは東の遼陽(東京)、中央部の寧城(中京)、西の大同(西京)そして南の北京(南京、当時の呼称は燕京、幽州)である。これらの副首都は、漢族系住民やその他の部族、そして宋との関係を司る政治的、軍事的な役割を担っていた。

この堂宇は巨大な観音像を庇護する目的で造られた。 屋根を支えるための複雑な構造を成している

遼南京道の中に残っているもっとも貴重な文化遺産は、北京の90キロ東に位置する薊県の独楽寺である。寺の伽藍は、984年建立の二つの木造建築と11世紀に増築された白塔から成っている。これらの建造物は一千年の間、数知れぬ戦火や天災に耐えて生き抜いて来た。

独楽寺は、建築として非常に貴重な遺産であると同時に、契丹の支配者がどれほど仏教を重視していたかを体現したものと言える。この壮大な伽藍が建造された当時、仏教は国家の守護神として支配層に厚く崇められていた。仏教は契丹とその庇護下に置かれていた漢民族との絆でもあり、この南京道一帯は、遼の仏教がもっとも栄えた中心地であった。独楽寺は遼王朝にあって、三代続けて絶大な権力を誇り、朝廷から耶律姓まで賜った薊州の漢人韓一族の建立したものである。

独楽寺山門前の日曜市場 軒下の腕木組み(斗拱)

私は幾度も独楽寺を訪ねたが、今でも忘れられないのは1997年2月に訪問した時のことである。私はちょうどこの寺院の建築の特徴について、中国の建築学の先駆者とされる梁思成(1901〜1972年)の著書を読んだばかりであった。長いこと、人々の記憶から失われていた独楽寺を1932年に発見したことが、彼のフィールド・ワークの最初の業績である。梁思成の記述によれば「独楽寺の観音閣は城壁のはるか上にそびえ、遠方からも見える。その建物は力強く、穏やかな印象を与える」。巨大な幾層もの腕木と裾の広い屋根が遼代建築の特徴を示している。  驚いたことに、寺の近くまで行ったところで私は、この壮大な建物が修繕のため、すっかり解体され、残っているのは、中心の柱と梁といくつかの腕木(斗拱)のみであることを発見した。それはあたかも、お堂の内部をさらけ出して建築技術の秘密を外界に見せているような光景であった。私は興奮して内部の構造を見ようと足場を登っていった。主殿は高さ16メートルの十一面観音像を囲むように造られている。この観音像は、中国で現存する最大の塑像で耶律皇室の守り神であった。高くそびえ立つ堂宇は色々な角度から、観音像を拝めるよう広い空間を形作っている。梁思成によれば、この建物は24の形の異なる腕木が柱の上に配置され、屋根の重量を支えているとのことだ。観音像の腰と胸の高さにある回廊から見ると、この高名な仏像がごく親しいものに感じられる。観音像の頭上は冠のような藻井となっているが、これも遼時代に発達した特殊な建築様式である。

遼彫刻の傑作、山門の仁王像

 遼代の特長である八面塔(白塔)

十一面観音像、六角形の藻井が印象的。 観音像の両脇には小さな侍立像が立っていた

堂の内部を歩き回っているうちに、梁の上に当時の宮大工たちの残した印を見つけた。陽光に触れることのない色彩は、時の経過にも影響されず、見事に鮮やかであった。屋根を支える中心の梁がそのままの姿を呈しており、その先端にはどれも、尾のはね上がった、梁を噛む龍が彫刻されている。私の眼下には、お堂と同じぐらいの年を経た、柏樹が布のテントでおおわれ、幹の周りには工事道具やペンキが散乱しているのが見えた。独楽寺の歴史の生き証人に対するこのような粗雑な扱いの結果、この柏樹はやがて姿を消すことになってしまった。私の立っている足場から優雅な趣の山門が見え、そのさらに300メートルほど南に白塔を見ることが出来た。おそらく観音像も同じ光景を眺める位置にあり、これら三つの建造物はその意味で一体をなしていることがわかる。梁思成のスケッチを手にしながら、この遼代建築の最高傑作の複雑な構造を見るという特別な機会に、彼が立ち会えないことを心から残念に思った。(阿南・ヴァージニア・史代=文・写真)

 

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