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やんちゃ盛りの「万博パンダ」

 

高原=文  馮進=写真

午後3時、上海市動物園のパンダ館前に突然、多くの人が押し寄せてきた。幾重もの人垣が出来、みんなガラス窓に顔をくっつけるように、中をのぞき込んでいる。本来なら、ウィークデーなので入園者は少ないはずだが、何を見ようとしているのだろう。

上海動物園内のジャイアントパンダ・テーマ館

そうか!「万博パンダ」のおやつの時間だ。四川省の中国パンダ保護研究センターからやって来た10頭のパンダの子供たち。入園者が大急ぎで駆けつけたのは、満2歳になったばかりのパンダたちがミルクを飲むところをひと目見ようというわけだ。いつでもどこでも、パンダは動物園一の人気者。このパンダたちは九月から万博会場のある上海市浦東の上海野生動物園に引越し、またかわいいポーズを見せてくれるだろう。

スター顔負けかわいいポーズ

ふと見ると、数人の飼育係が牛乳、リンゴ、タケノコ、特製の窩頭(蒸し饅頭、材料はトウモロコシやコウリャンの粉)などの「おやつ」を持って、パンダ舎に到着した。飼育係は持ってきた「おやつ」を片隅に置いて、パンダたちを展示室の奥にある柵の中に追いたて、カギを掛けて閉じ込めてしまった。「おやつ」の前に先ずお掃除。パンダたちはおやつを見せられたのにすぐ食べさせてもらえず、立ち上がったり、柵にしがみついて、わーわーと鳴き声を上げる。人間の子どもの泣き声にそっくりだ。ガラス越しにパンダの登場を待ちわびていた人々は、この鳴き声を耳にすると、飼育係が出入りしているドアに一斉に目を向ける。ドアのすきまからのぞき込む人、中の物音をよく聞こうとドアに耳を押し当てる人。ドアの前に人だかりができ、後からやって来た別の飼育係はその人たちをかき分けかき分け、やっと中に入って行った。

「おねえさん!聞こえたの、ぼくのお口もふいてってば」 飼育係のおにいさん、おねえさんはみんな親切。まるでお友だち

その時、「パンダが外でミルクを飲んでるよ!」と、子どもの叫び声が聞こえた。すると、人々はどっと、外の運動場に向かって雪崩を打って移動。ちびっこパンダたちが行儀良く一列に並んでミルクを飲んでいる光景を見ると、争うようにカメラを構え、ひとしきりシャッター音を鳴り響かせた。パンダたちはガラス越しに見える大騒ぎにはもう慣れっこのスター気取りで、まったく意に介さない。寝転んでリンゴをかじり、ものぐさ振りを発揮している。中には、満腹になったらしく、飼育係の手を引っ張って顔をなでてほしいとねだる子もいる。何とも可愛らしい。

屋外でしばらく遊ぶと、飼育係に連れられて室内に戻り、お休み時間。人々もパンダたちの動きに従って、今度は屋内に流れ、ガラス越しにパンダを見つめる。パンダが動けば、見物客も動く。見物客はパンダが行くところに付いて行く。

「さっきまでは、パンダも興奮、人間も興奮していた。今度は、パンダが『安定期』に入ると、人間も『安定期』に入るんだ」と、同行のカメラマン。

「いろんな人がいるな——。」じっと観客を観察?

ははあ、その通りだね。さっきまでの騒動は収まり、人々は落ち着いて、愛情たっぷりの表情で、パンダたちの愛くるしい仕草をそっと眺めている。

大勢の人々に見守られながら成長したパンダたちは、いずれ、野外の保護区で帰って暮らすようになるが、さびしがったり、環境になじめなくなったりしないだろうか。

至れり尽くせりの保護事業

28歳の飼育係・楊傑さんに話をうかがった。パンダのふるさと四川省臥龍の生まれ。高校卒業後、中国パンダ保護研究センターの試験にパスして職員になり、ずっとパンダの飼育に従事してきた。彼とほかの3人の飼育係が今回、10頭の「万博パンダ」たちについて上海にやって来た。万博期間中、パンダの日常生活と健康状態を見守り続ける。4人は2組に分かれ二交代で世話にあたり、毎日決まった時間に、パンダたちに竹を与え、また一日2回、「おやつ」を食べさせる。新鮮なタケノコ、リンゴ、ニンジンに加えて、特別レシピで調理した「栄養饅頭」とカルシウムのサプリメントだ。食事を与え終わると、一頭ごとの記録ノートにその日の精神状態、健康状況、食欲、食べた量などを書き付ける。彼ら4人に上海市動物園の2人の職員が加わり、ビデオカメラによる観察やパンダ舎の清掃などの作業を行っている。

楊さんは、ここまで説明してくれたあと、「パンダの糞(ふん)は一日にどれくらいだと思いますか」と記者に質問した。

午後の餌として、トウモロコシ饅頭、タケノコ、リンゴ、ニンジンを念入りに配合する パンダの昼食後の「デザート」にタケノコを用意している 午後、心を込めて作ったミルクをパンダたちに届ける

「数キロといったころでしょうか」と、答えてみた。楊さんは「ここにいる『万博パンダ』は成体一歩前の亜成体なので、一日に6キロくらいですが、成体になると20キロは排泄します」と笑いながら教えてくれた。

「20キロも!?」―記者には想像もつかなかった。

私たちは小さい時から動物園でパンダを見てきたし、テレビや映画でもパンダになじんでおり、よく知っているつもりだったが、実際には彼らのことをよく知らないということがよく分かった。

例えば、おとなしそうなパンダも実は凶暴な動物で、動作も機敏。爪は鋭く、丈夫なジーンズでも簡単に引き裂いてしまうほどだ。また多くの人は、飼育係がパンダの世話をするときには、徹底的に消毒すると思っていると思うが、これも誤解で、楊さんも他の飼育係も餌を与える前に、作業着に着替え長靴に履き替えるだけ。

かわいらしいパンダの子どもたちは飼育係に見守られながらおとなしくミルクを飲んでいる

「パンダはそんなにやわな動物じゃありませんよ。パンダ舎内とわたしたちが履く長靴を消毒する程度です」と楊さん。「私たちがよく聞かれるのは、パンダの入浴の問題です。その都度、わたしは、特にパンダの体を洗ってやることはありません、と答えます。彼らはペットではありません。見た目がきれいである必要はないのです。可能な限り自然に近い状態で生活させてやりたいのです。どうしたら健康体でいられるか、それが最も大事です。私たちの最終的な目的は、彼らを大自然に帰してやることなのですから」

2008年5月の汶川大地震の前に、中国パンダ保護研究センターでは一度、パンダを大自然に帰す活動を行ってみたが、残念なことに失敗してしまったという。そのあと研究スタッフは雅安にある基地で引き続き大自然に帰す試みを続けている。

今回、研究センターが「万博パンダ」として10頭の子どものパンダを選び上海に派遣した重要な目的は、より多くの人々にパンダの保護活動を理解してもらうことだ。現在行われている保護活動の目的は飼育ではなく、将来、大自然に帰すことにある。そのため、スタッフたちは上海市動物園のパンダ館の隣に小パビリオンを開設し、パンダ保護活動の実情を宣伝している。より多くの人がこの活動に関心と支持を寄せてくれることで、最終的にはこの十頭のパンダが大自然で生活し繁殖できるようにしたいのだ。

万博パンダ
 万博期間中には、国内外から多くの観光客が見込まれるが、「万博パンダ」は身近にパンダと接するまたとない機会になるに違いない。
 10頭の子パンダは雄4頭、雌6頭。名前は雄が「平平(ピンピン)」「安安(アンアン)」「韵韵(ユンユン)」「佑佑(ヨウヨウ)」、雌が「漢媛(ハンユアン)」「壮妹(チュアンメイ)」「奥運(アオユン)」「閩閩(ミンミン)」「阿霊(アリン)」「武陽(ウーヤン)」。
 10頭とも四川省にある中国パンダ保護研究センターで2008年以降に生まれた満2歳になるパンダの子ともたち。発育ざかりで、元気いっぱい。好奇心も旺盛だ。新しい環境に慣れるのも早く、上海到着後すぐに、ここの気候に順応し、上海市佘山と浙江省安吉で取れる竹を食べているが、健康状態は四川産を食べていたときと変わりなく素晴らしい。
 今年1月から6月まで、上海市動物園で暮らし、7月から12月までは浦東新区にある上海野生動物園に移る。パンダ保護研究センターの専門飼育係がその全スケジュールをともにする。
 この6カ月の状況を見ると、「万博パンダ」が上海市動物園にやって来たことで、動物園の入場者数は激増、飼育係の楊さんの話では、パンダ館の来場者は祝祭日には1日に3万人にも上り、新記録を達成したとのこと。「10頭のパンダたちが1日に見た人間の数は、故郷の仲間たちが一生かかっても見ることが出来ない人数でしょう」と楊さん。
中国パンダ保護研究センター
 中国パンダ保護研究センターは1983年に設立された。20年の試行錯誤を通じて、パンダの繁殖における「受精難」「受胎難」「幼体生存難」という3つの難題をほぼ解決し、センター内の個体数を増やし、外部の支援を受けずに、維持発展が可能な個体群を維持できるまでになった。1991年から今日までにセンターでは110胎162頭の繁殖に成功し、そのうち145頭が成体にまで育った。人工授精による個体数は1991年には10頭だったが、2009年には153頭にまで増えた。この数は全世界の飼育頭数の約60%を占めている(ほかに臥龍自然保護区には900頭近い野生パンダが生息している)。
 1999年3月と2007年4月に中国政府が香港特別行政区に贈った計4頭のパンダと2008年12月に台湾に贈った「団団(トアントアン)」「圓圓(ユアンユアン)」はいずれもこのセンターで生まれている。センターは、米国のサンディエゴ動物園とワシントン動物園、日本の神戸市立王子動物園、オーストリアのシェーンブルン動物園、タイのチェンマイ動物園、オーストラリアのアデレード動物園、香港の海洋動物園、台北動物園などの飼育機関や研究機構と長期にわたる友好協力関係を結び、科学研究スタッフの相互交流などを頻繁に行っている。2008年5月、センターは汶川大地震の被害を受け、臥龍自然保護区から同じ四川省内の雅安碧峰峡基地に移った。

 

人民中国インターネット版 2010年11月

 

 

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