島影均 呉亦為=文・写真
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大運河を頻繁に往来する平底の大型輸送船。右手は高級マンション群 | 上海のすぐ隣の浙江省は昔から海外に目を開き、対外貿易では上海の先輩格に当たる。もともと商業が盛んな地域だが、海、湖、川などの「水」の美しさに恵まれた風光明媚な場所で、ゆとりができた上海や北京の都会人がオアシスを求めて訪れている。今回、5日間にわたって同省を訪問する機会を得た。豊かな経済力を背景に、自然景観を生かし、環境保護に配慮した観光開発、歴史遺産の保全の一端を報告する。
タイムスリップを体験
約20年前に北海道新聞北京支局の記者として京杭大運河を取材したことがある筆者(島影)は、この間の変化に関心を抱き、もう一人の筆者(呉亦為)は記者として初めて取材する出身地浙江省の全体像に興味津々だった。
浙江省を漢字一字で紹介すると「水」だろうか。中でも、全長1794キロの京杭大運河はその代表だ。20年前、地元の人々は運河を水運に再利用したいと望んでいたが、今では平底の大型輸送船が頻繁に往来している。まさに波を蹴立てて疾走する中国を象徴している。
春秋時代に開削が始まった京杭大運河は、元代になって南北を貫く重要な水路となった。
運河沿いに北東へ上ると、嘉興市郊外にある水郷で有名な烏鎮に到着する。入口のイメージは、日本各地にある「時代村」風だが、その印象はすぐに間違いだと気づかされた。案内された西柵景観区は明清時代の街並みが運河に沿ってうねうねと続く。歩いているうちに、タイムカプセルに乗せられた気分になる。
ガイドによると、烏鎮にやって来る日本人観光客はまだ数えるほどのようだ。だが、日本の歴史が好きな女性「歴女」たちがここに来て、運河沿いに置かれた古木の椅子にゆったり腰掛け、運河を行き交う小船を見ているうちに、タイムスリップして、時間を忘れるのではないだろうか。しかも、ここでは庶民が普通の生活をしている。開けっ放しの窓越しに、母親にしかられたらしい男の子が泣きべそをかいているところを見た。お食事中のご家庭も。
世界に開かれた窓
浙江省は中国でもっとも島の多い省で、長さが6486キロに及ぶ全国一の海岸線をもつ。この恵まれた地理的条件を生かし、浙江省は世界に向けていち早く窓を開いた。呉の故郷の寧波市は、秦の始皇帝に仕えた徐福が日本に渡った場所と伝えられ、唐、宋の時代には「海のシルクロード」として陶磁器の輸出港でもあった。
万博でにぎわった上海と寧波の距離を120キロも縮めたのが、全長31キロの杭州湾大橋だ。2008年5月1日に開通したばかりで、上海—寧波間従来の半分以下の約2時間で到着できるようになった。また、呉が幼いころ、夏休みになると、両親に連れて行ってもらった舟山市の島々も、寧波—舟山をつなぐ五つの大橋からなる壮大な「海上大橋プロジェクト」が2009年12月に完成し、格段に近くなった。
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明清時代の街並みが残っている烏鎮は美しい江南古鎮の風景画が浮かんでいる |
浙江観光の目玉の一つは、烏鎮の古い町並みを散策し、翌朝は舟山市朱家尖島の南砂ビーチで日光浴を楽しみ、夕方、瀋家門港の露店で海を眺めながら、海鮮料理を食べるコースだろう。
詩情にあふれる風土
浙江省に来たならば省都・杭州市と西湖を訪れない訳にはいかない。我々を迎えてくれた茅臨生・浙江省委宣伝部長は「水質改善と歴史的建築物の保全に力を入れています。杭州市の発展と自然保護との調和にも配慮しています」と、力を込めて語っていた。
北宋の詩人の蘇軾(東坡)の「西湖を把(と)りて西子に比せんと欲すれば、淡粧濃抹総て相宜し(欲把西湖比西子、淡粧濃抹総相宜)」(『飲湖上初晴後雨』詩)という名句は、中国では知らない人はいないくらい有名だ。美しい西湖と楊貴妃と並ぶ美女・西施はどちらも薄化粧でも厚化粧でも素晴らしい、と言うほどの意味だ。昼下がりの西湖を屋形船で約一時間周遊した。岸辺に眼をやるとかなたの高層ビル群が城壁のように映るが、振り向くと中国情緒たっぷりの雷峰塔が歴史を物語っている。
「杭州は商業都市として繁栄していますが、西湖のおかげで天国に住んでいるような心地にさせてくれますよ」と、南京生まれで、浙江省テレビ局海外放送部の女性キャスター・王曦さんは大の杭州ファン。
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舟山市朱家尖島の「里沙」のビーチ。青い海原が一望できる |
西湖から5キロ離れたところに、中国初の国家湿地公園「西渓」がある。最近、開放したばかりで、自然状態の維持に細心の注意を払っているそうだ。今にもワニが出てきそうな黄土色の水路は静まり返り、時々鳥の声が耳に入る。両岸には野生の梅と柿の木が多く、春と秋は色彩豊かな風景を楽しめるそうだ。また、北海道に中国人観光客を呼び寄せた映画「非誠勿擾」(日本では「狙った恋の落し方」)のロケの一部もここで行われた。
奉化市から北に約6キロの騰頭村は、観光農業とCO2排出量の削減を目指す低炭素観光で成功し、上海万博の「ベストシティ実践区」に出展した唯一の村だ。ここでは、珍しい草花を観賞できるほか、自分で石臼を回したり、はだしになって水車の踏み板を踏むことができ、中国農村の伝統的な生活も体験できる。「我々は『より多くの都会人に農村生活への憧れを』をモットーにしています」と、騰頭村党支部の劉松江副書記は語っていた。
人民中国インターネット版 2010年12月
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