現在位置: 観光
ぶらり旅 浙江省・富陽市 名画を生んだ絶景の地

 

高原=文 馮進=写真

山水に恵まれた龍門古鎮

富陽市は浙江省の西部にあり、杭州市内から車でわずか40分の距離である。風光明媚で名を馳せる富春江が市内を流れるため、昔は富春と呼ばれていた。紀元前221年、秦の始皇帝が富春県を設置した。東晋の太元19年(394年)、簡文帝の生母鄭阿春のいみな(高貴な人の名と同じ字を避ける習慣)のために富陽と改名し、今日に至る。

富陽は悠久の歴史と美しい景色を持つところだが、近くの杭州があまりにも有名なため、あまり人に知られていなかった。しかし、それがために古くからの落ち着いた雰囲気を保ち続けてきたとも言える。富陽自身はそれほど有名ではないが、黄公望(1269~1354年、元代の画家・書道家)がこの地を描いた『富春山居図』は、その名を天下にとどろかせる名作である。富春江は銭塘江ほど知名度は高くないが、孫権、劉備、曹操の子孫がすべてこの川沿いの地で暮らしているという奇遇が、人々を驚かせる。

孫権の子孫が住む富陽

かつて、劉備、孫権、曹操が天下を争ったが、現在、彼らの子孫がみな富春江のほとりに住んでいるのは、偶然だろうか、それとも運命だろうか。そして、孫権の子孫が住んでいる龍門古鎮は、おそらく最も歴史が古く、古建築が最もよく保存されているところである。

龍門古鎮

富陽市の市街地から龍門古鎮へは車で約30分の距離で、東南に龍門山を控え、剡渓と龍門渓が村の北部で合流する。厳子陵(後漢の隠士)が龍門山を観光したとき、「この地は山紫水明で、呂梁龍門にも勝る」と称えたことからその名を得た。今ではこの村は、建設から1200年以上の歳月を経ている。

龍門鎮には2千数世帯、7千人あまりが住んでおり、その90%が孫姓で、孫権の子孫を自称している。現在、多くの家の門扉上方の横木に「富春孫氏呉大帝の第50ウン代のナニガシ」と書かれており、出自を誇る気持ちがこの表札にあふれている。「思源堂」で孫氏の由来と詳しい孫氏の家系図を見て、初めて孫武、孫臏、孫権、孫文が一つの家系から出たことを知った。毎年旧暦9月1日、龍門鎮のすべてのお年寄りがそろって孫権の誕生日を祝う習慣があり、長い時を経て、9月1日は伝統的な祝日となった。これらすべてから、龍門の人々の先祖への崇敬の念が読み取れる。

色濃い宗法社会の雰囲気は、純粋で親しみやすい風土を育んだ。断りもなく民家に入っても、家主はやさしく声をかけておしゃべりをしてくれる。龍門古鎮は面積がわずか2平方キロだが、道を尋ねるのをちゅうちょしていると、たちまち迷子になってしまう。それはこの鎮の構造が迷宮のように独特なものだからだ。

古鎮は孫氏の霊廟を中心とし、数百を数える明・清、民国時代の民家、お堂、祠がびっしりとその周りに集まっている。玉石を敷き詰めた小道は非常に狭く、細く長く遠くまで続いていて、両側に高く聳え立つ塀は、方向感覚を麻痺させる。また、家々が軒を連ねており、行き止まりも多いため、油断するとたちまち迷子になってしまう。そのため、村の入り口には案内板が設置されていて、「小川をたどってゆくと、古鎮を通り抜けることができる」と書かれている。しかし、問題なのは、しばしば周りの古めかしい家々に魅了され、思わず中へ入ってしまい、そこから出たときに正しい道をはずれてしまい、小川の場所さえ分からなくなってしまうことである。幸いなことに学校帰りの子どもたちに出会い、案内を頼むことができた。しかし、その子はうなずいたものの、ひとりで早足に先に行ってしまい、瞬く間に姿を消してしまった。どうしようと焦っていると、村に入ったときに通った道を発見した。この偶然に思わずほっとため息をついた。

黄公望と富陽

元代の画家黄公望は、中国絵画史上における奇人である。若い頃はちょっとした官職にあったが、上司の汚職事件に連座して入獄した。出獄後、道教全真派に入門し、名山と大河を遊歴し始めた。50を過ぎてから山水画の研究と練習を始め、趙孟頫、董源などの大家に師事し、晩年に画風を一新させ、自ら一派をなし、書道と絵画を一体化させた。彼の筆遣いは簡潔かつ計算し尽くされたもので、力強くてゆったりとした風格を持ち、後世に極めて大きな影響を及ぼしたため、「元末四大家」の首として尊ばれている。

元代の画家黄公望の隠居場所

元代の画家黄公望の隠居地の竹やぶ

70歳のとき、富春江の美景から離れ難くなり、富陽の里山で隠居生活を始めた。その場所は、現在の黄公望森林公園内である。奥深くひっそりと静まり返る竹林を抜け、山道に沿って登ると、せせらぎの音がしだいに大きく聞こえてきたが、密林の中でそれはなかなか姿を現わさない。渓流が目の前に現れたとき、「小洞天」という黄公望が隠居した場所にたどり着いた。現在「小洞天」にある何軒かの茅ぶきの家は、後世の人が復元したものである。

黄公望はここで隠居しつつ、後世に名をとどめる数多くの傑作を創作した。その中でも最も優れた作品は『富春山居図』だろう。彼は79歳からこの大作に取りかかり、7年間をかけて亡くなる直前にやっと完成させた。幅33センチ、長さおよそ6メートル37センチに及ぶ長い絵巻には、新秋の富春江両岸の美しい景色が描かれ、「絵画の蘭亭(蘭亭は蘭亭序のことで、王羲之が書いた書道史上最も有名な作品)」と称えられている。この名作を見るチャンスがなければ、富陽に行って実際の絶景を楽しむのもよいかもしれない。

 

人民中国インターネット版 2012年8月13日

 

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850