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ぶらり旅 貴州省・榕江県 大自然と共生するトン族の村

高原=文 馮進=写真

榕江県は貴州省の黔東南ミャオ(苗)族トン(侗)族自治州にあり、中国でも有名なトン族のふるさとである。ここは悠久の歴史文化を持ち、昔から、貴州省から水路で広西や湖南へ向かう際には必経の道だった。省の内外から商人たちがここに集まり、かつて「小南京」という美名で呼ばれていた。現在、榕江はその秀麗な自然景観と純朴な少数民族情緒で世に知られている。国内の観光客にとっても、異国情緒が漂う神秘的な土地なのだ。

最大の鼓楼を持つ三宝村

榕江県は貴州省の省都・貴陽市から南東へ約240数㌔のところにある。高速道路が開通するまでは、曲がりくねった山道を走らなければならず、榕江までは通常6、7時間かかったが、今ではわずか3時間の道のりだ。途中、延々と続く幾重にも重なり合う山々が目に入る。道路の80%は橋とトンネルで、一つの山を「抜ける」と、さらに多くの山々が目に飛び込んでくる。これほど多くの人々が憧れの気持ちを抱き、その姿を一目見んがために、山々を越え、苦難をいとわずやってくるとは、この「深窓の令嬢」榕江は、一体どんなに美しいのだろうかと、思わず好奇心が沸いてくる。

ガジュマルのそばに建てられたトン族の民家

榕江に入ると、まず、県都からわずか五㌔のところにある三宝トン族村へ向かった。三宝トン族村は全国でもトン族の人口密度が最も高いところで、計2600余戸あり、1万3000余人が暮らしている。伝説によると、昔3匹の龍がここで大暴れし、河道に3つの「龍宝」を残した。トン族の祖先たちは川に沿ってここに移住し、この3つの「龍宝」を囲んで、それぞれ上、中、下宝村を築いたとされ、そのため、この3つの村はあわせて「三宝トン族村」と呼ばれている。

都柳江の川辺にある榕江三宝トン族村

村の鼓楼の下で各地からの来客を迎えている、トン族のきれいな民族服を着た三宝トン族村の娘さん

民間では「トン族の村は水辺にあり、ミャオ族の村は山中にある」と言われる。三宝トン族村は都柳江支流のすぐそばにあり、美しい景色に恵まれ、その美しさは江南にも匹敵するほどだ。川のそばにガジュマルの古木がそびえ立ち、互いに根を絡ませ、枝葉を重なり合わせて、日の光を遮っている。霧雨がしとしとと降る季節、一人で川岸のガジュマルの下に腰を降ろし、遠くにかすむ山々、滔滔と流れる川を眺め、波にゆらゆらと揺れている岸辺の小舟を見ていると、「詩情に溢れる住み家」として、これにしくものはないだろうと実感した。

全国で最大のトン族の鼓楼である、三宝トン族村の鼓楼 山の中にある大利トン族村

どのトン族村にも、鼓楼と風雨橋(屋根付き橋)があるが、三宝トン族村には、全国で最大の鼓楼が建てられている。伝統的なお祭りや客人が来たときには、盛装したトン族の娘や若者たちがここに集まり、トン族の民謡を歌う。そのすばらしい歌声はまるで大自然の声のようだ。普段でも、人々は鼓楼の下に集まり、相談したり、世間話をしたり、時には昔のラブストーリーを語り合ったりする。それはトン族版「ロミオとジュリエット」、朱郎と娘美の物語で、この話はここ三宝で生まれたものとされる。

原始林の中の大利村

山あいの地にある大利トン族村は、三宝トン族村とは一味違う情緒が感じられる。三宝トン族村は川辺の比較的開けた場所にあり、広々とした印象がある。交通が便利なので、人も多い。しかし、大利トン族村は、県都の榕江から約25㌔離れていて、車で1時間かかる。しかも、登り下りが多く曲がりくねった狭い山道なので、中型バスより大きい車は通れない。そのせいで観光客が少なく、ここはまるでこの世と隔絶した桃源郷のようである。

大利トン族村の風雨橋

家で布を織る大利トン族村の女性たち

道中、ようやく眠りに着いたばかりのころ、車が激しく揺れ、目が覚めた。窓から外を見ると、山奥にそびえ立つ大きな鼓楼が突然目に入った。周りは山々とうっそうと茂る木々ばかりで、鼓楼以外に、人類の活動による形跡は何も見えない。車が山道に沿って下っていくと、鼓楼の下にあるトン族の村がだんだんと見えてきた。密集する吊楼(柱で支え水上に建てられた家)が見え、それに遮られて、村を流れる渓流や五つの美しい風雨橋は見えない。原始林に囲まれて生きるこの村の人々は、自然の偉大な力を強く感じていることだろう。劣悪な自然条件に直面すると、人々は互いに支え合って、初めて生きてゆけるものだ。

トン族のお兄さんが弾いている楽器に興味しんしんの観光客。この楽器は「牛腿琴」と呼ばれ、梨の木で作られた、トン族の特色ある伝統的な楽器

清の乾隆45年(1781年)に建てられた大利トン族村の楊家。中央の庭を囲んで4棟の建物が建てられる伝統的な四合院形式で、3階建ての木造建築。建築面積は827平方㍍。かつて3代14家族93人がここに暮らしていた

しかし、現地の人々の考え方は、明らかに私たち外来者とは異なるようだ。彼らから見れば、人間と自然は対立するものではなく、互いに依存し合うものなのだ。トン族の人々は、「年配者が村を守り、古樹が村を護ってくれる」と信じている。大利村の周辺5㌔以上が原始林で、村の中には渓流や田んぼ、滝、古樹、家屋、橋がごちゃまぜになって存在する。彼らに周りの自然環境を改造する力がないわけではなく、こうした自然との共生を楽しんでいるように見える。

大利村の人々は静かで質素な生活を送っている。普段から伝統的な服を着て働き暮らしている村の若者は、出稼ぎに行き、現代風のカジュアルウエアを好んで着る他の農村の若者とは大きく異なる。

静かな大利トン族村

山から刈って来た豚の飼料となる草を担ぎ、山道を下る大利トン族村の女性。背中には赤ちゃんも

そのためだろう。大利村にやって来たある旅人は、ネットにこう書き込んでいる。「大利村はとても美しいが、私たちは人には薦めたくない。現代社会から来る多くの観光客に、ここの人々の生活をかき乱させたくないからだ」

 

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