かつて1950年代までは黄河にかかる橋がなく、鉄道や道路が整備されていなかったため、羊皮のいかだは黄河両岸に暮らす人々にとって貴重な交通手段だった。その後、交通の発達につれ羊皮いかだは急速に減少したが、近年になって観光業の隆盛によってよみがえり、人気を集めている。
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羊皮いかだの作り方を説明する尚可平さん |
甘粛省白銀市景泰県中泉郷にある景泰黄河石林の景勝地区内に、山と川に囲まれた龍湾村がある。村人の尚可平さん(60歳)は10代から羊皮いかだづくりを学び始め、40年以上のキャリアを持つ。尚さんの話によると、秋、冬になると羊が肥えて食用にされ、羊皮が大量に供給されるため、龍湾村の村民は、秋から冬にかけて羊皮いかだを作り、春と夏には羊皮いかだを操って、観光客を迎える。「2011年の冬に、わしは一人で80乗の羊皮いかだをこしらえたものさ」と尚さんは誇らしげに話す。
羊皮いかだは大小さまざまだ。最大のものは600枚以上の皮を使って作られ、6人で操る。龍湾村で作られるのはみな14枚の皮を使った普通のもので、一人で操ることができる。
羊皮いかだの製作には、20以上の工程が必要だという。まず、羊の頭のてっぺんから爪先までを皮を傷つけないようにすっかり剥ぎ取る。剥ぎ取ったばかりの皮をビニール袋に包み、夏は24時間、冬は1週間程度置く。熱く湿度が高い環境で毛を抜けやすくするためだ。これによって、半透明な皮が出来上がる。四肢の一つを穴として残し、首の部分や四肢を麻の糸と木の棒でしっかりと固定する。残した穴から空気を吹き入れるが、これにもこだわりがあり、エアポンプを使わず、口で皮の袋を膨らませなければならない。尚さんによると、エアポンプで空気を吹き入れた皮は、人間の口で膨らませたものより腐りやすいという。皮の腐食や乾燥によるひび割れを防ぐためには、月に1度、皮の袋にごま油と塩水を入れるのが秘訣だという。
14枚の皮を風船のように膨らませた後、木製の枠を作る。防腐性が高く柔軟性のある柳の木は、枠には理想的な材料だ。14枚の膨らんだ皮をつなげて枠に固定し、松の木で作った櫓を備え付けると、羊皮いかだの完成だ。
龍湾村には現在200個以上のいかだがあり、主に観光項目に使われている。いかだ以外には、動物の引く観光車両もあり、「農家楽(郊外の農家の自宅で食事、宿泊、観光などを提供する民宿)」もある。村人すべてが観光業に就いていると言っても過言ではない。これらの観光は黄河石林景勝区管理委員会が管理し、価格も統一されている。村と景勝地区は一体となり、相互にサービスを提供しており、観光環境がよく整備されている。(文=李明慧 写真=魯忠民)
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尚さんはいかだを操って、黄河で観光客にサービスを提供し、妻と息子夫婦は「農家楽」を経営する。観光業の発展につれ、龍湾村の人々の暮らしはますます豊かになっている |
景泰黄河石林景勝地区
景泰黄河石林景勝区は白銀市景泰県の南東部にあり、面積は10平方メートルだ。100~200万年前に、れき岩や砂岩などの岩石層が流水に侵食され、地殻の運動と風化の影響を加えて、「山の群れ・山の森林・山の柱」という独特な地形を形成した。
広大な古石林群、曲がりくねって流れる黄河という独特な自然景色を持つ景泰黄河石林は、映画やドラマの人気撮影スポットとなっている。2005年上映した映画『THE MYTH/神話』で、ジャッキー・チェン扮するモンイー(蒙毅)将軍がユシュウ(玉漱)姫を救う危機一髪の場面もここで撮影された。 |
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