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キンモクセイ香る桂林公園の秋

高原=文・イラスト 馮進=写真

日本人は春に花見をして桜を楽しむが、上海人は秋に桂花(キンモクセイの花)を愛でるのを好む。毎年の9、10月に入って、桂林公園からキンモクセイの花の香りが漂って来ると、人々はキンモクセイの花を眺め、桂花茶を味わう時期が来たことを知るのである。「金秋賞桂」(秋にキンモクセイを愛でる)の風俗は、五代(907~960年)から続くもので、古人の詩『採桑子』には次のような一節がある。「枝頭万点粧金蕊、十里清香。十里清香、解引幽人雅思長」(小さなキンモクセイの花が枝いっぱいに咲き、遠く十里も香るようで、浮世を離れて暮らす私にも深くみやびやかな思いを抱かせる)

キンモクセイを観賞するとは、その花の細やかさを見るだけではなく、その豊かな香りを味わい、心地よい秋を感じ取ることなのだ。

香る二十種千株の桂花

上海でキンモクセイの名所といえば桂林公園である。ここは以前、旧上海租界で警察署長を務めた黄金栄の別荘だった場所で、「黄家花園」と呼ばれていた。1931年に造られ、四年を経て黄氏の祠堂や墓地が拡張・整備され26.41ムー(約176アール)の庭園となった。完成時には蒋介石をはじめとする名士・高官が相次いでお祝いに訪れ、たいそうにぎわったという。

桂林公園には、「金桂」(ウスギモクセイ)、「銀桂」(ギンモクセイ)、「四季桂」(四季咲きモクセイ)など二十数品種のモクセイが千株以上植えられ、桂樹の森を形作っている。中秋のころにはそれらが花の盛りを迎え、桂花祭りの催しも開かれるため、花を目当ての客がどっと押し寄せ、縁日のような賑わいを見せる。

濃厚な香りを放つキンモクセイ

四教庁では人々が緑茶を楽しむ姿も見られる

桂林公園は、江南の伝統的庭園の構造を踏襲した庭園である。園の周囲は花窓つきの龍壁となっており、園内には流水が配されている。橋、楼台、小道が続き、木や花が茂っている。園内では、特に「四教庁」「長廊」「頤亭」「鴛鴦楼」の四カ所が花を見るのに絶好の場所とされている。

四教庁は公園の中央にある。磚木構造(外壁などにレンガ、梁や窓には木材を使う建築)で、東西南北すべての方角に窓があることから、四面庁とも呼ばれる。ここは主人が講義をしたり、大きな宴会を催した場所で、公園全体でも最も精巧に造られている。名前は『論語・述而』のなかの「子以四教、文行忠信」(子、四つを教う。文、行、忠、信)から取られている。いわゆる「文行忠信」は、君子は態度が穏やか、ふるまいが上品で品行方正、誠実で信頼できるべきという意味である。現在は茶室に改造されており、観光客が一服してお茶を味わい、暖かい秋の日差しを楽しむことができるようになっている。

四教庁から北西に進むと、「百転千回」の回廊がある。このいく度も曲がる長い回廊は、木造で全長60余メートル、「九曲長廊」とも呼ばれる。回廊の南北両端と中間にそれぞれ「六角亭」(六形のあずまや)があり、ここは景色が最もよく、観光客が集中する場所になっている。六角亭の高さは5メートル、角部分は斗栱(釘を使わないます組み)構造である。屋根は石の蓮花座として置かれ、座の上にはひょうたん状の承露盤がある。回廊の中間には、「八角腰亭」という名のあずまやがあり、高さは約十メートル、屋根には四つの龍の頭が彫刻されており、「多角龍頭亭」とも呼ばれる。それは四面が開けており、南北の両側は回廊とつながっており、東南は園内の小道に通じていて、上海の亭榭建築(あずまやや楼閣)のなかでも傑作とされている。

貴重な収蔵品と「私房菜」

さらに西北に進むと、西北の隅に頤亭が見えてくるが、これは園内でも最も特色ある建物である。長方形の池の中央にあり、南北には平らな橋が架けられていて陸地とつながっている。まるで水上に輿を浮かべたようで、「水上轎楼」とも呼ばれる。この頤亭は非常に奇妙な感覚を持たせる建物だ。その屋根は中国式あずまやの形状で、屋根より下の部分と室内の構造は西洋式となっている。亭であって亭にあらず、中国でもなく西洋でもない建物は、まるで瓜皮帽(中国式の半球型の帽子)をかぶって、洋服をまとい、素足でたらいの上に立っている怪人のようだが、それでいて独自の風格も持っているのだ。

独特な形をした頥亭は公園の北西にある

ほかにも、園内には上海十大会所(クラブハウス)の一つに数えられる桂林公館がある。その中心的建築は鴛鴦楼で、文字通り左右対称で外観を同じくする二棟の建物である。いちばん下の階は「槐蔭堂」と呼ばれ、主人が家族や親しい客と会う場所であった。現在の鴛鴦楼には新しい主人の各種貴重な収蔵品が納められている。例えば虞公窯(広東省石湾の著名な陶芸作品の産地)の巨匠の作品のほか、アンティークの化粧台、八仙卓(四方形のテーブル)など、ややもすれば数十万元の価値のある明清時代の家具が並ぶ。

このような会所で広東料理の私房菜(プライベートキッチン料理)を味わうなら、実にぜいたくな体験となるだろう。ここはレストランになっており、ツバメの巣、アワビ、フカヒレで有名だ。アワビは日本産の最高級品、ツバメの巣はインドネシアから運ばれたものだ。「時ならざるは食らわず」、つまり季節はずれは食べないという自然飲食理念で提供される、独特の中国料理「桂花宴」は、上海でも独創的な、キンモクセイの花を美食に取り入れた特別の趣がある料理である。

 

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