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「下河迷倉」劇場 ブロードウェーへの夢

 

高原=文・イラスト 馮進=写真

ある角度から見れば、上海とニューヨークにはよく似た点が少なくない。ともに繁華な商業・金融都市であり、長い歴史を誇る遺跡などは存在しないにもかかわらず、旅行者が多く訪れる観光都市でもあることが最大の共通点だろう。またニューヨークと言えば、すぐにもブロードウェーを思い浮かべる読者も多いのではないだろうか。さまざまな劇場が集中し、とりどりのステージで世界中の観光客や演劇好きを引き付け、さながら「演劇の聖地」の観があるが、上海でもブロードウェーにならって今、新しい演劇活動が始まっている。それが「現代演劇バレー」である。上海市静安区付近の劇場と上海戯劇学院、それに市中にある多くの演劇スタジオが連合して、上海にもブロードウェーのような演劇地区を作ろうとの試みである。

2009年、「現代演劇バレー」はブロードウェーから劇団を招いてミュージカル『ブロードウェーの夢』を上演した。それは、劇中の少女が夢見るのと同じように、上海の演劇人が寄せるブロードウェーへの熱い思いを表していたのである。

舞台の上も下も演劇好きの若者

海には「現代演劇バレー」のほかにも、民間の小劇場があり、それぞれの演劇への夢を追い求めているが、そのなかでも出色の存在が「下河迷倉」である。

上海市街区の南西部に位置する「下河迷倉」劇場は、外見は四階建てのただの古い倉庫で、掲示板や廊下の壁に所狭しと貼ってあるさまざまな演劇のポスターだけが、この小劇場の隠された中身へのヒントを与えてくれる。

三階の劇場に上がると、入り口にはバーのカウンターがあり、奥に行くと小さな舞台が目に入る。真っ黒のセットに灯りが映り、神秘的な雰囲気をかもし出している。取材に訪れたのは夕方で、ちょうどあるアマチュア劇団が19世紀ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナーの『ボイツェック』のリハーサルをしていた。団員の中でプロは監督だけで、ほかはサラリーマンと学生ばかりだ。多くの若者がここに集まり、論争したりくつろいだりしながらも、真剣にセリフ合わせをしていた。夜は本番だというのに、セリフをちゃんと覚えていない者もいる。それでもかまわない。観客は団員と同じような若い演劇ファンだからだ。彼らはネットで「下河迷倉」の公演情報を手に入れ、無料の芝居公演を楽しみに上海市内のあちこちからこの町外れの倉庫へとやって来る。実は、公演より舞台がはねたあとのパーティーの方がにぎやかなのだという。

上海演劇の将来を語る経営者

スタッフに案内され、舞台裏で経営者の王景国氏と会った。上海戯劇学院を卒業した王氏は長年の米国生活を経て、1998年に上海に戻り、「真漢コーヒー劇場」を開いた。創業当初から、舞台を楽しんだり、コーヒースタンドで芸術を語り合ったりする場所を作るのが経営目標だった。しかし、演劇を見に来る人はどんどん増えるものの、ほとんどがお金のない人たち。逆に、コーヒーを飲む人たちはあまり演劇を好まない。その結果、この試みは失敗してしまった。

「文化と商売は分けなければならないと反省しました。文化は金もうけではなく、金を使うものだ、ということに気づかされたのです。外国には多くの基金があり、お金持ちが芸術家の創作に投資したり、才能を開花させる場を作ったり、作品のピーアールにも力を尽しています。この方法をまねてみたのが『下河迷倉』です」と、王氏は語ってくれた。

「下河迷倉」の創始者で経営者の王景国氏

ほかの小劇場と違って、「下河迷倉」での演劇活動はすべて無料だ。主に実験演劇の公演を受け入れているが、アマチュア劇団にも開放している。アマチュア劇団は無料でリハーサルや公演に使い、また入場者も演劇を無料で見ることができる。王氏は、本業の傍ら演劇を楽しむ青年たちは、演劇に対して熱狂的な感情を持ち、奇抜な創造力を秘めている、と考えている。演技はまだ未熟だが、彼らの演劇に対するユニークな見方は、演劇専攻の学生たちにはないものなのだ。彼らの中から未来の演劇大家が誕生するかもしれない。そう考えている王氏は経営している広告会社の利潤で劇場の経費をまかない、演劇マニアたちが外界からの干渉をなるべく受けずに演劇に専念できるようにしている。

うれしいことに、今の上海ではアマチュア劇団の数は3、4年前の3、5社から4、50社に増えた。脚本、演出のレベルが高水準に達している劇団も十数社に上り、どの劇団も「下河迷倉」とは切っても切れない縁で結ばれている。毎年、地元上海の劇団が「下河迷倉」で「秋収季節(秋の収穫祭)」と題して演劇祭を主催しているが、それに合わせて、全国各地や海外からも青年劇団がここを訪れ、演劇を披露する。集中的に演劇鑑賞を楽しめるまたとないチャンスなのだ。

観光産業との連携にも意欲

観客数がまだ限られている実験演劇だが、王氏はブロードウェーへの夢を決して捨ててはいない。どこか矛盾するようだが、王氏はそうは思っていない。

「ブロードウェーには『オペラ座の怪人』『キャッツ』のような世界的にヒットした演劇だけでなく、非主流演劇を上演する劇場も数多い。毎日、さまざまな劇場がさまざまな演劇を上演している。そうしてこそ、過当競争を避け、すべての劇場が共存できるのだ。中国ではある種の演劇が評判を取ると、蜂が蜜に集まるように、一気に20回も上演し、反響がなければ中止してしまう。逆に、反響が良ければさらに10回も延長し、劇場の日程に合わなければ、別の劇場に移動して上演を続ける。こんなやり方では、いつまでたってもブロードウェーになれるわけがない」と、王氏は嘆く。

真剣にセリフ合わせをするアマチュア劇団の若い団員たち

また、現状を変えるためには劇場経営と観光産業を結び付けなければならない、というのが王氏の持論だ。ブロードウェーでは観客の80%は観光客で占められている。王氏は観光産業との連携を目指し、上海市の関連部門と接触し始めている。「下河迷倉」の公演スケジュールを半年先まで決め、旅行会社と契約を結べば、劇場の経営を安定軌道に乗せるのも決して夢ではないのだ。

 

人民中国インターネット版 2010年11月

 

 

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