「平和的強国」を目指す中国
日中友好協会全国本部参与・西園寺一晃
昨年中国では新しい指導部が船出した。手続きを経た、平和的交代は称賛に値する。中国が責任ある大国として、自らの発展を実現するとともに、アジアと世界の平和と安定に貢献することを切に望む。
習近平体制の発足は、希望に満ちている半面、多くの課題と困難を背負っての門出でもある。現代化はまだ道半ばであり、発展途上には格差、環境、エネルギー、少子高齢化など解決しなければならない問題が山積している。今後の道のりは必ずしも順風満帆ではないだろうが、是非成功してほしい。
世界で最も厳しい中国評価
それにしても、日本のメディア、評論家の中国評価は世界で最も厳しいのではないかと思う。中には故意に中国をおとしめるような言論もあり、中国攻撃を生業にしている「反中国屋」も少なくない。電車の吊り広告を見ても、本屋で書籍を見ても、中国に関し「失速」、「終焉」、「破滅」などの文字が躍っている。いわく「中国破滅論」。一方で、中国を過大に描き、あたかも日本に攻めて来て、アジアをのみ込む如く恐怖を煽っている。いわく「中国脅威論」。
「中国破滅論」について言えば、少なくとも権威ある国際機構やグローバル企業はそうは見ていない。昨年1月に発表されたHSBCレポートによると、2050年の各国GDP(国内総生産)を次のように予測している。1位中国25兆3300億㌦、2位米国22兆2700億㌦、3位インド8兆1600億㌦、4位日本6兆4200億㌦、5位ドイツ3兆7100億㌦。また昨年11月に発表されたOECD(経済協力開発機構)の超長期予測によると、2060年の各国のGDPが世界に占める割合を中国28%、インド18%、米国16%、EU9%、日本3%としている。そして、早ければ2016年にGDPで米中が逆転するだろうと予測している。これら権威ある機構は中国経済が「破滅」どころか、基本的には順調に伸びて、世界の頂点に立つと読んでいる。もちろん50年後のことは誰も予測するのは難しいが、よほどの事件―大戦争とか大災害などがなければ、中国はまだまだ発展するというのが客観的な見方だろう。
「中国脅威論」がまた勢いを増している。内容は相変わらず2つだ。1つは「中国経済脅威論」、もう1つは「中国軍事脅威論」である。グローバル化した世界では、どの国も一国では生きてゆけない。米国然り、中国とて同じだ。世界は競争と相互依存の中で生きている。米国経済やEU経済が問題を起こせば、それは世界経済に悪影響をもたらし、中国の輸出が減速する。中国経済が問題を起こせば、世界経済に多大なマイナスをもたらすだろうし、逆に中国経済だけが一人勝ちすることなどあり得ない。日中経済の相互依存関係がこのことを雄弁に物語っている。相互依存、相互協力こそ生き残り、発展する道だ。
批判されるべきは覇権主義
「中国軍事脅威論」は確かに日本社会に一定のマーケットを持っている。それは、中国の発展に伴い、国防費が年々大きく伸びているからであり、それをことさら過剰に問題にする軍事評論家、メディアがあるからだ。この問題について、視点を変えて考えてみる必要がある。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)によると、各国の2011年の国防費は、米国6896億㌦、中国1293億㌦、ロシア641億㌦、フランス582億㌦、英国579億㌦、日本545億㌦。確かにここ10年間の中国国防費の伸びは急速で、日本の倍になった。では国防(国防費)は何のためにあるのか。それは国土(領土、領空、領海)と国民を守るためである。日中を比較すると、中国の国土は日本の26倍、人口は10倍だ。単純に考えれば、中国の国防費は日本の10倍あってもおかしくない。相対的に見るなら、現在はまだ日本の国防費の方が多いとも言える。しかし問題は国防費の額ではない。国防費の多少にかかわらず、軍事力を背景に覇権主義をやるなら、それはどの国も非難されるべきだ。専守防衛に徹するなら、国防費がどのくらいあろうと非難されるべきではない。
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3月11日、全人代解放軍代表団全体会議に出席後、軍各層の代表と懇談する習近平党軍事委員会主席(新華社) |
鄧小平氏は、中国が強国になっても決して覇権主義をやらないと言った。敬服すべき発言であるが、鄧小平氏はすでにいない。覇権主義をやるかどうかは中国の若い世代にかかっている。
愛国主義と国際主義の両立
人類史上、多くの強国が現れた。古くはローマ帝国から、近現代においてはスペイン、ポルトガルから英国、フランス。そしてドイツ、イタリア、日本。近くはソ連、米国だ。これらの国のタイプは異なるが、共通点がある。それは対外侵略、覇権主義をやったことだ。中国は近い将来必ず強国になるだろう。その時、鄧小平氏の言った通り覇権主義をやらなかったら、人類史上初めて「平和的強国」が出現することになる。
習近平指導部が、鄧小平氏の教えを守り、愛国主義と共に国際主義を掲げ、平和的強国の建設にまい進することを望む。
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西園寺一晃 (さいおんじ かずてる) 1942年東京生まれ。 1966年に北京大学経済学部政治経済科卒業。 1971年から2002年まで朝日新聞社に勤務。 現在は日本工学院大学孔子学院院長、東京都日中友好協会副会長、北京大学客員教授、中国伝媒大学客員教授などを務めている。 |
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