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これが中国式大学受験『青春派』

文・写真=井上俊彦

 ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター
現在の大学入試事情をリアルに描写

今年行われた第16回上海国際映画祭映画チャンネル・メディア大賞の最優秀作品賞と最優秀男優賞を受賞した作品です。上映開始後に話題になって最初の週で1500万元の興行成績を記録し、さらにじわじわ客足を伸ばしています。

居然(ドン・ズージエン)は16歳ですが飛び級しており今年が受験。ところが受験5日前に2歳年上の同級生黄晶晶(アン・ユエシー)に告白、学校中を大騒ぎさせます。激怒した母親に外出禁止を言い渡された居然ですが、彼女に会いに行くために部屋を抜け出そうとして窓から転落し骨折、受験は失敗に終わり、留年することになります。失恋と受験失敗で傷ついた居然は、新しい同級生とはぶつかりながらも友情を育み、鬼担任の(チン・ハイルー)の指導のもと立ち直るかに見えましたが……。

日本にも大学受験をテーマにしたマンガやドラマがありますが、中国独特の大学入試統一試験「高考」を背景にしたドラマは、外国人の私には極めて興味深いものがありました。教室の各生徒の机には参考書や問題集がうず高く積まれ、夜遅くまで教室に残って受験勉強をする様子が描かれます。ほかにも、統一試験で入学する大学が決まってしまう一発勝負の厳しさや、浪人ではなく留年で次年度の入試をめざすなど、日本との違いがいろいろ見られます。そして、学校のそばに部屋を賈って母親が住み込むなど、一人っ子家庭の親が受験にかける執念は日本人の私にとっては思わず引いてしまいそうなほどのすさまじさです。さらに、鬼担任が生徒たちを叱咤する言葉のすごいことといったら、「1点多く取れば1万人を蹴落とすことができるのよ!」「あなたが死ぬ思いで頑張れば、一家が幸せになれるのよ!」などなど、こんなプレッシャーの中で受験に向かう中国の高校生に少なからず同情してしまいました。

 夏休みを迎えてにぎわう捜秀影城のロビー

 映画館併設のゲームコーナーも、子どもたちや若者で大にぎわい

ドラマを引き締めるチン・ハイルーの役者根性

そんな強烈な台詞を連発する鬼担任を演じたチン・ハイルーが、若い俳優が多い作品をぐっと引き締めています。彼女がひとりいるかいないかで全然違ったドラマになっていたと思われるほどの存在感で、彼女の素晴らしさを再認識した思いです。なんでも監督に「学校の先生というのはけっこう太っているよね」と言われて12キロ増量して撮影に臨んだそうで、確かにスクリーンの中の彼女は顔がまん丸で迫力満点です。

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捜秀影城の入るビルは下の階がショッピングフロアーやグルメフロアーになっている。写真は1階フロアーの様子

ストーリーに特別なひねりはありませんが、最後までしっかり見られる物語でした。ただ一部、伏線がそのまま捨てられているような部分があったのが気になったのですが、監督や主要キャストを招いた映画チャンネルのトーク番組で、監督がクランクアップ間近になって大きな変更を行ったことを告白していて、なるほどと思った次第です。結末を変更したようですが、もともとの結末がどうだったのかも見てみたい気がしました。

ところで、台湾の映画監督ホウ・シャオシエンが最後に登場するサプライズがありました。数学の先生に扮した監督がちょっとした台詞を話しながら黒板に図を描くだけですが、これが最後の笑いのポイントになっています。これから見る方には、本編が終わったと思ってもすぐに席を立たないことをお勧めしておきます。

映画館に向かう途中のトロリーバスの中で「Wi-Fi(ワイファイ)」が使えることを知らせる掲示を発見。こうしたサービスの充実が進む北京

最後に文句をひと言。誰がつけたのか、タイトルがまったくイケていません。青春派の「派」は食べる「パイ」の音訳にも使われますし、ポスターもご覧の通りですので、『アメリカン・パイ』のような学園コメディーを連想したのですが、実際にはコメディー・タッチではあるものの、大学入試をめぐる奮闘の青春ドラマでした。内容に沿ったタイトルをつければ、もっと観客に支持されたのではないかと残念に思います。

【データ】

青春派(Young Style)

監督:リウ・ジエ(劉傑)

キャスト:ドン・ズージエン(董子健)、チン・ハイルー(秦海璐)、アン・ユエシー(安悦渓)、シー・ルートン(郄路通)

時間・ジャンル: 91分/ドラマ、青春

公開日:2013年8月2日

 

捜秀影城

所在地:崇文区崇外大街40号捜秀城9階

電話:010-51671298

アクセス:地下鉄2号線・5号線崇文門駅下車、崇文門外大街を南へ徒歩5分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年8月8日

 

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