文・写真=井上俊彦
ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
|
ポスター |
「夏のバレンタインデー」に公開の恋愛ドラマ
夏休みも終盤に入りましたが、外国映画では『パシフィック・リム』が8月18日までに興行収入6億5000万元の大ヒットとなっています。国産映画では、このコラムでも紹介した大ヒット作の続編『小時代:青木時代』が同じく2億8000万元、『ソフィーの復讐』のジン・イーモン(金依萌)監督が前作では敵役だったファン・ビンビン(范冰冰)を主演に据えた『一夜驚喜』が1億4000万元とヒット中。先週末公開でダンテ・ラム(林超賢)監督が総合格闘技に挑む男たちを描いた『激戦』も週末だけで5000万元以上と好調な出足を見せました。どれも見どころがあり楽しい作品でした。
そして、それらにまじってなかなか健闘しているのが8月13日の七夕(農暦で7月7日)公開となった『宮鎖沈香』で、6日間で4600万元を記録しました。ご案内のようにこちらでは七夕は「夏のバレンタインデー」扱いですから、恋人同士で見る映画として人気を集めているようです。
清の康熙帝の時代、13歳で宮女になった沈香(チョウ・ドンユィ)にとって同じ宮女の瑠璃(チャオ・リーイン)だけが友だち。ある日、彼女は第13皇子胤祥(チェン・シャオ)を見て幼い胸をときめかせます。やがて年月が経ち、ある夜胤祥の亡母の導きのように再会したふたりはお互いに心引かれますが、彼女が顔を隠していたために胤祥は彼女が瑠璃だと誤解します。瑠璃は第9皇子胤禟(チュー・ズーシャオ)と関係を結んでいましたが、誤解につけ込み胤祥との婚約に成功します。その頃、第4皇子胤禛(ルー・イー)と胤禟の熾烈な後継者争いが始まっていました……。
|
|
UME華星国際影城は今年上半期の映画館別興行収入ランクで全国第9位に入った人気シネコン |
1階にはチケット売り場と大きなホール。ほかのホールは2、3階に配置されている |
チョウ・ドンユィが「古装片」に初挑戦
『宮○○○』というタイトルはいわゆる宮廷ドラマの代名詞になっています。ヤン・ミー(楊冪)が主演した『宮鎖心玉』など『宮~』の名を持つ一連の作品を手がけてきた脚本家・プロデューサーの于正が、この作品で銀幕に進出しました。全体のストーリーには特に驚かされるようなものはなく、私は宮廷ものに厳格な考証を求めるタイプではありませんが、それでもご都合主義が出すぎのように感じます。
|
|
最近はネットでチケットを購入して来場する観客も多いようで、入口には各社の端末が置かれていた |
夏真っ盛りの中関村南路では甘いハミ瓜が売られていた |
一方で、細部ほどていねいな描き方がされており、次々登場する細かな事件に引き込まれ、次はどうなるのか見続けてしまいました。そして、チョウ・ドンユィの演技です。『サンザシの樹の下で』の時の可憐さはチャン・イーモウ(張芸謀)監督の演出力によるものと思っていたのですが、どうもこの役者さんはただものではなさそうです。天真な笑顔や“べそをかく”という言葉がぴったりする泣き顔、苦しみに耐えるけなげな表情に、観客は放っておけない気持ちにさせられます。まだ北京電影学院の学生さんのはずですから、今後が楽しみです。また、相手役のチェン・シャオは辮髪でも男前が下がらないイケメンで、アクションから失明後の表情までなかなかの熱演です。さらに、美術の素晴らしさも大きな魅力になっています。特に宮女や側室たちの衣装の美しさは一見の価値ありです。旗頭のつけ方などがさりげなく紹介されてるのも、宮廷ものファンにはたまらないところでしょう。
|
七夕の次はもう中秋節。映画館の1階にあるアイスクリーム店では、中国ですっかりおなじみになった「アイス月餅」の宣伝ポスターも見られた |
この作品では康熙帝から雍正帝への皇位継承をめぐる骨肉の争いが描かれますが、これはたびたび映画やドラマで使われてきたものです。日本で評判になったドラマ『宮廷女官若曦(ジャクギ)』がまさにそうでした。そして、日本で『宮廷女官若曦(ジャクギ)』に続いて放送されている『宮廷の諍い女(いさかいめ)』はそれに続く雍正帝の時代を背景にして、中国大陸部だけでなく台湾地区や東南アジア地域でもブームになりました。今、なぜ中国宮廷ドラマが幅広く支持されるのでしょうか? 『人民中国』9月号では監督インタビューを含めたレポートを行っています。関心がおありの方は9月初旬発売の本誌をご覧ください。
【データ】
宮鎖沉香(The Palace)
監督:パン・アンズ(潘安子)
キャスト:チョウ・ドンユィ(周冬雨)、チェン・シャオ(陳暁)、チャオ・リーイン(趙麗穎)、チュー・ズーシャオ(朱梓驍)、ルー・イー(陸毅)
時間・ジャンル: 115分/古装、愛情、青春
公開日:2013年8月13日
UME華星国際影城
所在地:北京市海淀区双楡樹科学院南路44号
電話:010-82112851
アクセス:地下鉄4号線人民大学駅B口から三環路を東に徒歩2分
|
|
プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。
1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。
現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2013年8月20日
|