文・写真=井上俊彦
ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
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食卓の背景にある家族の複雑な思い
9月19日は中秋節でした。中国では丸く大きな月は家族団らんの象徴であり、中秋節は家族で食事をする伝統があります。そして、これにちなんだ映画も公開されています。『団円』は『再会の食卓』の名で日本でも公開されました。2010年のベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した作品ですが、中国での公開はこの時期になりました。特に中秋節が舞台になっているわけではありませんが、中秋節は団円節とも言われ、団円は離散した家族や夫婦が再会する場合によく使われる言葉です。
すでにご覧になった方もおられるでしょうから簡単な紹介に留めておきますが、国共内戦で両岸に離れ離れになった妻を、台湾地区に住む夫が数十年ぶりに訪ねて来る物語です(日本では40年後の再会と解説がありましたが、1999年竣工の金茂タワーが登場しますから50年以上の計算になります)。上海で再婚し穏やかに過ごしている老婦人を訪ねてきた国民党退役軍人の元夫は、彼女を連れて帰りたいと申し出ます。彼女の娘たち家族は猛反対しますが、ただ現在の夫だけは離婚に同意します……。
両岸に離れ離れになった家族、恋人の再会を扱った作品はこれまでにもありましたが、この作品では、歴史と運命に引き裂かれて半世紀を経てもお互いに強い思いを持つ老人たちと、高度経済成長の中で暮らし損得関係に強く家族関係に淡白な若い世代が並行して描かれるのが印象的でした。みなを同じ食卓に着かせることによって、それぞれの違った思いが背景にあることを浮き上がらせていくワン・チュエンアン監督の手法が見事です。特に、屋外での食事の途中で雨が降り出し、誰もいなくなった食卓だけが映し出されるシーンが強く心に残りました。
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いよいよ国慶節が迫ってきた北京市内では作業員が紅灯篭(ちょうちん)の飾りつけに追われていた |
市内の歩道橋にはすでに国慶節を祝う文字が登場 |
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成都-台北直行便は当たり前の時代!?
一方、『愛別離』では現在の台北と四川省を舞台に3組の若い男女の愛の形が観客に提示されます。交換留学生として台北で1年間を過ごした小萌(チャン・モン)は明日帰国ですが、好きになった彼は見送りにも来ません。バスケット仲間の小四(ワン・インカイ)が、飛行機の出発まで24時間付き合うと申し出、ふたりは彼女の思い出の場所をめぐり、郊外の陽明山で満月を眺め日の出を待ちます。実は、小四はずっと小萌のことが好きだったのです……。次は成都が舞台です。結婚2年になる人気歌手の小佳(リャオ・ティンルー)と小説家の小剛(ホアン・ユエ)は極秘離婚の前日に、ネットで人気のトーク番組「黄金夫婦のプロフィール」からの出演依頼を受けます。仕方なく出演するふたりですが、司会者の質問にまじめに答えるうちに……。3つ目は、自分のせいで恋人を事故死させたという悔恨から抜け出すことができない思雨(チョウ・ユートン)の物語です。医師の勧めで思い出の九寨溝を旅する中で、彼女はガイドの多吉(スォランニマ)らさまざまな人と出会い、自分を見つめ直していきます……。
私には第2のエピソードが心に響きましたが、グループで鑑賞していた大学生たちには、台湾地区の流行や風俗が見られる第1のエピソードが面白かったようです。台北は彼らにとってどんどん身近になっているのかもしれません。『再会の食卓』では、会いたくても会えない数十年を過ごした夫婦が登場しますが、『愛別離』の留学生は乗る飛行機が直行便なのかという質問に、当然よと笑います。彼女のくったくない笑顔に、両岸の距離の大きな変化を感じないわけにはいきません。
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故宮の西の角楼前は、名月をカメラに収めようという人たちでこのにぎわい |
9月19日の中秋節は夜になって晴れ、見事な満月が見られた |
この作品には家族団らんのシーンはありませんが、登場人物が満月を見るシーンが何度か出てきます。3つのストーリーはどれも完全なハッピーエンドではありませんが、丸い月はカップルの行方に明るい希望を感じさせてくれます。『愛別離』のタイトルは、仏教で言うところの「愛別離苦」(愛するものと離れる苦しみ)のことですが、ここではむしろ「愛就別離」(愛しているなら離れないで)という気持ちが込められているようです。なお、九寨溝での映画ロケは『英雄~HERO~』(2002)以来だそうです。
【データ】
団円(Tuan Yuan/『再会の食卓』)
監督: ワン・チュエンアン(王全安)
出演:リン・フォン(凌峰)、リサ・ルー(盧燕)、モニカ・モク(莫小棋)
時間・ジャンル: 97分/ドラマ・家族
公開日:2013年9月19日
愛別離(Love Distance)
監督: ウー・リン(呉林)
出演:チャン・モン(張檬)、ホアン・ユエ(黄閲)、チャオ・ユートン(卓予童)、リャオ・ティンルー(繆婷茹)、ワン・インカイ(王盈凱)、スォランニマ(索朗尼瑪)
時間・ジャンル: 95分/ドラマ・愛情
公開日:2013年9月18日
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北京17.5影城四道口店は学生街の四道口のショッピングセンター内にある庶民的なシネコン |
いつでも非常に安い料金(一般の映画館の半額程度)で見られるのが魅力。庶民的店構えだが6つのホールはシートも新しく快適 |
北京17.5影城四道口店
所在地:北京市海淀区四道口2号B座京果商ビル3階北側
電話:010-62115539
アクセス:地下鉄2・4・13号線西直門駅隣接の凱特モール西側から85路のバスで2つ目の皂君廟下車徒歩2分、四道口交差点北のビル3階
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。
1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。
現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2013年9月24日
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