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奮闘する「富二代」『80後的独立宣言』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

興行記録を塗り替えた2月

この2月はこれまでの単月記録を大きく上回り、全国の興行収入が24日までに史上初めて月間30億元を突破したもようです。ちなみに、2007年の年間興行収入が約33億元ですから、急成長ぶりがよく分かります。

24日時点で、1月31日に公開された『西遊記之大閙天宮』は10億元を突破しています。西遊記ものとしては昨年の『西遊降魔伝』に続くメガヒットです。ダークホースとなった『爸爸去哪児』はフォン・シャオガン監督の『私人訂製』にほぼ匹敵する6億9000万元となりまだ成績を伸ばしています。同時期に公開された『澳門風雲』は当初は陰に隠れた感じでしたが、最近では2作を逆転するロングセラーぶりを見せ、5億元に迫る大ヒットになっています。バレンタイン時期公開の『北京愛情故事』も3億3000万元の快進撃です。ラブロマンスものとしては『前任攻略』もいつの間にか1億2000万元を上回っていました。外国映画も好調で、評判のいいアニメ『氷雪奇縁(フローズン)』がロングヒットとなっており、21日公開の『霍比特人:史矛之戦(ホビット 竜に奪われた王国)』は4日間で2億3000万元と好調です。

このように、幅広いジャンルでヒット作が出たことが、記録更新につながりました。映画館のロビーでは、春節期間には家族れが目立ちましたが、バレンタインデー以降はカップルや学生たちが行列を作りました。

 

 

     
 最近、一部フロアーがリニューアルされ、いっそう明るくなった印象の新東安市場ショッピング・センター。パンダくんがお出迎え  百老匯新東安影城と同じ6階フロアーには人気杭州料理店などが入っており、午前中からこの行列 王府井からも近い東四・隆福寺の長虹影城が、今年になって営業を停止。再開発によるもので、新しいビルのフロアーに入ると言われているが詳しいことは不明 
 

注目の若手女優が「村役人」を熱演

ヒット作にまじって、回数は多くないものの地方を舞台にした作品も上映されています。この週末は、昆明を舞台に“秀才”で知られるユー・エンタイ(喩恩泰)が全編雲南アクセントで調子のいい男を熱演する『李可楽尋人記』と、浙江省寧波の小さな村を舞台に若者の奮闘を描く『80後的独立宣言』を鑑賞しました。今回は後者をご紹介します。

「白富美」、つまり皮膚がきれいで経済的に恵まれた美人の徐小喬(チャン・ジャーニン)は、独立心から「村官」(村役人)を志望して鳴鶴村に向かう途中、イギリス留学帰りの「高富帥」(高学歴で金持ちなイケメン)戚偉傑(リウ・シュアイリャン)と知り合います。彼は親とは別に創業したいと鳴鶴村にパラグライダー基地を造る目的でやって来たのでした。利害が一致したふたりは、道路建設に伴う墓地移転のために奔走しますが、村人はまったく相手にしません。村民が反対する理由が楊梅おじいさん(シュー・ホアンシャン)にあることを知った小喬はひとり交渉に出向きますが……。

 この週末北京では連日スモッグが発生し市民を悩ませた。王府井大街もぼんやりしている  ふと気づくと楊樹(ペキンヤナギ)の芽も大きくなってきていた。長い北京の冬も終わりに近づいているようだ

ヒロインを演じるチャン・ジャーニンは、ドラマ『媳婦的美好時代』で注目され、ガオ・ユアンユアン(高圓圓)とホアン・ハイボー(黄海波)の共演で最近大ヒットした『咱們結婚吧』にも出演するなど知名度急上昇中の若手です。「80後」どころか89年生まれという若さで、まだ幼さの残る顔立ちですが、善良で芯のしっかりした女の子を嫌味なく演じています。相手役のリウ・シュアイリャンも1987年生まれの若さで、身長187センチのスラリとしたスポーツマン。「高富帥」のイメージにぴったりです。そして、若いふたりを、『グォさんの仮装大賞』のシュー・ホアンシャンらベテランがサポートしています。

この物語のユニークなところは、これまで批判ややっかみの対象になることが多かった「富二代」(富裕層の子女)を肯定的に描いている点です。「富二代」にも彼らならではの悩みがあり、前向きに頑張っている人も多いぞという視点です。エンドロールにかぶせて、著名企業の富二代が何人も登場してひと言ずつ語るのも印象的でした。改革開放35年の今、中国では多くの企業で2代目経営者が奮闘しています。

そして、ロケは寧波市に属する鳴鶴古鎮で行われていますが、この水辺の古い街の風景はとても美しく印象に残りました。俳優や「富二代」という設定、ロケ地には関心が持てたのですが、肝心のストーリーはちょっと古い地方のホームドラマという感じで、さらにタイトルはかなり唐突です。最近、私は地方を舞台にした作品に注目しており、できるだけ見に行くように心がけているのですが、これはという作品にはなかなか出会わないのが現実です。

【データ】

80後的独立宣言(The Struggle Of 80's)

監督:セン・ダオ(森島)

出演:チャン・ジャーニン(張佳寧)、リウ・シュアイリャン(劉帥良)、シュー・ホアンシャン(許還山)

時間・ジャンル:95分/ドラマ・地方

公開日:2014年2月21日

北京を代表する繁華街・王府井にある百老匯新東安影城 

百老匯新東安影城 

所在地:北京市東城区王府井大街 新東安広場6階

電話:010-65281898

アクセス:地下鉄5号線灯市口駅下車、C口を出て東単北大街を南へ進み金魚胡同を西に、徒歩9分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年2月25日

 

 

 

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