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整形問題を女性監督が描く『整容日記』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

清明節連休に最注目の国産映画

このところ、興行収入が連日前年を下回るほど不調だった映画興行ですが、先週末に『美国隊長2』(キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー)が公開されると一気に活気づき、清明節3連休(4/5~7)には3億6000万元の興行成績を上げました。そのうち3億元は同作品の数字だそうで、まったくの独り勝ちです。この時期、国産映画としてはバイ・バイハー主演のコメディー『整容日記』が目立つ作品でしたので、連休のレジャー客も多い中国電影博物館に出かけました。

「整容」とはいわゆる整形美容のことです。整形を扱った映画には、日本の『ヘルタースケルター』や韓国の『カンナさん大成功です!』などがあるわけですが、中国大陸部の映画としては、これほど直接的に描いたものは初ということで、公開前から話題になっていました。

有名大学に通う優秀な学生の郭晶(バイ・バイハー)は卒業を前に彼氏(グォ・ジンフェイ)にふられた後、就職説明会で美人は得という現実を見せられ、二重のショックを受け整形を決意します。アルバイトで貯めた金を握り締めて向かった病院での二重まぶた手術は成功し、雷蒙(ロナルド・チェン)のいる韓国系企業に就職します。しかし、その企業では女性は容姿で大きく差別されていることを知った彼女はさらに整形を重ね、雷蒙とも親しくなっていきますが、ある日転んだはずみで整形箇所に異変が起こり……。

 

電影博物館内では2013年のポスター展が行われていた。話題作はほとんど見たつもりだったが、見ていない作品も数点あった バス停では今年が第4回になる北京国際フィルムフェスティバル(4/16~23)のポスターも見かけた

不完全燃焼も、興味深い中国の整形事情

物語は、整形をめぐるドタバタで笑わせながら、女性の容姿に対する執着と人生の幸せは必ずしも同じ方向にはないということを訴える展開になっています。ただ、見終わって思うのは、どうも不完全燃焼ではないかということです。

冒頭に主人公が彼氏にふられるシーンがありました。この二人が共演した『失恋の33日』を思い出させる演出に、「いいぞ、なかなか」と期待したのですが、その後の笑わせるポイントは思ったほど多くなく、主人公の整形への執着に共感できないままストーリーが進んでいきます。整形で身体に異変が起こるという展開も少々平凡かと思います。さらに、次第に整形をめぐる悲惨な現実が突きつけられるようになっていき、暗澹たる気持ちにさせられます。特に、最初は主人公を戒めたりしていた仲の良い友だちの薇薇(チャン・ヤオ)が、逆にどんどん整形にのめりこんでいく様子には、見ていて背筋が寒くなる思いでした。香港の女性監督は、整形問題を単なるコメディーでは終わらせたくなかったのかもしれません。

 

北京の初夏を代表するアワギリの花も咲き始めた

北京の春の風物詩の柳(楊)絮が舞い始めた。私にはロマンチックに感じられるが、同僚の北京っ子に言わせると「PM2・5よりやっかい」だそう

また、日本ではあり得ない容姿による人格否定の採用方針などには、ちょっと驚かされました。以前実際にあった、容姿がもとで就職試験で採用されなかった女性が整形したという報道が映画のヒントになったようで、この映画を受けて、ネットでは「就職面接は本当に容姿最重視なの?」などの議論がなされていました。「女の子の容貌はやっぱり重要だと思う、就職だけでなく生活の各方面で」「絶対に重要。仕事によっては太っていたり美人すぎたりしてもだめ、会社のイメージを代表するから」「“ブサイク”だからと不採用になった子を知ってる」など、“容貌差別”が実際にあると思っている学生が多いようです。

こうした風潮を受けて、美容整形は成長産業になっています。実際に新卒者向けにキャンペーンを行う美容整形医院も多く、問題も起こっているようです。国家衛生部(日本の省に相当)でも2002年から「医療美容サービス管理規則」を施行して管理を強化していますが、物語中にも安い値段でどんな手術もする怪しげな医者が登場していたように、美容整形をめぐるトラブルは後を絶たないようです。また、最近では韓国に出向いて整形を受ける中国人が増えているなどの報道もありました。中国で「人造美女」が流行語になった2004年からもう10年が経過しました。整形は現在ではますます庶民に身近なものになっているようです。

清明節は「踏青」(ピクニック)の時期でもあり、連休中は香山公園や玉淵潭公園は多くのレジャー客でにぎわっていた

 

【データ】

整容日記(The Truth About Beauty)

監督:オーブリー・ラム(林愛華)

出演:バイ・バイハー(白百何)、ロナルド・チェン(鄭中基)、チャン・ヤオ(張瑶)、グォ・ジンフェイ(郭京飛)

時間・ジャンル:85分/ドラマ・コメディー

公開日:2014年4月4日

電影博物館のチケット売り場。館内には4つの常設ホールと展示スペース、イベントスペースなどに加え、DVDの充実した売店やコーヒーショップ、食堂もあり、1日遊べる施設だ

国家電影博物館  

所在地:北京市朝陽区南影路8号

電話:010-84355959

アクセス:地下鉄6号線金台路下車、C口南の金台路南バス停から973路のバスで約40分(13番目のバス停)、黒橋村西下車すぐ

 

中国電影博物館から近い798芸術区ものぞいてみたが、3連休とあって多くの若者でにぎわっていた

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年4月9日

 

 

 

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