文・写真=井上俊彦
中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。
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『トランスフォーマー4』が3日で6億元
多くの大学で卒業式が終わった週末、人気シリーズの第4弾『トランスフォーマー/ロストエイジ』が公開され、たいへんなことになっています。中国では特に人気の高いこのシリーズですが、今回はリー・ビンビン(李冰冰)が出演しているだけでなく、中国企業の「植入広告」(プロダクト・プレースメント)が数々入っているなど、中国エレメント満載です。中国ではテレビ・コマーシャル、街頭の広告にタイアップがあふれ、ファンの期待感をあおっていました。そして、先週金曜日午前0時を期して一斉公開されたのです。映画館には若いカップルから家族連れまで幅広いファンが押し寄せ、週末にかけての3日間で興行収入はなんと6億元を突破してしまいました。『アバター』の作った興行記録(約14億元)を更新するのではと注目が集まっています。
というわけで、ほかの映画はあまり注目されていない状態なのですが、同じ27日に公開された国産映画が実はかなりのヒットとなっています。人気俳優のダン・チャオが初監督し自ら主演した『分手大師』がそれですが、『トランスフォーマー4』の陰に隠れながら、3日間で1億6000万元を稼ぎ出しています。今回はこの作品をご紹介しましょう。
梅遠貴(ダン・チャオ)は、いわゆる“別れさせ屋”。さまざまな扮装で女性を誘惑したり、誤解させたりして、後腐れなく別れさせるプロです。そんな彼が最後の仕事と決めて受けたのが、成功セミナーのカリスマ主催者・唐大師(リャン・チャオ)からの依頼でした。唐大師は自らの会社の上場に向けた身辺整理として、浮気相手の葉小春(ヤン・ミー)との関係を清算すべく彼を雇ったのでした。巧妙に仕組まれた出会いから小春の気を引き、まんまと彼女のアシスタントにおさまった遠貴でしたが……。
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ホールへの入り口には『分手大師』の大型パネルが、通路にはバス停をイメージしたディスプレーも見られた |
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『トランスフォーマー/ロストエイジ』の大ヒットで、チケット売り場には長い列が |
『トランスフォーマー/ロストエイジ』がらみの広告がテレビだけでなく、街角のあちこちにも見られる |
二枚目俳優がコメディーで“やりたい放題”?!
ダン・チャオは1979年生まれ。中央戯劇学院卒業後、国家話劇院で数々の舞台劇を経験した後、テレビドラマで若き日の皇帝などを演じて評判を呼び、その後映画に進出しました。日本で公開された作品では、フォン・シャオガンの『戦場のレクイエム』、ツイ・ハークの『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』などに出演しており、主演の『四大名捕』シリーズは日本未公開ながら中国では大ヒットしています。妻はドラマ『宮廷の諍い女』のスン・リー(孫儷)です。現在はドン・ジエ(董潔)と共演のドラマ『相愛十年』も放送中で、8月には『四大名捕3』、9月には『不法之徒』と主演映画の公開が待っている売れっ子二枚目俳優ですが、本人はコメディーが大好きということで、監督第1作となるこの作品では、自ら出演したこともある舞台劇を映画化しました。
物語はこの手によくある“ミイラ取り”の展開で、特に驚かされるものはありませんでしたが、ヒット映画のパロディーなど細かなくすぐりが効いており会場の笑いを誘っていました。とりわけ、遠貴のハチャメチャな芝居が面白く、黒塗りメークで“モーリシャスの王様”を演じたかと思えば、女装して“男性ホルモン過多になったスーパーモデル”に扮するなど、よくもまあ二枚目俳優が……、と驚かされるものばかりです。相手役のヤン・ミーも、ネットでの彼女に対するいわれのない中傷を逆手に取ったギャグを披露するなど、体当たりの演技でした。
かなり笑えましたが、正直なところ脚本がもう少し整理されていれば、さらに楽しめたと思います。エンドロールにかぶせてNGシーンや本編で使われなかったカットなどが紹介されるのですが、それを見ても監督第1作としてかなり頑張ったことは感じられました。2作目が期待されます。
【データ】
分手大師(The Breakup Guru)
監督: ダン・チャオ(鄧超)、兪白眉(ユー・バイメイ)
出演:ダン・チャオ(鄧超)、ヤン・ミー(楊冪)、リャン・チャオ(梁超)
時間・ジャンル: 116分/愛情・ドラマ・コメディー
公開日:2014年6月27日
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映画館の入り口前は工事中だが、通常営業している |
新影連・華誼兄弟影院
所在地:北京市朝陽区広順北大街16号望京華彩ショッピングセンターB1
電話:010-57620488
アクセス:地下鉄10号線太陽宮下車、B口を出てすぐのバス停から966路のバスで9つ目の停留所・利沢中街西口で下車、目の前の望京華彩ショッピングセンターの地下 |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。
1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。
現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2014年7月1日
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