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作家・韓寒が初監督!『後会無期』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

人気小説家のスクリーン対決に話題集中!

2014年1月から6月までの興行成績が発表されましたが、137億元と昨年の約110億元からさらに大きく伸ばしています。続く7月は『トランスフォーマー/ロストエイジ』の記録破りのヒットなどもあって、27日時点でこれまでの月間最高額を上回る約33億元を記録しました。さらにこのところ若者に人気の作品公開が続き、勢いはさらに増しているようです。

特に話題になっているのが、郭敬明の監督第3作『小時代3 刺金時代』と、1週間遅れで公開された韓寒の初監督作品『後会無期』です。7月29日時点で前者は第1作に並ぶ約4億9000万元、後者は公開6日間で3億6000万元を上回っています。メディアは「80後」(1980年代生まれ)作家2人の対決という図式であおり立てていますが、それぞれのメーンターゲットは『小時代~』ではおしゃれを愛する女子高生や女子大生、『後会~』は自己肯定感の強い「80後」の男性と、比較的はっきりと分かれているようです。『小時代~』については以前シリーズ第1作をご紹介しましたので、今回は『後会無期』をご紹介します。

馬浩漢(ウィリアム・フォン)、胡生、江河(チェン・ボーリン)の3人は浙江省の小さな島・東極島に住みますが、教員の江河が中国でも最も西の地域にある学校に転勤することになったため、3000キロ以上の道のりをクルマで送っていくことにします。実は浩漢には江河を送る以外に、途中で果たしたい懸案があったのです。彼らの旅は、当初から順調ではありませんでした。マッサージ嬢の蘇米(ワン・ルオダン)をホテルの部屋に招き入れたことからトラブルになり、同行の胡生を置き去りにしてしまいます。2人で旅を続ける中、浩漢は10歳の頃から文通していた劉鴬鴬(ユアン・チュン)のところに立ち寄ります。実は彼が旅をする大きな理由がこれだったのです。しかし、そこで彼は衝撃的な話を聞かされます……。

 

夏休みまっただ中、北京前門は大勢の観光客でにぎわっている。映画上映前のコマーシャルでマダム・タッソーの蝋人形館ができたことを知り、通りすがりに入口をのぞいたが、この人だかり

 

ユニークなセリフがネットを席巻!

映画評では大変に評判が良く、「ロードムービーの佳作」などの言葉が見られるように、若者が旅を通じて挫折や成長を味わっていく物語になっており、これが若い男性ファンの心をとらえたようです。私が見た回にも若い男性の2人組がいました。

また、随所に凝ったセリフも散りばめられており、話題になっています。「時に君は1万人に証明してやろうと思う。ところが、結局1人にしか伝わらなかったことに気づく。でも、それで十分さ」「世界を見たこともないくせに、何が世界観だ?」「機会があれば私の物語を聞かせてあげるんだけど、残念ながらその機会はないわ」などのセリフは、公開数日の間に微簿や微信といったSNSでさまざまに応用して使われる定番フレーズになっています。こういう流行は本当に早い最近の中国です。さらに、ゲスト出演しているジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督も「若者よ、ひとつ忠告しておいてやろう。ガソリン車に軽油を入れちゃいけないぜ」といったセリフで笑いを誘うなど、なかなかの役者ぶりを見せています。

前門では、折からの暑さに道端に座り込んでアイスを食べる観光客も見られた。同僚の中国人スタッフによると、今年北京ではレトロな形のアイスバーがウケているそう(中身はミルクの味も濃厚な現代風)。このメーカーのアイスはほとんど広告もしていないのに大人気とか

もう一つ、さすが韓寒というべきか、音楽も効果的に使われています。前半部分では『The end of the world』を、最近『我是歌手』というテレビ番組に出演して大陸部で大人気となった香港地区の歌手タン・チーケイ(鄧紫棋)が普通話の歌詞で歌っており、観客をしみじみとさせます。また、エンドロールにかぶせてかかるのは『平凡之路』という曲で、『白樺林』などで知られるベテラン歌手の朴樹が歌っていますが、韓寒も作詞に参加しています。

なお、人気作家の2作品に挟まれながら、最近親子バラエティー『爸爸去哪児2』で人気急上昇中のフランシス・ン(呉鎮宇)とともにルビー・リン(林心如)が主演する『京城81号』が好調です。中国大陸部のホラーとしてこれまでの記録を大きく塗り替える3億5000万元を突破(7/29現在)しており、さらに数字を伸ばしそうです。日本のホラーを知る私にはそれほど怖くないのですが、ストーリーの元になった怪談が伝わるという北京市内の古い建物にはファンが押し寄せ、一躍人気“心霊スポット”になっているそうです。

 

北京の名所・什刹海にもたくさんの観光客が。結婚記念写真を撮影するカップルも見られた

 

 

【データ】

後会無期(The Continent)

監督: ハン・ハン(韓寒)

出演:ウィリアム・フォン(馮紹峰)、チェン・ボーリン(陳柏霖)、ウォレス・チョン(鐘漢良)、ワン・ルオダン(王珞丹)、ジョー・チェン(陳喬恩)、ユアン・チュアン(袁泉)

時間・ジャンル: 100分/旅行・愛情

公開日:2014年7月24日

 

映画館は洗練された雰囲気のショッピングセンターの5階部分にある。中関村をひかえて、観客には若い会社員や学生が多い

 

橙天嘉禾影城万柳店

所在地:北京市海淀区巴溝路2号華連万柳ショッピングセンター5階

電話:010-82565511

アクセス:地下鉄10号線巴溝駅下車、C3口直結

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年7月30日

 

 

 

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