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戦略的互恵関係とはなにか

 

江原 規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を勤めた。

 2007年は日中国交正常化35周年、そして2008年は日中平和友好条約締結30周年と、日中両国は2年続けて節目の年を迎えます。国交正常化後、日中関係は、「熱烈歓迎」「冷静実務」「政冷経熱」の時代を経て、目下、「戦略的互恵」関係の構築を目指しています。

 

 「戦略的」とは、より「長く」「広く」「深く」といった視点があると思います。例えば、経済交流についてみると、1972年の国交正常化の年の両国間の貿易額は11億ドル余りと、2006年の0.5%に過ぎませんでしたが(注1)、今や日本にとって中国は、輸出で第二位、輸入で第一位となっています(注2)。対中投資では、日本は香港、英領バージン諸島に次ぎ第三位ですが、タックスへイブン、迂回投資を除くと、実質は第一位です。

 

金額だけでなく、交流の形態・分野においても、垂直貿易から相互補完的な水平貿易が、また、対中投資では、合弁、独資形態からM&A方式での進出が増えて来ました。観光、勉学、ビジネスなどの目的で来日する中国人も急増しました。

 

求められる双方向交流

 

 「戦略的」という言葉から、「真新しい」、あるいは「仰々しい」といったイメージをもつ日本人は多いと思いますが、日中間には経済交流についてはすでに「戦略的」関係への基盤はでき上がっているといってよいでしょう。重要なのは、「互恵」関係をどう築くかだと思います。

 

先日、浙江省から「老字号」(老舗ブランド)のミッションが来日し、東京の池袋で展示商談会を開催しましたが、対日進出に意欲的な企業もありました。機械機器、アパレル、食料品などの中国からの主要な輸入品に加え、今後、中国からブランド、味といった無形の「メイド・イン・チャイナ」が日本に向かいつつあります。近い将来、日本のどこかに、「中国老舗街」が誕生することも期待できます。

 

また、日本の地方にも、中国との新たな交流拡大の機会を求めている多くの中小企業が存在しています。私は日本の各地で中国の話をする機会がありますが、地場産品の対中輸出の販路を構築することも重要だが、中国企業の対日展開を積極的に受けることも、長期的には、地域経済の活性化や地元企業の発展に大いにかかわっていることを強調しています。例えば、「中国老舗街」を招致し、将来的には、今度は彼らと協力・連携して浙江省に進出する可能性を、産官学で研究することの必要性を説いているのです。

 

私が北京に滞在している折、日本人にはあまり馴染みがない中国の地方都市に進出している日本企業(主に中小企業)を訪問し、その地を進出先として選定した理由や進出先での日々の状況(操業、生活など)につき話を聞いた経験があります。彼らの話を集約すると、交通、生活面などで不便はあるものの、地元政府や人々が協力的で、仕事に「生きがいを感じる」ということになるかと思います。

 

日中間の「戦略的互恵関係」の構築には、こうした地方間で双方向の交流が増えることにかかっているといっても過言ではないでしょう。

 

「地方」「中小企業」がキーワード

 

浙江省寧波で開かれた展示会では新潟県のブースが登場した

日本には、中国の各省・市からの駐日事務所が少なくありません。その多くは、「招商引資」(日本企業の招致)に熱心ですが、中国経済における日本の相対的プレゼンスが低下しつつある中、私はこうした事務所を訪問し、そこの駐在員と協力して日中双方向の地方間交流を促進できたらと思っております。

 

2008年はこの欄で中国経済の新潮流にも触れつつ、「地方」「中小企業」などをキーワードに、日中間の経済・ビジネスを主とする各種交流の現状、課題につき論じ、「戦略的互恵関係」の意義を考えてみたいと思います。

 

2008年の干支はネズミです。「ネズミの嫁入り」という話があります。ネズミの両親が年ごろの娘のために、最良の嫁入り先として太陽をと願うのですが、太陽は雲に隠され、雲は風に散らされ、風は壁に遮られ、結局、壁に穴を開けるネズミがもっとも強いということで嫁入りするというストーリーです。2008年は、日本が壁に大きな穴を開けるネズミになってほしいものです。 注1 当時の大蔵省通関統計による。2006年の貿易額は2113億ドル。 注2 2006年、中国にとって、日本は輸出で第4位、輸入で第1位となっている。 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を勤めた。

 

 

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