現在位置: 経済
多様化する庶民の財テク

 

株やファンドに一喜一憂

 

2008年11月4日、甘粛省蘭州市のある証券会社の営業部で、市況を見つめる投資家。この日、上海・深圳の株式市場が下落(新華社)

5年の長きにわたり「下げ」相場だった中国株式市場は、2007年4月から「上げ」に転じた。人民元建てのA株市場に大量の資金が流入し、相場が上向きになったのだ。それを受け、庶民の間に熱狂的な株式ブームが巻き起こり、そのブームは金融危機の影響で株価が下落するまで続く。

金融危機以前の株式ブームがこれまでと異なるのは、「個人」投資家が大量に現れた点だ。株やファンドなどの金融商品は、今や庶民の生活に深く入り込んでいる。

増える個人投資家

 株取引10年の経験を持つ李亜民さん
中国の株式市場は平日午後3時に取引を終了する。もう10年も株の売買をしているという李亜民さん(55歳)が、午後2時半に茶館にやってきた。株取引終了時間前に約束してしまったことを詫びると、李さんは落ち着いた口調で「この数日、株は大暴落してね。だから最近は、株価指数も見ないし、株も買わないのよ」と言った。

李さんは以前、北京のズック工場に勤務していた。しかし、そのころ紡績業界の景気が悪くなり、別の仕事を探す必要に迫られていた。そのうえ、病弱な母と弟の世話をしなければならなかった。「どうしたら母と弟の面倒をみながらお金を稼ぐことができるか」と、いつも考えていたという。

1997年、李さんは、株を始めていた同僚の勧めもあって、株取引のための口座を開設する。

「私の目的は株について学びながらお金を稼ぐことでした。その当時の私は、いま株に熱中している人たちと同じように、『株は儲かるばかりで、絶対に損をしない』と無邪気に信じていたんですよ」

株取引にまったくの素人だった李さんは、株を買ったもののどうしてよいか分からず、しばらくそのままにしておいた。すると意外にも、2万元で購入した株が5万元の高値をつけたのだ。しかし喜びも束の間、上がった株価が少しずつ下がっていった。そして2001年には、儲けは一割程度になってしまい、手放すしかなかった。それを期に、李さんは株式市場の動向に注目するようになる。

次に李さんが本格的に株取引を始めたのは、2006年以降のことである。以前と違って今度は株相場の動きに慎重だった。株価が少し上がればすぐ売った。 「あのころはビクビクしていたから、買った株は1週間で必ず売りました。だからいくらも儲かりませんでした」と振り返る。

李さんは、その後株価が高騰したり、庶民がファンドを大量に買うことになるとは夢にも思わなかったという。

株式の下落とともに気を落とす投資家たち
「平均株価が3500ポイントの時点で、あえて株を買わなかったのだけど、それが6124ポイントにまで上がるなんて。おかげで今度の暴落にも巻き込まれませんでした。昔、失敗した経験がありますからね」

李さんは、10年間の株の経験を通して、金融資本に関する知識や自分の能力の限界を知った。

「今は損をしないようにしています。損をすると思ったときは、買わずに見ています」

現在、北京の株の取引所には、一日中、大勢の人が入りびたり、株価のボードに見入っている。そういう人たちについて、李さんはこう指摘する。

「人ごみの中でボードを見ていると、眩暈がします。あの環境と雰囲気では、考えることなぞ無理ですよ。会社の業績も知らず、国の政策も理解していないようでは、株で儲けることはできませんよ」

中国証券登記決算公司の統計によれば、2007年末の時点で、上海と深圳の証券取引所に開設された口座は1億3870万。前年に比べ、6000万以上増加した。

2008年に起きた世界的な金融危機により、投資家たちは株式市場の大幅な変動を経験した。上海証券指数は、2007年度の6124ポイントから一気にさがり、1664ポイントの安値をつけた。分別なく株取引に興じていた多くの人々は、大きな代償を払うこととなった。

つい最近政府は、一連の経済策として、巨額の財政出動を行い、内需を押し上げ国内経済を支援することを決めた。投資家の中には、株取引を再開するものもいたが、依然として企業業績や株式需給に対する警戒心は強く、以前に比べると、その動きは慎重になっている。

今、李さんの楽しみは「学習」という。ネットで株の情報をチェックするほか、株の売買で学んだことを友人らとチャットで語り合う。おかげで夫も息子も、経済用語を口にするようになった。

「経済は一生ついてまわるものですし、世界的な見地から理解しておく必要があります。いま人々は蜂のように群がって株をやっていますが、『ストップ高』の意味を知らない人さえいます。遅かれ早かれ、大損をしますよ」

「ファンド買った?」が2007年の流行語

客を応待する中国建設銀行江蘇海安支店
株のほかに、庶民に人気があるのはファンド(投資信託)である。

「株をやるには専門的知識がいるが、ファンドは違う。銀行に口座を開き、お金をファンドに振り込むだけで、座って待っていればお金が入ってくる」という安易な考え方があるからだ。

邵さんは、会社で経理の仕事を担当している。仕事柄、お金の動きに敏感で、早い時期からファンドを始めた。2006年初め、邵さんは10万元でファンドを買った。すると、その年の終わりには30万元に膨らみ、その収益で楽々と住宅を改装した。

邵さんの素晴らしい収益を見て、同僚たちは羨ましがり、そして次々にファンドを買った。兄弟姉妹や親戚友人を引き連れて買った人さえいる。

2007年のファンドの収益も引き続き好調で、業績のもっとも良いファンドは、年間収益で200%を超した。収益がいちばん悪かったファンドでも50%以上だった。

こうした収益は、庶民の金銭欲を大いに刺激し、大量の銀行預金がファンドの口座に移った。

ある統計によると、2007年初めにファンドの口座を開いた人数は1000万人だったのに対し、同年の末には1億人を数えた。中国の家庭の約4分の1がファンドを買ったことになる。

中国語でファンドのことを「基金」と言い、ファンドで資金を運用する人たちのことを「基民」と言う。「基」は、同じ発音の「鶏」にひっかけて「養鶏」=「養基」で「鶏を飼う人」と言われ、ファンドが好調だった2007年は「今年你养『基』了吗?(今年、「ファンド=鶏」を買=飼った?)」が流行語にもなった。

しかし、金融危機のあおりをうけた大幅な株価下落は、ファンドの「儲かるばかりで損をしない」という神話を打ち砕いた。2008年末には53.52%のオープン型ファンド(運用後も購入可能)が「額面割れ」になった。

 

 

人民中国インターネット版 2009年3月

 

 

 

   <<   1   2   3   4   5   6   >>  

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850