文・写真=井上俊彦
ご存じのように浙江省は中国でも経済の発達した地域の一つだ。しかし最近、世界金融危機、欧州債務危機などの影響でダメージを受け、経済が一部混乱した。こうした中で、中国国務院(政府)は同省の4大国家戦略措置を承認し、浙江海洋経済発展モデル地区、舟山群島新区、温州市金融改革モデル区そして義烏市国際貿易総合改革モデル事業全体プランが本格的にスタートした。
温州 全国に先駆け金融改革 中小企業と農村に活力
温州市は1970年代からいち早く軽工業などを中心に民間経済を発展させ、改革開放をリードしてきた。その一方で、金融の整備は経済の発展に追いつかない状態で、昨年9月、欧米の経済不況の影響、国内のマクロ・コントロール、地域経済減速の中で、温州の一部中小企業には資金ショートの問題が発生、経済にマイナスの影響を与えた。
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瑞安華峰小額ローン株式会社は2008年11月の設立。この業種としては全国でもトップクラスに成長、モデル事業によって村鎮銀行への改組条件も満たした。陳寿清顧問によれば、設立当初はローンを申し込みに来る経営者の心理に配慮してそれぞれの窓口をパーテーション仕切りにしていたというが、今では写真のようにオープンな形になっている。これも「陽光化」の1つと言えそうだ |
温州民間借貸登記サービスセンターの徐智潜総経理によれば、温州には長い間規範化されていない民間貸付で融資をまかなってきた歴史があり、電話1本で数千万元の信用貸付を行っていたという。信用と人間的なつながりを重視する温州商人のビジネスモデルの中で、いいプロジェクトがあればみな投資したがりすぐに資金が集まった。しかし「温州の信用が良すぎた」(徐総経理)のがあだとなった。信用が良く民間貸付の利率が比較的高かったことで、温州には好景気の中で全国から資金が集まるようになったが、実体経済はそこまでの資金を必要としてはいなかったのだ。余った資金は不動産やその他リスクの高い投資に回され、危機を引き起こす原因のひとつとなった。
温州での混乱には社会的注目も集まり、日本でも「経営者の夜逃げ騒動」などと報道された。国務院はこれを特に重く見て、温家宝総理じきじきに現地視察をした後、今年温州市金融総合改革モデル地区を設置することを決めた。
モデル地区事業の目的は、実践を通じて「中小企業が多く、融資が難しい。民間資金が多く、投資が難しい」という「両多両難」問題に現実的な出口を見出すことだ。この事業を通じ、民間資本の金融サービス分野への導入を奨励、民間金融の規範ある発展、民間金融の「陽光化」(適法化、オープン化)、規範化を目指す。これは、中国が金融改革を推し進める上での重大な戦略的措置で、地元の中小・零細企業の資金問題解決の決め手となることが期待されるだけでなく、全国の金融改革、経済発展について模索するという重要な意義もある。
今年3月28日に国務院常務会議によって、温州市金融総合改革における12項目の主要任務が制定された(表1参照)が、中でも注目されるのは、「2」の「新型金融機関の育成を急ぐ」で、これは一種の金融自由化とも言える措置だ。大手銀行からの融資を受けづらかった民間の中小・零細企業を対象にした金融機関を育成し、資金面から企業をサポートしていこうというものだ。現在、小額ローン会社はすでに30社が営業を始めており、村鎮銀行も六行を数える。いくつかの新しい金融サービス機関や村鎮銀行を取材した印象では、どの取材先も金融総合改革に手ごたえを感じているようで、資金の多くは実体経済に流入しているということだ。
12の任務はいずれも地方にとって高いハードルだ。実践と模索の時間が必要な、複雑で難しい問題であり、一朝一夕で達成できるものではない。同市は各方面の支持を得て、しっかりと改革の方向を掌握し着実に目標を達成していきたいとしている。いずれにせよ、温州人は機を見るに敏な商売人であるだけでなく、成功のためには苦労を惜しまない努力家でもある。取材を通じて、「危機をチャンスに変えていく」という温州人の意気込みは十分に感じられた。
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温州市金融総合改革における12項目の主要任務 |
1. |
民間融資業の規範ある発展 |
2. |
新型金融機関の育成を急ぐ |
3. |
専門的資産管理機関の整備 |
4. |
個人の海外直接投資を試験的に解禁し手軽で規範あるルートを探る |
5. |
地方金融機関の改革をさらに進める |
6. |
零細企業と三農(農業、農村、農民)向け金融商品・サービス開発を進め、多層的金融サービス体系の確立を探る |
7. |
地方資本市場の育成 |
8. |
各種債権商品の開発に積極的に取り組む |
9. |
保険サービス分野を開拓し発展させる |
10. |
社会信用体系の構築を強化する |
11. |
地方金融管理体制の整備 |
12. |
金融総合改革リスク防止メカニズムの構築 |
義烏 「百均商品の故郷」から世界的商品流通基地へ
中国に詳しい人なら「百円ショップ商品の故郷」とも呼ばれる「小商品」(日用雑貨)の拠点・義烏の名を一度は耳にしたことがあるはずだ。義烏は浙江省のほぼ中央にあり、杭州から南に100キロ余り、戸籍人口は74万人だが常住人口は123万人とされる。「小商品市場」の面積は合計で470万平方メートル以上、店舗は7万以上あり170万種類を超える商品が扱われている。ここを訪れるビジネス客は連日20万人を上回り、取引額は21年連続全国トップで、「永遠に閉幕しない博覧会」の異名を持つ。
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取材に向かうバスから巨大な「義烏港」の建設が進んでいるのが見えた。20フィートコンテナ換算で年間110万個の輸出ができる通関処理能力を持つ巨大な施設が、通関をスムーズにし、物流コストを下げ、発展の力となる |
さらに現在では、中国が世界の工場から世界の市場にも成長したことを受け、「メード・イン・チャイナ」が世界に売られていくだけでなく、巨大市場・中国に売り込もうという世界の商品が集まるようになっている。欧州債務危機以降、中国の輸出関連製造業は大きなダメージを受けたとされるが、なんと義烏では逆に発展の速度が増しているという。2012年上半期、義烏市の域内総生産(GRP)は359億元で、前年同期比8.6%増という高い数字となっている。特に輸出が好調で、1~7月の通関コンテナは20フィートコンテナ換算で35万2000個と、前年同期比18.3%の高い伸びだ。
義烏市党委員会の黄志平書記は「逆境での発展」について、「義烏は世界の219の国・地域と取引をしており、そのすべてが不景気ではないということです」と自信にあふれた表情で語った。欧米の先進国は不景気でも、ロシア、ブラジルや東南アジアなどの新興国では消費が急速に伸びている。そうした国・地域で人気の高いアクセサリーやファッション、工芸品やおもちゃなどの商品が義烏には集まっており、これが逆境中の一人勝ち状態につながっているというのだ。
こうした優勢を背景に、貿易という点での大きな成長を目指す取り組みが義烏市国際貿易総合改革モデル事業全体プランだ。これは全国初の県クラスの市における国家級総合改革モデル事業(新特区)で、中国の貿易発展モデルの変化・成長を加速させる戦略とも位置づけられる。新たな商取引の方法や対外貿易発展の空間を探り、商品の流通方式の革新と市場モデルチェンジに発展モデルを提示するというこの事業は、2015年までに枠組みを完成させ、20年にはモデル地区を完成させる目標だ。義烏を「市場買付」スタイルの新たな国際的貿易拠点都市とすることを軸に、「義烏港」をはじめとする巨大プロジェクトによって効率的でスピーディーな通関、決済、物流ネットワークを備えていくほか、温州での改革も吸収しながら新たな金融政策も打ち出していく予定だ。
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巨大な義烏の「小商品市場」にある店舗数は7万。1日8時間にわたり各店舗を3分間ずつ見学したとすると、全店を見終わったときには1年以上が経過している計算だ |
義烏における入境外国ビジネス客数は40万7000人(前年同期比+5.4%)となっており、住んでいる外国人も1万3000人(100カ国以上)いる。彼らが安心してビジネスに集中できるよう、2012年1月6日にオープンした義烏市国際貿易サービスセンターは、7部門98項目の対外国人サービスを提供する施設で、1カ所でほとんどの手続や相談ができてしまう。行政手続のほか翻訳、法律援助から、航空券手配や郵便宅配の窓口、ビジネスセンターまで備えている |
「義烏港」や巨大市場を取材して、モデル事業の成功は疑いないものと感じたが、それよりも記者が興味を引かれたのは、産業、貿易、物流と並んで公共サービスも重要整備点とされていることだった。急速な発展は地方行政に大きな負荷をかける。本来の人口が70万人ほどの都市に、120万を超える人が暮らし、連日20万人がビジネスで訪れるとなれば、行政サービスやインフラなどの面で立ち遅れが出ない方がおかしい。実際、取材に向かうバスも朝夕の慢性的交通渋滞に巻き込まれた。同市は、外国人に各種手続のワン・ストップ・サービスを提供する義烏市国際貿易サービスセンターを設置するなど、ユニークな方法でこの問題に取り組み始めている。
さて、今年に入ってから浙江省経済は全体的に力強さを取り戻しつつある。今年上半期のGRPは1兆5790億4000万元で、成長率は7.4%だった。特に工業生産がゆるやかながら回復しつつあり、輸出が成長を続けている。そして第三次産業の成長が8.8%と高い数字を保っている。時間と引き続きの努力が必要ではあるが、手ごたえも感じられるという状況のようだ。
人民中国インターネット版 2012年12月7日
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