新市民に市民権 産業は内陸移転
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陳言 コラムニスト、日本産網CEO、日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。 | 中国で高速鉄道がゆっくりと都会の高層ビル群を抜け出ると、車窓から見えるのは平屋か2階建ての住宅が連なる村落と延々と続く農地だけである。列車がややしばらく走っても、目に入るのは農地ばかり。これは中国北方でよく見かける光景である。
一方、日本で新幹線に乗ると線路沿いの住宅街が果てしなく続き、都市と農村をどこで区分すればいいかよくわからない。少し農地が広がったところでも、工場のように見える建物が点在している。
中国で日本語の「都市化」の中国語訳の「城市化」ではなく「城鎮化」と言っていることに着目すべきであろう。それは、高層ビルが象徴する同じような都会をつくらず、農村でも内陸部でも企業を誘致し、工業がある「鎮」をつくろうとしている。その「鎮」は農村から脱出したばかりの「市街地」で、これまでなかった都市型のサービスを提供するが、それらすべてを大都会にするわけではない。このような「城鎮化」こそ「新四化(新・四つの現代化)」の核心であり、プラットホームである。言い換えれば、「城鎮化」、中国の広い農村部での「工業化」「情報化」および「農業現代化」を押し進める上でけん引車の役割を果たす。
「石橋を叩いて渡る」改革
現在、はっきりとした「城鎮化」案はまだ完成しておらず、われわれの手元にはまだない。国務院発展研究センターには20人あまりのチームが作られ、「城鎮化」関連の研究をしており、その研究範囲は極めて広く、報告書は今年6月に完成する予定だと言われている。
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『2012年中国新型都市化報告』によれば、2011年の中国内陸部の都市化率は50%を超えているという |
同センターだけでなく、中央政策研究室、国家発展改革委員会、住宅と城郷建設部(日本の省)などのいくつかの部門も専門チームを作り、「城鎮化」の研究、政策策定、制度設計を行っているとのことである。
「城鎮化」は非常に膨大なプロジェクトである。その前には、資源、人口および公共施設の状況など地理的な分布、産業政策など多方面にわたる問題が山積し、利害関係が複雑に絡み合っており、すべての問題を解決できる完璧な案を作り出すことはほとんど期待できない。その意味で「城鎮化」は「石橋を叩いて渡る」方式の大規模経済改革になるだろう。
ひとつだけ言えるのは、現在の「城鎮化」が2005年の「新農村建設」とは全く違うということだ。「新農村建設」は後に「巨大なハコ物を作るプロジェクト」と皮肉られたように、各地方政府が多額の資金を投入して、農村に道路を作り、住宅を建てた。農民を新しく作った「都市」に移住させるべきだと主張する人も当時はいた。しかし、それは極めて効率が悪く、腐敗が生じ、後にほとんど言及されなくなった。
現在、中国の世論は「城鎮化」によってもたらされる投資に対する警戒感を強めている。主な理由はふたつある。ひとつ目は、「新農村建設」の二の舞を踏むべきではないということ。ふたつ目は、2008年のリーマン・ショックの際に4兆元(当時の1元は約15円)に及ぶ投資が必要だったことなど、その問題点を洗い出して、同じ間違いを繰り返してはいけないという見方が主流だからである。 しかし、いままでの中国の経済発展様式から見て、必ず「城鎮化」の名目で多くのインフラ建設、公共施設などが行われると予想される。ただし、その規模は人をびっくりさせるほどの物ではないと考えている。
現在、中国経済は調整の時期に来ており、成長率の下落は事実である。外需が低迷し、投資効率も低く、重複した建設が多く、経済成長をけん引してきた内外の要素がともに弱まっている。そうした状況下で、消費を促進し、内需を拡大することが、中国の経済成長方式を転換させ、長期的に健全な発展を図る重要なポイントとなっている。これは中国のコンセンサスでもある。
質の高い都市を目指して
今までの中国はパイを大きくするという都市化方式を取り、大量の資金を投入した土地収用などによって都市化を実現させてきた。その効率は高いとは言えず、たえず不動産バブルを招き、社会矛盾も激化した。農民の所得を増やす面でもあまり大きな成果を上げていない。確かに農民は都市へ出稼ぎに来たが、かれらは農民の身分を変えられず、都市住民と同レベルの医療保険、教育およびその他の社会福祉を受けることができず、必要な社会保障を欠いていることから、農民は消費しようと思ってもできなかった。
国の統計よると、中国の「城鎮化」率はすでに50%を超えているという。しかし、その「城鎮化」の質は決して高いとは言えない。専門家の調査では、現在、都市に住む人口のうち、少なくとも十数パーセント、約2億人が市民の待遇を受けていない出稼ぎ労働者であることが明らかになっている。
そこで、新型の「城鎮化」を実現する上で、もっとも重要なのは「質の高い城鎮化」であろう。『上海証券報』(2012年12月26日)は、関連部門が戸籍制度の改革、土地制度の改革、住宅政策の改善、税制改革、地方融資の改革および行政区域の調整などの6つの分野から着手して、今後の「城鎮化」を実現するために「力強い体制をつくり、政策を推進する」と報じた。
上記の6つの分野で「城鎮化」を推進できたら、中国にふたつの変化が現れるだろう。ひとつは、農村人口が都市に移り、新都市住民も市民権を取得できるようになること。かれらを社会保障の面でも真の都市住民にするためには、戸籍制度、土地制度を改革しなければならない。もうひとつは、産業の内陸への移転である。特に沿海部から中西部に移り、農民はこの産業移転に伴って雇用の機会を得る。
「城鎮化」の実現の度合いが明らかになってくるのは、このふたつの変化が見えてからのことだろう。数億人にのぼる農民が本当の意味で都市住民になる時こそ、中国市場が引き続き拡大していくことを保証できる。また内陸部でも「城鎮化」が進むことによって、社会インフラ建設、新都市建設が推進され、さらにそれをめぐる資源エネルギーの供給のための鉱山開発、環境保護の必要性などの課題が同時に浮上してくる。それによって、中国の経済成長は支えられて行くだろう。
都市と農村がはっきり区分されるのではなく、日本のように大都会でない地域でも都市並みの生活、就職ができれば、大都会への一極集中が避けられ、効率がよく、快適な市民生活ができる。現在、中国のセメント、鉄鋼、建築機械などの企業は、経営状況が厳しい中でも未来に対する自信を失っていない。これらの企業が「城鎮化」は着実に推進されると確信しているからであろう。
人民中国インターネット版 2013年5月2日
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