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現代の日中ビジネスに思うこと

 

日本企業が半世紀以上にわたり対中国ビジネスに関わり蓄積してきた豊富な経験や本来の高い技術力は、いまだに有力な武器だと考えられる。しかし広大な中国市場の獲得のうえで、日本企業は欧米企業に大きく水を空けられている。ここに至った結果について、筆者はマクロの視点からいくつかの要因を見い出せると考える。

第一は、長期の展望に立った事業構築の欠如にある。外国企業や中国企業との競合には、現地の市場動向を正しく見据え、人材や資産など企業の経営資源を大胆に国内市場に投入投資し、活用を図り、既存市場の深耕と拡大が重要である。しかし日本企業は、競争戦略の計画が明確化されないまま、近視眼的な利益を追求し、製品(サービス)の市場独占という構図を作り得なかったことにある。中国という大きな市場に対する長期的な戦略の欠如があり、さらに中国政府の詳細な動向を把握する努力も欠けていたと言えるのではないだろうか。

第二は、国内市場と消費者意識の変化に充分に対応できなかったことにある。1978年の中国の改革開放政策から市場を内外に開放した当時の、どんな商品にも飛びついてきたような中国市場の初期段階はすでに大きな変化を見せている。過去の北京オリンピックや上海万博が象徴するように中国市場は経済成長とともに新たな発展段階に入っており、国民の消費生活文化は上向きで、需要傾向は一段と洗練されてきている。国民の消費市場に出回る生活商品の購買意欲は高まり、量から質への転換が明らかに見て取れる。

日本企業の中には、消費社会の多様化するニーズに正面から向き合わず、製品が需要と供給のギャップに落ち込んだケースもある。企業の独自性を発揮した差別化された商品が市場に出回ることは少なく、売り上げの不振に至ったともいえるだろう。中国国内の社会環境の変化や消費市場の動向を正しく読めるような、組織としての仕組みがしっかりと構築されなかったのである。

第三は、日本企業の現地化の問題である。過去には、現地の日本企業では大手といわれる企業でさえも、中国の従業員や消費者の心理を逆撫でするような行為が発生し、表ざたになっている。これらは日中両国のマスコミを通じて既に報道されてきており、企業イメージやブランドの信頼低下、業績の悪化に繋がり、日本や日本人全体の評価を貶める可能性も秘めている。中国の歴史や伝統、中国人の価値観や物の見方、習慣や考え方などを理解したうえでの基礎的な対応が不可欠である。現代中国語を自由に話せて、中国の社会や商習慣を理解できるような人材の育成、さらに主要なポストを有能な中国人に委ねるような大きな度量も不可欠だろう。

日本は自由主義世界の一員であり、中国は社会主義国家である。どちらの体制が正しいかを論議する前に、「体制が違う」という現実をいま一度明確に再認識する必要がある。日中両国には、当然のように会社法や諸制度面の違いが存在する。自社の企業文化をそのまま中国市場に持ち込むリスクを十分に理解すべきである。 

日本のマスコミは数年前から中国の隣国・南アジアのインドにおける急速な経済成長に注目を集めている。将来はインドが中国経済を凌駕するであろう、といったインド経済台頭論が取り上げられ、話題を呼んでいる。しかし中印両国における国内市場の規模や一人当たりの消費購買力の大きさ、人的物的資源の質や量の豊かさを始め、市場経済システムに対する経験の蓄積など、中印の間の諸条件には大きな開きがあり、中国が優位に立っている状況に変わりはない。また近年、日本企業の中にはチャイナリスク回避という理由で、中国から東南アジア新興国へ貿易や生産拠点をシフトする動きが加速化している。企業投資や企業進出も活発化しているが結局、「世界一の貿易大国」「世界最大の消費地」である中国を抜きに企業の成長発展や日本経済の再興は語れないのが現実である。今後も中国が中長期的には世界最大級市場の地位にあるのは、間違いないであろう。中国という巨大な市場空間には、まだまだ日本企業にとって多大なビジネスの魅力やチャンスが潜んでいるはずである。

二十一世紀という新時代に入り、日中両国政府が正式に取り決めた戦略的な互恵関係を考えると、双方は世界の二大国家であり大事なパートナーでもある。日本が真に日中友好と世界平和の道を求めるならば、さらにアジア経済ひいては世界経済への貢献を求めるならば、日本が中国と競合を目指すべき舞台もまた、政治や軍事面ではなく、経済や貿易、ビジネスの分野であると思う。

 

貫井 正(ぬくい ただし)

東海大学付属望星高等学校卒業。1993年9月から2002年7月まで、北京語言大学、北京師範大学大学院、中国社会科学院で学び、帰国後10年を経て、一昨年再び中国へ。中国の大学で日本語教員。中国社会科学院文学博士。

 

 

人民中国インターネット版 2014年5月4日

 

 

            

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