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注目高まる博鰲フォーラム アジアの未来考える好機に

 

江原規由=文

今年ほど「博鰲アジアフォーラム(ボアオ・フォーラム)」が内外から注目されたことはなかったのではないでしょうか。第1回のボアオ・フォーラムのテーマは「新世紀、新挑戦、新アジア-アジア経済協力と発展」で、開催されたのは2002年4月12、13日の2日間でした。その4カ月前、筆者は北京赴任直後、北京日本商工会議所のミッションの一員として博鰲(ボアオ、海南省)を訪問しました。中国が2001年12月11日に世界貿易機関(WTO)に加盟した直後であり、世界の目が中国に集まっていましたが、海外で博鰲の名を知る人は少なかったと思います。ただ、現地ではフォーラム開催に向け、大いに期待が高まっていました。今年で14回目を迎えましたが、今では海外で博鰲の名を知る人は格段に増えました。今後は、ほぼ同じ主旨で毎年スイスで開催される 「世界経済フォーラム(ダボス会議)」と共に、その開催意義をますます高めていくことになるようです。

これまで最大の規模に

 今年のフォーラムは、2014年11月に前後して開催された北京APEC会議、ブリスベンG20など国際会議が相次いだこと、また、中国が2013年に提起した「一帯一路」建設に共感する国・地区、中国が創設を提起したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加表明する国・地区が急増中だったことなどもあり、内外から高い関心が集まったと言えます。このことは、開幕式に参加した国家元首など国家指導者の規模が歴代最多となったことや世界ブランド500の多国籍企業トップの参加が最も多かったことなどからもうかがえるでしょう(正参加者は49カ国・地区からメディア関係者を含む2786人)。

テーマはアジアの未来

2年ぶりに同フォーラムに出席した習近平国家主席は、講演の中で「今年はバンドン会議60周年、ASEAN共同体成立など節目の年にあたる」とし、「今年のボアオ・フォーラムのテーマである『アジアの新未来 運命共同体に向かってまい進しよう』は、重要な現実的、歴史的意義がある」としました。習主席は、「世界が良くなってこそ、アジアが良くなる。アジアが良くなってこそ、世界が良くなる 」と、世界とアジアの共同繁栄(ウインウイン)を強調。また、中外企業家代表との座談会で「『新常態』下の中国経済(主に、中国経済が年率7%前後の中速成長軌道に入ったことを指す)は、世界各国・企業にとって新たな協力の機会である」とし、特に一帯一路に関して、「中国は今後10余年間、沿線国・地区(60余カ国・地区)との年間貿易額を2兆5000億㌦(現在の中国貿易総額のほぼ4分の1)とする予定にある。中外の企業は、シルクロード基金やAIIBと密接な関係を築き、新たな協力モデルを開拓し、ウインウインの新たな道を構築すると期待する」と、中国の姿勢を示しました。習主席は、世界の政財界に「アジアの新未来」を開拓するためのメッセージを送ったと言うことができるでしょう。

「世界大」のフォーラムへ

筆者は、習主席の講演の核心部分は、「アジアは世界のアジアである。運命共同体に向かってまい進し、アジアの新未来を切り開こう。世界と共に前進し発展しよう」にあると考えています。

アジアはすでに世界の3分の1の経済総量を有し、目下、世界で最も発展の活力と可能性を有する地区として、世界におけるプレゼンスをさらに高めています。そのアジアで、中国は2020年にはASEANと運命共同体を、そして、ASEAN、日本、韓国と東アジア共同体の建設に注力し、さらに今年、中国-ASEAN・FTAのグレードアップ版および東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉を終結させたい(習主席講演より)とするなど、アジアにおける自由貿易ネットワーク(自由貿易網)を積極的に構築したい意向にあります。

この点、筆者は、すでに研究が開始されているとされる 「一帯一路FTA」の構築も視野に入ってくると考えています。一帯一路はアジア、欧州、アフリカの一部、そして、太平洋地区をカバーエリアとしていることから、一帯一路FTAが形成されれば、世界最大級のFTAということになります。中国では、すでにその研究が始まったといわれています。

今年のボアオ・フォーラムは「アジアの新未来」をテーマとしていますが、「世界大」のフォーラムに脱皮したとして記憶されることになるのではないでしょうか。

改革開放政策を引き継ぐ

さて、習主席は、講演の締めくくりに、一帯一路とAIIBに言及し、こう結んでいます。「一帯一路は空論ではない。~中略~ AIIBは創設に向けまい進し始めた。シルクロード基金は順調に歩み出した。インフラ投資プロジェクトも一部ですでに始まっている。一帯一路の洋々たる前途がわれわれの前に提示されている」。

「一帯一路」の目指すところは、沿線国家・地区との共同発展・繁栄と互連互通(ハード・ソフト面でのインフラ整備など)です。その発展戦略は中国を世界第2位の経済大国に押し上げた改革開放政策を支えた先富論に通じるところが少なくないと、筆者は感じています。先富論は先富(一部の人、地区)で始まり共富(全ての人、地区)で完結します。目下、中国は民生改善、都市化建設、社会保障の充実などを通じ共富への道を歩みつつあります。こうした中国の経験が、一帯一路の目指す沿線国・地区の共同繁栄にも生かされることを期待したいものです(注1)。

アジアの共同繁栄を確認

戦後の東アジアの経済は、日本を雁の頭とし、新興工業経済地域(NIES)、そして、ASEANを両翼にした形で発展が波及してきたとする雁行型経済発展論がありました。この雁行飛行は、その後「改革開放」の中国に着地し、中国と発展の機会を分かち合ったといえます。今、一帯一路発展戦略が、雁行型経済発展、改革開放を踏襲し、東アジアだけでなくアジア、欧州、太平洋地区とアフリカの一部を含むさらに広範囲な上空に舞おうとしています。その先にあるものは「シルクロードFTA」の構築ではないでしょうか。

一帯一路は中国文明、インダス文明、メソポタミア文明、エジプト文明など古代文明の発祥の地を通っています。多様な価値観や宗教が交錯し、経済発展段階の異なる多くの国・地域が存在します。一帯一路の目的達成には多くの困難が付きまとうのは明明白白ですが、その広大な地域に、共同発展と共同繁栄を主旨とする一帯一路発展戦略が提起され、多くの国が賛同の意を示していることに、大きな意義があると言っても過言ではないでしょう。

今年のボアオ・フォーラムは、その意義を確認し、アジアの新未来を考える絶好の機会となったのではないでしょうか。

 

注1 改革開放との類似では、海外経貿合作区を当該沿線国・地区と共同建設し外資導入の拠点づくりを行うなど、改革開放での経済特区・経済技術開発区・新区などの建設の経験が生かされている。

 

人民中国インターネット版 2015年4月7日

 

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