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外貨準備の運用を多様化 AIIB拠出など幅広く

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

5月1日は2010年の上海万博の開幕5周年でした。目下、その上海万博と開催期間を全く同じくして、ミラノ万博が開催中です。上海万博は内外からの参観者が7000万人超となるなど、多くの点で万博史の記録を塗り替えました。「中国人海外観光意識調査」(『人民日報』4月5日)によると、欧州観光の人気が高まっているとのことですので、ミラノ万博会場で中国人の姿を見かける機会が増えるのではないでしょうか。ちなみに昨年の中国人海外観光客数は、日本の人口にほぼ相当する1億1500万人に達し、世界最多だったと推定されています(「中国国際移民報告(2015)――青書」社会科学文献出版社)。

上海万博のテーマは、「より良い都市 より良い生活」、ミラノ万博は、「地球に食糧を、生命にエネルギーを」です。「住」から「食」へとテーマがバトンタッチされたと言えるでしょう。生活の基本は、衣、食、住です。最近の万博テーマを見る限り、「民生」がクローズアップされていることが分かります。

民生向上に向け質的な転換

今、中国では「民生」をどう向上させてゆくかが最大の関心事項の一つになっています。習近平国家主席(党総書記)が打ち出した「四つの全面」では、全面的な小康社会の達成が強調されていますが、その重点は民生の向上にあります。民生向上には、経済成長の裏付けが必要です。昨年は前年比7・4%成長でしたが、今年の第1四半期は前年同期比7・0%成長でした。中国経済はこれまでの高速成長から中速成長へと転換しつつあるという「新常態(注)」が鮮明になってきました。

この中国経済に現れた「新常態」を中国経済が失速する予兆とする見方がありますが、筆者は経済の量的拡大から質的向上への調整、転換過程とみるべきだと考えています。経済成長の最大目的の一つは、民生向上にあります。では、7・0%成長下で民生はどうなっているのでしょうか。一例をあげれば、同期の都市部における新規就業者数は320万人で、相対的に安定しているとみられています。10年前には経済成長率が1%増すと、80万人余が就業できましたが、経済規模が大きくなった現在、170万人が就業できるといわれます。成長率が多少下がっても、新規就業者数に大きく影響することはない状況にあるわけです。また、全国住民の可処分所得の実質成長率は8.1%で経済成長率を上回っています。数字の上から見る限り、経済成長の中速化でも、民生向上が図られていることがわかります。

ちなみに、世界銀行の予測では、中国の2015年と2016年の成長率を、それぞれ6・7%、6・9%としており、中国が予測している7・0%前後に符合しています。

対外関係に表れる「新常態」

さて、中国経済の中速成長化は言うに及ばず、対外経済関係においても「新常態」は少なくありません。例えば、外貨準備の運用先の多様化について見てみましょう。

中国が、日本を抜いて世界第2位の経済大国になったのが、上海万博のあった2010年でした。今や、中国の国内総生産(GDP)は日本の2倍となり、米国を抜いて世界最大の経済大国となるのも時間の問題とされます。さらに、中国は世界最大の貿易大国・外貨保有国です。その外貨の運用先に異変が起きました。今年2月、日本がわずかの差(7~8億㌦)ながら、中国に代わり米国の最大の債権国となりました。中国は過去数カ月間、米国国債の保有量を減らし続けています。外貨準備のドル離れが進んでいるわけです。その背景にあるのは、外貨準備の運用先の多様化―海外投資の奨励、アジアインフレ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金、BRICS開発銀行への出資、人民元レートの安定化への拠出など―が指摘できます。今後、中国企業や人民元の国際化、周辺諸国や新興諸国との関係強化のための運用がますます増えてくるのではないでしょうか。

 

 

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