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日本に来てから間もなく、東京都渋谷区の観世能楽堂で、日本の古典芸能である「能」を観賞するチャンスに恵まれた。
もともと伝統芸能に関心があったので、能については聞いていたが、これまでは観賞する機会がなかったのである。当日、私は早々と能楽堂に足を運んだ。
能舞台は、非常に独特なつくりの建物である。正面から見ると、まるで開放された日本民家のようだ。屋根のある建物には、廊下のような「橋懸り」が付いている。私はプログラムを見ながら、「地謡」や「仕舞」をじっくりと観賞した。隣に座った友人は、ぐうぐういびきをかいていたが、私は興味津々で、一心にこの古典芸能の精華をつかみとろうとしていた。そればかりでなく、チャンスがあれば、ぜひ能のイロハを学んでみたいと思ったのである。
そして、ついにその日がやってきた。友人の紹介で、東京都文京区にある岩屋稚沙子先生の稽古場を訪れた。岩屋先生は観世流の主役「シテ方」の能楽師で、毎週月・水曜の午後に、そこで能楽ファンを指導している。この日、一緒に学んだのは、女性の吉水さんと斉藤さん、それに中村さん夫妻だった。学ぶ内容は、それぞれの好みによって「仕舞」や「地謡」が選ばれた。
能の決まりにしたがい、白い足袋に履き替えて、稽古場に入った。私が選んだのは地謡で、『鶴亀』の中の一節である。赤いじゅうたんの上に、先生と対面して座った。目の前には見台が置かれ、その上には各種の符号でいっぱいの謡本が置かれていた。
私は、左手を膝に置き、右手で扇子をとって、先生の後について謡った。伴奏音楽がないので、その独特な節まわしや発声は集中して体で覚えるほかない。先生に二回教わった後、「今度は自分で試してみてください」と言われ、思い切って声をあげ、一曲謡ってみることにした。その後、先生や皆にお世辞にも誉められたが、「まだダメだ」というのは自分が一番よくわかっていた。しかし練習するうちに、能の魅力がわかってきたような気がした。
休憩時間に、皆といろいろ話した。「能を学ぶのは好きだからです」「能の曲調、舞いのほか、伝統文化が持つ優美な味わいがいいですね」と皆は話してくれた。
能は日本の伝統芸能の一つだ。一見すると難しそうだが、それが好きなら心身ともに楽しめるだろう。能を学んだ時間は、本当に楽しかった。また、私にとっては特別な意味もある。それは、私が日本や日本の芸術、日本人への理解をより深めるための「窓口」になっているのである。
(本誌東京支局長・張哲) |
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