数で言えば、上海の博物館は首都北京には到底及ばないが、北京やほかの大都市にはない個性的な博物館がいくつかある。例えば、武定路にある「中国古代性文化展覧」は、中国古代における性を社会人類学的にとらえた博物館。芸術や宗教、婚姻制度といったさまざまな角度から展示されていて、見応えがある。そのほかにも、銀行博物館、都市計画展示館など興味をひく博物館があるが、なかでもおすすめしたいのが、「中国民族楽器博物館」(上海市7シン路1号 п@021―6292―2852)。上海市中心部から車で30分ほどのシン荘地区にある。
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戦国時代に宴席で使われた太鼓・虎座鳥架鼓 |
中国の博物館というと、広い敷地にどーんと規模の大きな建物、という印象が強いが、ここは小さな小さな博物館だ。民族楽器の製造では内外に聞こえる「上海民族楽器一工場」の敷地内にある。200平方メートルあまりとこじんまりはしているが、民族楽器を扱った博物館としては国内で最大規模、展示品の種類も豊富だ。
開館は1986年で、国内・国外の参観者は1万人あまり。上海っ子にも、その存在はあまり知られていない。陳列されているものはすべて複製だが、中国の民族楽器の発展の過程、西洋音楽の楽器のルーツなどを見ることができ、一見の価値あり、だ。
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銅鑼を組み合わせた雲鑼 |
動物の骨に穴をあけて作られた笛「骨哨」は7000年前の新石器時代のものとされている。イタリア人が19世紀半ばにつくったオカリナの原型を見るような土製楽器「骨は今から四千年前の夏代のもの。その形も魚や牛の頭を模しており、コミカルだ。
写真にある「虎座鳥架鼓」は戦国時代(紀元前475〜前221年)に宴席で使われた太鼓で、対になった鳥と虎の細工が面白い。
長い歴史を有する中国は、楽器も実に多彩なのだ。そのバリエーションの豊富さは、北京オペラの京劇に使われる楽器を見れば、一目瞭然。
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京劇に使われる月琴や快板 |
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琵琶を彫る職人 |
弦楽器は、「京胡」「二胡」などの胡弓をはじめとして、マンドリンに似た「月琴」、日本の三味線のルーツとなる「三弦」、低音域が美しく、西洋音楽で言えばベースの役割を果たす「院」。
管楽器では、横笛の「笛子」、合戦の場面や馬など動物の鳴き声を表現するチャルメラの一種、「哨トツ」。「笙」は、竹でできたリード部分を震撼させて音を出す楽器だが、金属板を振動させるアコーディオンやハーモニカの先祖だ。楽器学の教科書によれば、アコーディオンやハーモニカの先祖として、笙が系統図の上の方に掲げられているという。
打楽器の種類も多い。京劇では風や水の音、さらに闇さえも打楽器で表現したりするから、短冊型で拍子をとる「快板」、一面だけ皮の張られた太鼓の「班鼓」、大小の「銅鑼」など、種類も多い。
京劇は、中国の伝統演劇の集大成。上海で越劇や昆劇が今も演じられるように、各地方にはそれぞれの特徴を持った伝統演劇が残っている。というわけで、使用する楽器も微妙に異なり、その数だけ民族楽器も存在している。
楽器の多彩さもさることながら、楽器に施された細工も優美だ。蒙古族が使う二弦楽器の「馬頭琴」は、さおの頭の部分に馬の飾りがあり、「班鼓」の足には竜の姿がかたどられている。銅鑼を組み合わせた「雲鑼」の上部にも、吉兆の鳳凰や竜が舞う。
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館内は民族楽器の「宝庫」だ |
改革開放政策のもと、西洋音楽が流入したことで一時期、民族音楽は停滞し、民族楽器の需要も横ばいの時期が続いた。しかし最近は、音楽の世界にも回帰現象が起きている。伝統音楽だけでなく、クラシックやポップスに二胡などが使われるようになった。また、博物館を案内してくれたスタッフによれば、子供の情操教育のためにと琵琶や二胡、古箏など民族楽器を習わせる教育熱心な家庭も年々増えているらしい。
こうして、新しい世代にも確実に民族楽器の歴史は引き継がれていくのだ。
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