「いくらかゆとりのある社会」を築く
――中国共産党第16回全国代表大会の傍聴記

                      丘桓興

 
中国共産党のマイルストーンとしての意義を持つ第16回全国代表大会(撮影 丘桓興)

 2002年11月8日、北京は、陽光が燦燦と降り注ぎ、大通りや街角には大きな提灯が高く掲げられ、色とりどりの旗が翻っていた。

 天安門広場は花壇で飾りつけられ、喜びに満ちた雰囲気が漂っている。

 祝日でもないのに、祝日よりももっとうきうきした気分で市民たちは、それぞれのやり方で、この日から14日まで開催された中国共産党第16回全国代表大会(16大)への喜びを表していた。

 6600万余りの党員を擁する中国共産党が執政党として打ち出す国を治める政策に対して、人々は熱い期待を抱いていた。

 

経済は目覚しく発展した

 大会の開かれた人民大会堂の休憩ホールに、美しい民族服装をまとった女性がいた。24歳の竜飛鳳さんである。彼女は湖南省の江華ヤオ族自治県から来た農村の女性幹部である。

 「ヤオ族の代表としてこの大会に参加できたことがうれしい」と彼女は言い、自分の郷里の変化を話し出すと、その口調はまるで機関銃のようだった。

米国のニューヨークに落成した海爾ビルのテープカットをする山東省の青島海爾集団の張瑞敏CEO(中央)

 「ヤオ族の住むところは辺鄙な深山で、以前は道路も電気も通じていなかったのですよ。でも今は、アスファルトの舗装道路が敷かれて、電気も通じ、パラボラアンテナを設置してテレビも観られるようになったのです」と言うのである。

 この数年来、改革が絶えず進み、一部の国有企業も次第に苦境を抜け出しつつある。山東省から来た高級技術労働者の陳宝昌さんは、彼の勤めるホォ坊ディーゼルエンジン工場について、誇らしげにこう言った。

 「数年前には、私の工場の敷地には、売れないディーゼルエンジンが山積みになっていて、工場の脇には肉まんじゅうの店が開かれていました。従業員は何カ月も給料を受け取っていなかったのです。ところが今は、買い付けの商人が列を作って並んで待っているほどになったのです」

湖南省の江華ヤオ族自冶県からきた竜飛鳳代表(撮影 丘桓興)

 美しい景色の名勝、安徽省黄山市から来た市委員会書記の盛世凱さんは、中国のこの十数年来の目覚しい発展の道のりを振りかえり、こう述べた。

「神州3号」は甘粛省酒泉で打ち上げに成功さた

 「20世紀の90年代以来、世界の情勢は激しく変化しましたが、それに直面した中国の指導者は驚き慌てず、『発展』という方法を用いて各種の難題を解決してきました。今は、人民の暮らしが、衣食が足りる状態から、いくらかゆとりのあるものになり、オリンピック招致は成功し、世界貿易機関(WTO)にも加盟したのです。また、『神州』号(宇宙飛行試験船)が順調に空に打ち上げられたり……」

 改革開放以来、とくにこの13年来、中国は一心不乱に建設を行い、経済は急速な発展を続けてきた。最近、中国国家統計局が公表した中国経済の現状や人々の暮らしを示す数字は――

 ●2002年の中国の国内総生産(GDP) は10兆元、経済成長率は7・9%
 ●中国の都市住民の家庭財産の総額は、一所帯平均、22万8300元
 ●2001年の全国の都市住民の一人当たりの住宅面積は22・3平方メートル(1978年は7平方メートルだったから、3倍以上になった)

 中国はすでに「小康」(いくらかゆとりのある)社会に入ったが、もちろん、その水準はまだ低い。16大の代表で、国家経済貿易委員会経済研究センターの李明星博士の話によると、2001年の中国のGDPは1兆2000億ドルで、世界の第6位だが、アメリカのGDPは中国の9倍、日本は4倍、ドイツは約2倍、イギリス、フランスも中国より多いのである。

どうやって豊かになるのか

 世界が注目する中で開かれた今度の大会で、江沢民総書記は『いくらかゆとりのある社会を全面的に築き上げ、中国の特色のある社会主義事業の新局面を切り開こう』と題する報告を行った。この報告は、ほぼ13年にわたる仕事と経験を総括したうえで、「小康社会」を全面的に建設するために奮闘する目標を提示した。それはつまり、これからの18年間で、十数億の人々が暮らす、より高い水準の「小康社会」を全面的に建設し、2020年のGDP を2000年の4倍にするよう懸命に努力するということである。

急速に発展する中国の高速道路

 この壮大な青写真は、代表たちを非常に喜ばせ、奮起させた。しかし、中国の東部と中西部地区では格差があり、代表たちがそれぞれに心の中に描いている「小康生活」の姿はいくらか異なっている。

 湖北省の山岳地帯で小学校の校長をしている胡安梅さんが描く2020年の生活は、一年中、食べたい物が何でも食べられ、どの家にもオートバイか小型乗用車があり、みんなマンションに住み、電気が通じ、電話があり、テレビ、冷蔵庫、洗濯機を持っているという暮らしだ。

 改革開放がもっとも早く行われ、発展が最も速い広東省の代表たちにとっては、カラーテレビや冷蔵庫、洋風のビル、自動車がすでに少しも珍しくなくなっている。彼らが考えているのは、家庭にはパソコンがあり、外国旅行をするという生活だ。

 中国では一番の富裕村といわれる江蘇省江陰県華西村の村民たちは、自分たちがすでに、「中康生活」(かなり豊かな生活)のレベルに達していると考えている。

 社会学者たちは、「小康社会」に対して次のように分類して全面的に分析している。それによると、現在の低いレベルの「小康」は、ただ「生存型消費」(生きてゆくに必要な消費)を満たしているだけだが、未来の「小康」は、「発展型消費」(さらに発展するための消費)と「享受型消費」(楽しみのための消費)をも含めて満たすものだ。「発展型消費」には、教育、文化、医療の保健、旅行とレジャー、各種の社会保険などの消費が含まれており、「享受型消費」は、安らかな暮らし、自動車、生態環境などである。

 経済学者たちは、数字を挙げて現状と未来を説明する。李明星博士はこう考えている。中国が2020年にGDPを2000年の4倍にするなら、GDPは4〜5兆ドルに達しなければならない。これはこれからの18年間、年平均7%以上の経済成長率を維持しなければならないことを意味している。基となる数字がどんどん大きくなるのだから、これは決して容易なことではない。

2002年11月、上海で中国国際観光交易会が挙行された

 もちろん、代表たちは未来の発展に、十分自信を持っている。国務院発展研究センターの王夢奎主任は、中国は現在、すでに各種の有利な条件を備えていると考えている。

 その第1は、中国がまさに急速に拡張する段階にあり、投資と消費にきわめて大きな市場の潜在力があることだ。

 第2は、比較的十分な物質と技術の基礎を備えていること。例えば食糧、肉類、鉄鋼、石炭、セメント、電話と携帯電話などは世界第一位であり、設備容量、高速道路の総延長と外貨準備高はいずれも世界第二位を占めている。

 第3は、より完備した体制の条件が整っていて、基本的に計画経済から市場経済への転換が実現し、公有制と各種の所有制とがともに発展する配置が基本的に形成されていることだ。

 第4は、対外開放が新たなレベルに引き上げられ、外資の導入が発展途上国の中で第一位となっていること。

 第5は、十分な人的資源を備えていること。

 第6は、比較的安定した国際環境の中にいること……等等である。

 中国共産党は21世紀に入って初めて開いた党大会で、「小康」の社会を建設し、豊かな生活を造りだすことを大会の主要テーマとし、これから奮闘の目標にした。これは大いに代表たちの励ましとなった。代表たちはみな、自分の肩に担ぐ荷物の重さを量りながら、経済、社会、文化をどのように発展させ、いかにして人々の財布を膨らませるかについて考えを巡らせたのである。

「三つの代表」が行動の綱領となる

 もっとも注目されたのは、今回の大会が「三つの代表」という重要思想を、党規約に書き入れ、それを党の指導的思想とし、新世紀における行動綱領としたことである。

 「三つの代表」とは、中国共産党が中国の先進的な生産力の発展の要請を代表すること、中国の先進的な文化の前進の方向を代表すること、中国のもっとも広範な人民の根本的利益を代表することを指す。この思想はマルクス・レーニン主義、毛沢東思想、オヒ小平理論の継承であり、発展である。

 「三つの代表」という思想は、江沢民総書記が2000年2月末、広東省高州で開かれた幹部会議の席上、初めて提起し、その後絶えず豊かに発展させて形成されたものである。

 「三つの代表」は科学的なイデオロギー体系であり、人民大衆が改革開放と現代化建設を実践する基礎の上につくられた理論的な新機軸である。「三つの代表」の推進によって、中国の制度、科学技術、文化とその他の方面の革新が必ずもたらされ、先進的な生産力と先進的な文化を発展させ、人民のために利益を図るという広大な党員の力を、必ず奮い立たせるであろう。

急激に発展している中国の新しいハイテク産業

 山東省の青島海爾集団公司の党委員会書記で、CEO(最高経営責任者)の張瑞敏さんは「三つの代表」を実践していることで有名な人物であり、大会を取材する国内外の記者団にいつも取り囲まれていた。

 1984年、彼は破産寸前の二社の小さい工場が合併した日用電気製品の工場を引き受けたが、147万元の赤字も引き継いだ。しかし、彼は眼光鋭く、市場に狙いを定め、これからは大容量の冷蔵庫が売れると見込み、敢然としてドイツの有名企業と協力して、生産ラインを導入した。1985年に工場を改造して生産を始め、その年に利潤を上げた。3年目には年商1億4500万元に達し、1200万ドルの外貨を獲得した。

 彼は経営に精通し、厳格に管理を行った。創業したばかりのころ、彼は重いハンマーを持ってきて、76台の不合格となった冷蔵庫を、それを造った本人に自分の手で打ち壊させた。こうして、中国で初めてのブランド商品の冷蔵庫が造り出されたのだった。

 彼は「ショックで気を失った魚を活かす」理論を打ち立てた。その理論に基づく科学的管理制度で、つぎつぎと危険に陥っている企業を改造し、「ショック状態」の企業を生き返らせたのだった。現在、海爾の冷蔵庫、洗濯機、エアコン、コンピューターは、国際市場で「海爾の衝撃波」となっている。張瑞敏さんの次の目標は、海爾を世界のトップ500の企業の中に入れることである。

 国家と民族のために巨大な貢献をした張瑞敏さんは、新しい第16期の中央委員候補に選ばれた。

中央の新しい指導グループ

新しく選ばれた中央政治局常務委員が、国内外の記者と顔を合わせた

 今度の大会では、新たに第16期の中央委員会メンバーが選出された。356人の中央委員と中央委員候補の中で、新人は180人であった。中央委員と中央委員候補の平均年齢は55・44歳で、98・5%の人が大学以上の学歴を持っている。

 新しい中央政治局常務委員会は、胡錦涛、呉邦国、温家宝、賈慶林、曾慶紅、黄菊、呉官正、李長春、羅幹の各氏で構成される。胡錦涛氏が中国共産党総書記に就任した。才徳を兼ね備え、若くて精力旺盛な、党と人民の推戴を受けた新しい中央指導グループであると広く認められている。

 全党と全国の人民を指導して改革開放と現代化建設を行って偉大な成果を収めた江沢民氏ら第三代の指導グループは、このたび、率先して中央指導者の職から退いて、共産党員の広い心と高い節操を示し、多くの人々の称賛を受けた。

 新しい中央政治局の第一回会議において、全員が、清廉公正で、ひたすら公のために尽くし、意識的に党と人民の監督を受け入れて、本当に国事に力を尽くし、全力でやり遂げる……と一致して表明した。