個性的な内装を楽しむ

 
 中年に差し掛かった于さんは、7カ月をかけて、ようやく新しい部屋の内装を終えた。彼は、北京市亜運村(アジア村)にある高級マンションを手に入れるために、100万元以上をつぎ込み、さらに50万元をはたいて内装を行った。(※中国では、殺風景な内装をほどこすだけで部屋を販売するケースがあり、購入者が好みに合った内装を行うことも多い)

 新しい部屋を自分好みのヨーロッパ古典風に仕上げ、応接間の中央には、暖炉とソファーを添えた。多くの中国家庭のように、ソファーでテレビを囲む配置にしなかったのは、友達を招いて気軽におしゃべりするのが好きなためで、おのずと人とは違った内装になったという。

内装は、于さんが自分でデザインした
趙雪松さんの茶室

 また、音楽鑑賞用の部屋も作った。木製の床板、壁、天井には、それぞれ吸音素材を使った。主人が音響マニアであることは、一目瞭然だ。無線電信を学んだ彼は、音楽を心から愛している。いま、音響設備専門のメーカーを経営していると書けば、収入の多さに触れる必要はないだろう。

 一般家庭では、于さんほどの大金を内装につぎ込むことはできないが、心地よい居住環境への追求はなんら変わらない。なぜなら、室内インテリアを一新することは、生活を新鮮で活気あるものに、最もスピーディーに変えることができ、時代の潮流に乗り遅れないことを意味するからだ。また、内装を作り上げていく過程では、自分で自分の生活をデザインするという快感も得られる。ここ数年、中国人の内装への投資額は、住宅や自動車に次ぐ高額消費となり、同業界の急成長を支えている。

 于さんの部屋で、青島から息子に会いに来ていた両親と会うことができた。彼らは、青島の3DKの古い部屋に住んでいる。2年前にリフォームした際には、木製の窓枠をプラスチック鋼製に変え、壁を塗りなおし、コンクリートの地面に強化ベニヤ材を敷いた。大したお金は掛けなかった。「古い部屋だもの。清潔ならそれでいいのよ」と母親は言う。息子の部屋の内装については、きれいさは認めながらも、贅沢すぎると感じている。応接間の大きなヨーロッパ風ランプを指差して、「見てよ、あれ。あんなの何になるの? 大金をはたいて買うなんてどうかしてるわよ。もし私にくれても、置く場所はないしね」

 中国では、以前は自分の部屋に内装をほどこすことはなかった。不動産管理所や各機関、部門が、数年ごとにしっくいを塗り、傷みの激しいところを局部的に直すのが関の山だった。

 1990年代半ばから、中国では徐々に福利住宅分配制度が廃止され、多くの人がそれまで公有だった住宅を購入した。人びとが所有権を手に入れたことで、「内装をほどこす」という概念が生まれ、自分の部屋をいかに魅力的で快適にするかを模索するようになった。

 「内装をほどこすという概念」は、いくつかの発展過程を経て現在に至っている。当初は、「少ない投資で出来る限りの手を加える」原則のもと、実用的な部屋にすることが第一目的だった。例えば、ベランダを密閉して小部屋にしたり、台所の流し台の下を貯蔵棚に変えたり、洗面室の壁にタイルを貼り浴室として使えるようにしたりした。

青島から息子に会いに来た両親だが、息子は忙しく、夜になってようやく話をする時間を持てた

 中国には、内装の素人しかいなかったため、様式はお互いに模倣し合った。ある人がコンクリートむき出しの床に床板を敷けば、近所の家でも真似をして同じ素材を使った。その後、ゲストハウスやホテルの内装が豪華で立派だと考える人が現れ、自宅のドア、窓枠、暖房用のスチーム管を木製素材で囲い、天井には石膏でおしゃれな模様をほどこし、壁にはプラスチック素材の壁紙を貼り、床には化繊のじゅうたんを敷くようになった。

 開放と経済の発展に伴い、人びとの内装に対する考えが変わり、風格、品位、個性をより重んじるようになり、自分に適した生活スタイルを強調するようになった。

 「自分に合った家こそが、本当の自分の家」――30代の趙雪松さんは、部屋の内装に大いに満足している。彼は広告会社のマネージャーで、学生時代は美術を学んだため、中国の伝統芸術に愛着を持っている。彼の部屋の内装はモダンだが、古風で落ち着いた中国の伝統的インテリアが目を引くデザインになっていて、伝統と現代が調和している。彼のご自慢は、小ぶりの3DKのひと部屋に茶室を設けたことだ。木製の床板、竹製のカーテン、松の木の根元で作った茶卓は、小さな茶室に、大自然の清らかで温かい生活の息吹を充満させている。

内装がもたらす苦楽

 于さんの部屋で、私とカメラマンは、応接間にあったヨーロッパ風の暖炉と、機能充実のシステムキッチンに魅了されてしまった。しかし、于さんは、言いたいことが山ほどあるようだ。

 「内装はすばらしい出来だけど、それでも残念なところはたくさんあるんだ。思ったほどの効果が出なかった部分があってね。例えば、洗面所の配管は変えられないので、衛生陶器(陶器の洗面台、便器など)の配置が合理的ではなくなってしまったんだ。洗面所の施工にも問題があって、内装が終わってすぐに、壁からタイルが落ちてしまった……」

何でもそろうインテリア市場

 内装を終えたほとんどの人は、例外なく同じような経験をしている。苦労に苦労を重ねて作業を終えた時の感覚は、決して気持ちの良いものではない。「ようやく終わった」と息をついた後、疲れ果てた彼らの目に入ってくるのは、満足できない箇所や数え切れない後始末の数々だ。

 実は、于さんが依頼したのは、専門の内装会社だった。施工の品質は、ほぼ保証されていると言ってよく、一年のアフターサービスも受けられる。もし、専門会社に依頼せず、「道端ゲリラ」に任せたら、どんな事態になるかは、想像するのもおそろしい。いわゆる「道端ゲリラ」とは、道端でアルバイト探しをしている出稼ぎ農民労働者のこと。彼らは、「内装工事を請け負います」と書いた小さな木の板を地面に置いている。低価格が売りだが、品質の保証はない。壁にひびが入り、水漏れが発生し、床板が浮き上がるなどの品質上の問題が発生した時には、すでにどこかにいなくなってしまっている。

建材市場にデザイナーを常駐させ、顧客の期待に沿うデザイン案をパソコンの平面設計や三次元設計で提供する内装会社も増えている

 興味深いのは、人びとは、専門の内装会社を信用するようになってきたが、内装材料は自分で選ぶ人が多いことだ。これは、内装材料の種類が非常に多く、価格も千差万別だからだ。多くの人は、内装会社に材料購入を任せていては安心できず、自分好みの材料を適正価格で購入したいと望んでいる。

優良な内装技術と、行き届いたアフターサービスが、内装会社選択のカギ

 于さんの部屋の床板からタイル、壁紙、衛生陶器、システムキッチン、電灯類、各種の金物材料、家具、装飾品までのすべての内装材料は、彼自身が自分の目で選んだ。もともと音楽や音響しか知らなかった彼も、数カ月のうちに、内装のにわか専門家になった。「内装工事をする際には、私が無償で設計と材料のコンサルティングを買って出ますよ」と冗談めかして言った。

 内装材料の購入には、確かに要領がいる。筆者の友人は、内装にかかる前に市場調査をし、6万元で足りるだろうと予想を立てた。しかし、2カ月の内装工事が終わると、8万元近く掛かってしまったことがわかった。彼女は、「安物に良い品はないって言うじゃない。私、何にもわからないから、高い材料を買うしかなかったの。予算オーバーしない方がおかしいくらいだわ」と話した。その上、建材市場にも、ニセモノを本物、劣等品を高級品と偽る「落とし穴」がある。そのため、中国人が内装工事を行うようになって以来、建材の品質へのクレーム率は、一度も下がることなく伸び続けている。

健全な建材市場の確立が待たれる

競争が激しくなり、販促活動の一環として、抽選で「1カ月の乗用車使用権」を提供する建材市場も現れた

 内装建材市場の玉石混交は、急速に膨張した需要と関係が深く、業者間で市場のパイの取り合いを続けている。専門家の分析によると、中国の住宅建設の需要は、毎年15%成長すると予測され、2005年までに、全国で少なくとも15億平方メートルの都市住宅と35億平方メートルの農民住宅が建設され、29億平方メートルの既存住宅がリフォームされる。新旧住宅に関わらず、内装の需要はある。しかしここ数年、巨大マーケットがますます多くのメーカーをひきつけるにともない、供給が需要を上回り、競争が劇化し、品質重視の様相になってきた。

 北京の三環路及び四環路の周辺には、すでに百軒以上の大中型建材市場がある。これらの市場では、建材、インテリア用品などが販売されていて、専門の内装コンサルタント会社も進出している。多くの市場では、すでに、過去の自由出店方式から、許可出店方式に切り替え、法を守る会社、品質を重視する店舗のみ、入居が許されるようになった。

「破壊工事」と呼ばれる規範化されていない内装工事は、淘汰されつつある

 亜運村近くの建材市場「居然之家」では、「賠償金の立替払いサービス」を実施している。商品に欠陥があり、しかも、メーカーが賠償金の支払いを引き伸ばすか、あるいは支払い能力がない場合に、建材市場側が消費者に対して賠償金を立替払いし、改めてメーカーと協議して問題解決を図る。

 2001年冬には、この市場が販売したスチーム管に水漏れが発生し、一部の消費者の真新しい木製の床板を傷めてしまった。メーカーは過失を認めたが、賠償能力はなく、建材市場が立替払いを行った。このようなサービスへの消費者の評価は高い。

 一般的な品質的欠陥は、賠償で解決できるが、中には複雑なものもある。あるメーカーの内装材料の有害物質含量が指標を超え、室内環境を悪化させ、消費者の健康を害したとの新聞報道が、ここ2年ほどさかんに行われた。すでに裁判所に訴えた被害者もいる。


環境にやさしい素材が人気の的
各種インテリア雑誌やビデオCDが内装へのヒントを与えてくれる

 建材に有害物資が含まれるか否かは、消費者にはわからない。2002年初め、中国国家質量検査総局と国家標準化管理委員会は、「室内インテリア、内装材料の有害物質の限度量」を定めた十項目の国家基準を公布した。販売者と消費者は、これらの基準に基づき、基準から外れる製品の販売と使用を拒否できる。また、何らかの問題が発生すれば、すぐに関連法律に照らして解決を図る。

 今日の内装業界は、ますます規範化が進んでいる。同時に消費者も、ますます成熟してきた。于さんが住む高級マンションでも、内装工事を準備中の部屋のオーナーが連絡を取り合い、手分けして各種建材について市場調査を行い、その品質、価格、環境保護性能などを確認している。そして、共同で同じ建材の価格交渉を行う。「それでもやっぱり体力を使う。もし、もう一度部屋を買うことになったら、今度は、内装済みの部屋にするよ」――こう話した于さんは、あきらめきったような顔をしていた。

 近日、国家建設部の担当者は、住宅建設部門が、さらに多くの良質な内装済み商品住宅の投入を提案したと発表した。これに対する人びとの反応は様々で、反対者は、個性を制限されることになると考えた。確かに、これは難しい問題で、最終的な解決は、市場の選択にゆだねるしかなさそうだ。


∇内装工事の費用例(100平方メートル当たり、北京)
 ・標準 3〜5万元
 ・中級レベル 10万元未満
 ・中・高級レベル 10万元以上〜20万元未満
 ・高級レベル 20万元以上

∇内装工事の費用内訳(于さんの例)
 ・内装会社への支払い(一部建材費含む) 18%
 ・家具などのインテリア製品 38%
 ・建材費 44%

∇人気の建材「プラスチック鋼製の窓枠」
 「プラスチック鋼」とは、鉄を軸にして、プラスチック素材を注入した建材。各種ドアや窓枠に加工される。木製、鉄製、アルミサッシと比べて気密性が高く、見た目もよく、清掃にも便利。

システムキッチンのショールームで、消費者は、内装後の台所をイメージできる