【上海スクランブル】


心つかんだ 上海流の日本風呂とラーメン屋
                             須藤美華

ラーメン界の「変わり種」
 進取の気象に富む上海は、外国文化を上海流にアレンジするのが上手い。最近は意外なところで、日本文化に出合う。

 上海にレストランは3万軒、うち3000軒がラーメン屋と言われる。超激戦のラーメン屋業界で勝ち抜くためには、そんじょそこらの差別化では、ままならない。そこで、登場したのが、なんと回転ラーメンだ。日本料理はヘルシー志向の上海っ子に人気があって、回転寿司チェーン店も市内あちこちにあるが、ラーメン屋にまで回転カウンターがお目見えしたのだ。

 回転ラーメンを思いついたのは、市内でレストランを経営する夏東輝さん。日本留学の経験もある彼女は、他店とは違う店作りを考えるうちに、回転カウンターを使うことを思いついたという。

40種類の具材がクルクルと回転する

 回転ラーメンと言ってもラーメンの丼が回るわけではないので、麺が伸びたりはしない。ここ「夏麺館」のラーメンは、上海に隣接する蘇州を冠につけた蘇州式で、具材と麺を別々に出すスタイル、40種類の具材がクルクルと回転する。具材の値段によって、お皿も白(5元、1元は約15円)、緑(8元)、黒(13元)と色が分かれる。麺は、スープ麺(湯麺)と具をあえる拌麺の二種類。スープ麺のスープは、10時間煮込まれているが淡白なスープで、化学調味料は使っていない。

 一時間半限定だが、18元以下のメニューとビール・紹興酒であれば、食べ放題飲み放題で98元というサービスもある。

 エルメスやルイ・ヴィトンなどスーパーブランドがずらりと並ぶ、今一番オシャレなビル「恒隆広場(プラザ )」内にあるだけあって、回転ものだからと言ってチープな空間ではない。店内には趣味のいいアンティーク家具がさりげなく置かれ、なかなか洗練されていて居心地もいい。

家族連れ、接待族でにぎわう健康ランド

 温泉好きは、何も日本人だけに限らない。上海市民の余暇の過ごし方のひとつになってきた。

 しかし、温泉と言っても、地中から湧き出るお湯ではない。湯河原、浅草、京都などの日本の地名や「日本式」をかかげた大規模浴場のこと。3、4年前から次々にオープンし、現在上海市内に十数か所ある。

 入浴後にはマッサージや垢すりのサービスが受けられるほか、温水プールや卓球、ボーリング、麻雀などのプレールーム、食事ができる宴会場も併設。老若男女が楽しめる、いわば健康ランドとなっていて、大人気なのだ。

 先日は、市内の「湯河原」ではなく、やや郊外の「浅草温泉浴場」へ足を伸ばしてみた。

 回転ドアを押すと、ロビー奥には25メートルの温水プールがあった。日本情緒の演出を意識したのだろう、プールサイドには瓦屋根が連なり、その下には提灯が揺れていた。

 浴室には中国ならではの人参、漢方、塩風呂などが揃っているほか、日本のそれを真似た露天風呂も作られていて、つい長湯をしてしまいそうな雰囲気だ。

広々とした宴会場も日本式

 一風呂浴びた後のビールの旨さに喜びを感じるのが日本人なら、一風呂浴びたら腹ごしらえをするのが中国人か。どこの温泉も、食事には力を入れている。人気レストランがマネジメントすることで、おいしい料理を売りにする温泉も出てきた。

 「浅草」の宴会場には日本の健康ランドよろしく小さな舞台もあり、客のカラオケこそないが、夜になると歌手のワンマンショーが開かれるという。個室には、地が真っ赤な浮世絵風織物が飾られていた。

 浅草のロゴが入った部屋着を着て、座椅子でくつろぐ家族が目に入った。元ドライバーという68歳の男性は妻と娘、そして孫娘の4人で、月に一回は地下鉄に乗って訪れるという。

 「娘が接待で来たことがあって、いいところがあるから行こうって誘うものでね。日本式に座るのも、なかなかいいものだね。それに何より清潔なのが、とてもいい。ゆっくりできて、いやー、いい気分だよ」と、湯上りの紅潮した顔をほころばせる。心と体を癒してくれる「温泉」は、上海っ子のハートをしっかりつかんでいるようだ。さて、次はどんな上海流日本文化にお目にかかることができるだろうか。

夏麺館
上海市南京西路1266号
恒隆広場五階
TEL(021)6288―1217

上海浅草温泉浴場
上海市滬閔路七九六六号(錦江楽園近く)
TEL(021)5480―4307