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システムキッチン、電気調理具などにより、料理時間を短縮できるようになった |
テレビの番組制作者である張文華さん(36歳)は、定時に帰宅し、キッチンでのんびりと晩ご飯の仕度ができたら、それだけで幸せだと感じる。おしゃれな食器や流行の炊事用品をそろえるのが好きな彼女のキッチンは、温かい雰囲気に満ちている。
キッチンはわずか4・5平方メートル程度の広さしかないが、空間を合理的に利用している。コンロと流し台の間には適度な調理台があり、吊り棚には各種の食器が整頓され、調理台下の収納には、様々な調理器具が入っている。
調理台の壁際には、包丁置きやよく使う調味料などが並び、コンロの下にある引き出し式のカゴには、なべ類がしまってある。キッチンのドアの後ろ側には食器棚があり、調味料や缶詰などの保存食品をそろえている。狭い空間ながらも、板、棚、フックなどを適切に利用することで、使い勝手はよくなった。
都市部の庶民のキッチンは、いまではどこも似たようなもの。キッチンが狭いのは以前と同じだが、配置、機能性、炊事用品などは大きく変わった。
かつて大雑院(平屋の寄り合い住宅)に暮らしていた人は、建物の外壁を利用して、三方を囲んで粗末な小屋を建て、台所とすることが多かった。小屋は、コンロと小さなテーブルを置けば、足の踏み場もないほどの広さで、常に食卓に上がった白菜やジャガイモなどは、地面に積んで置き、水は共同水場の水道を使った。そのため食事時になると、主婦たちは水場に集まって晩ご飯の支度をはじめ、とてもにぎやかだったが、そこでは喧嘩もよく見られた。
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忙しくても、旦那さんのためにおいしい料理を作る |
政府機関や大学などには、かつての旧事務棟を住宅に転用した「筒子楼」と呼ばれる建物があった。「筒子楼」には台所がなかったため、共同の洗面所が料理用の水場にもなり、各戸が戸口の前の廊下にコンロを置いて料理をした。夕暮れ時には、長い廊下が巨大な厨房に変わり、廊下には様々な匂いが充満し、包丁の音や野菜を炒める時の音、みんなのしゃべる声などが響きわたった。
もちろん、昔ながらの居民楼(アパート)にも、台所付きのものはあった。以前私が住んでいた居民楼は、1950年代に建てられたもので、台所は3平方メートルもなかった。様々な太さの水道管が見え、サビや練炭コンロのすすと油汚れが目立ったのを覚えている。
70年代以降、大都市の台所では、徐々にプロパンガスが使われるようになった。生活環境が良くなるにつれて、食生活が改善され、自分の家の台所を改装する人が出て来たのもこの頃だ。流し台の横に食器棚を作り、調理台にまな板を置き、下の棚になべなどをしまった。また壁に吊り棚をつけることで、こまごましたものを整頓できただけでなく、美観を損なっていた水道管を覆い隠せた。
80年代以降になると、中国人の居住環境はより改善された。新築マンションが、「筒子楼」や粗末な平屋建てに取って代わり、キッチンが広くなり、都市ガス式のコンロを利用できるところが増えた。改装の際に最も好まれるのは、システムキッチンである。キッチンの広さに応じて、流し台、吊り棚、コンロ、換気扇、冷蔵庫などのトータルデザイン、配置などを決め、合理的で美観を重視した空間にする人が多い。キッチンがますます重視されるようになり、多くの人が、キッチンの良し悪しこそ、家庭の経済力や生活レベルを現すと考えるようになった。
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キッチンには缶詰などの保存食品が並ぶ |
しかし、中華料理では、油をたくさん使うため、どんなに素敵なキッチンでも、汚れが目立ってしまう。換気扇を使うことで、汚れを抑えられるが、根本的な解決にはならない。中には、キッチンにつながるベランダを囲い、コンロをベランダに置き、料理の煙をより効率よく外に出してしまおうとする人もいるほどだ。
新しい商品住宅(マンション)では、顧客の好みに合わせて、ダブルキッチンの部屋を設計することもある。そんな部屋には、最近人気のリビングと一体になった欧米式キッチンとともに、吸引力の強い特別仕様の換気扇を取り付け、面積を狭くした中国式キッチンがある。
現実的に考えれば、油汚れの問題を解決する最善の方法は、面倒くさがらずに拭き掃除をし、油分の多い料理を控えることだろう。ただ、前者は時間がかかり、後者は食生活を満足させられないため、頭痛の種になっている。
増えるキッチンの仲間たち
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マントウや麺なども、既製品がスーパーで手に入る |
かつて、「キッチンは女性の領域」と言われていたが、とっくに古い概念になった。中国の共働き家庭では、男性が帰宅後にエプロンをかけ、キッチンで忙しく働く姿は、決して珍しいものではない。夫婦がキッチンで一緒に家事をすることで、二人の気持ちが近づくと考える人は少なくない。張さんも、夜遅く帰宅した時に夫が料理をしてくれると、思いやりや温もりを感じると話す。
ここ数年、ますます多くの小さな電気調理具が、中国人のキッチンに入り込みはじめた。よく見られるのは、ジューサー、豆乳しぼり器、オーブン、電動カッター、電子レンジ、クッキングヒーター、炊飯器など。電気なべのおかげで、なべをつつく際に煙にいぶされることはなくなった。「餅」(ホットケーキのような
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90年代半ば以降、システムキッチンが好まれるようになった |
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白いタイルの壁と、コンロの置かれたテラゾー(モルタルに大理石などの砕石を混ぜ、表面を研磨して光沢を出した人工石)の調理台。これが1970〜80年代の典型的な台所だった |
食べ物)を焼くホットプレートは、両面を一度に焼けるため、短時間でおいしい焦げ目をつけることができる。また電気がまを使えば、簡単にスープや粥を作ることができる。これらの「新兵器」により、効率よく料理できるようになったことで、人々の飲食習慣も少なからず変化した。
張さんのキッチンの目につく場所にジューサーがあった。野菜や果物からビタミンを大量に摂取し、健康でスリムな体を保つため、彼女はよく、ニンジンジュース、キュウリジュース、果物ジュースなどを作る。このように、多くの人が、科学的な食事、栄養に配慮した食事を摂るようになっている。
食器も、ますます凝ったものになってきた。どんぶりや大皿で食事をする人は減っていて、かつての質の悪いどんぶりは、陶製、ステンレス製、ガラス製などのおしゃれな食器に変わりつつある。調理具も多様化している。包丁を例にすると、用途に合わせて、長いもの、短いもの、幅広のもの、幅の狭いものなどが使い分けされ、各家庭に3〜4本、さらに多くの包丁があるケースもある。
最近では、中国でも、欧米や日本のマーケットで人気の小型家電、調理器具、食器などのキッチン用品が、何でも手に入るようになった。百貨店などの家庭用品売り場は、多くの主婦が一番好きな場所になり、見たり触ったりしながら楽しんでいる。
しかし、多くの家庭で、新しい調理器具を買っても、使用率が高くないという現象がある。既製品を買ってきた方が楽だからで、ジューサーや豆乳しぼり器などは、数回使う程度で、次第に洗うのが面倒になる。千切りや短冊切りにできる器具も、使い勝手は悪くないが、やはり、包丁で直接切ってしまう方が慣れていて、片付けも簡単だ。
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小売り野菜を買えば、共働きの家庭でも腐らせてしまうことはない |
生活リズムが日に日に速くなる今日、誰もがキッチンにいる時間を短くしようとしている。サラリーマンにとっては、キッチンの効率と便利さが何よりも重要だ。
生活習慣を簡単には変えられないというのも現実だ。電子レンジを例にすると、時間を掛けずに清潔に料理でき、栄養も破壊しないという理由で、一気に広まったにも関わらず、最もよく使われる機能は、残ったごはん、おかず、牛乳などの加熱機能に過ぎない。電子レンジでの料理法を紹介した本もあるが、そんな本を参考にするのが面倒な人もいれば、直接火にかけた方がおいしいと感じる人もいる。これはおそらく、中国人の飲食習慣と切っても切れない関係にある。
速くなったリズムと故郷の味
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中国人はかつて、親戚や友達を呼んで、家でパーティーを開くことが多かったが、飲食業の発展にともない、レストランなどに集まることが流行になっている |
張さんのキッチンには、缶詰と袋ラーメンがたくさんある。彼女は包み隠さず、「悩んで悩んでデザインしたキッチンだけど、最近、一番よく食べるのは袋ラーメン。夫は肉好きだから、缶詰はほとんど夫用」と答えてくれた。
忙しい彼女は、ふだん、なかなか料理の腕を披露できない。山東省に本籍がある彼女は、小さい頃、祖母から「マントウ」「餅」などの作り方の手ほどきを受けた。祖母は、嫁いだ時に料理さえできなければ笑いものになると言っていたそうだ。今となっては、祝日などにたまに手の掛かる料理をする程度になったが、そんなたまに見せる腕が、夫婦に楽しい時間をもたらしている。
彼女のような働く女性は、自分の時間は限られ、毎日買い物に出掛け、様々な料理をするよう要求するのは現実的ではない。幸いにも、今日の市場は、忙しい人にも便利さを提供してくれている。
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「食糧専門店」の機能は、いまではスーパーが担っている |
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生活リズムのスピードアップにともない、「主食の実演売り場」では、各種惣菜も人気 |
スーパーなどでは、各種料理に適したセットの食材が売られているだけでなく、「主食の実演売り場」もあり、人気を集めている。これは、スーパーに設けられた四方がガラスで囲まれた売り場で、買い物客は外側から、加工の過程を見ることができる。北京でよく目にするのは、北方の人が好んで食べるマントウ、「餅」、麺、餡まん、肉まん、野菜まんなどの調理現場。ご飯やチャーハンも売られているが、買う人は多くはない。おそらく、技術をそれほど必要とせず、自分で作っても時間が掛からないからだろう。
張さんの帰りが遅い日、彼女の夫は、このような「主食の実演売り場」で買い物をして、帰宅後に簡単なおかずを作り、缶詰をつつく。これで充分、立派な晩ご飯になる。
「主食の実演売り場」では、新鮮な主食が販売されているほか、冷蔵陳列棚にはギョウザ、ダンゴ、チマキ、春巻きなどの冷凍食品が並んでいる。昔はお祝い事のご馳走だったこれらの食べ物は、いまではいつでも手に入り、自炊をあまりしない人に、食の選択幅を与えている。
筆者の友人である邵さんは、80に近いしゅうとめと同居している。しゅうとめは、北京に暮らして長くなったが、それでも故郷の四川省の家庭料理を懐かしがる。料理好きで、心やさしい邵さんは、苦労して四川料理を覚えた。以前は、四川産のサンショウやトウガラシ、四川風の漬物といった本場の調味料や食材を手に入れるのは、簡単ではなかったため、人に頼んで四川省まで買いに行ってもらっていた。それがいまでは、全国各地の調味料が、北京にいながら手に入る。彼女の料理もますます本場の味に近づいている。
こんな「特別な味」こそが、「家」の魅力だろう。
北京の家庭で使われる調味料は、品種が増え、料理に合わせて使い分けられるようになった。数例を紹介する。
名 称
金 額 容 量 主な用途など
▽酢
・竜門燻酢 4.20元 500ml 料理全般
・竜門米酢 3.20元 500ml 料理全般
・山西老陳酢 2.30元 420ml 料理全般
・鎮江香酢 3.50元 550ml 料理全般
・鎮江姜汁酢 2.90元 500ml 海鮮料理
・上海白酢 2.60元 500ml あえ物
・鎮江餃子酢 5.90元 500ml ギョウザ
▽しょうゆ
・致美斎特製生抽王 4.60元 510ml あえ物
・致美斎老抽王 5.30元 510ml 肉、魚のしょう油煮など
・李錦記草ケス老抽 6.20元 500ml 同上(フクロタケ味)
・美味拌麺醤油 7.20元 500ml あえ麺
・海天海鮮醤油 7.50元 500ml 海鮮料理のタレ
・燕京原汁涼拌醤油 6.40元 500ml あえ物
・寛牌鉄強化栄養醤油 4.10元 340ml 鉄分を多く含む
▽食用油
・葵花シ油(ヒマワリ油) 33.88元 2L
・紅花シ油(ベニバナ油) 26.40元 1L
・花生油(ラッカセイ油) 31.50元 1.8L
・調和油 28.20元 2.5L
・粟米油(トウモロコシ油) 51.00元 5L
・大豆サラダ油 23.20元 2.5L
・芝麻香油(ゴマ油) 11.90元 400ml
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庶民が集まる巨大で何でも手に入るショッピングセンター |
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