【上海スクランブル】


上海ライフを謳歌する働く日本人女性ち

         
                    須藤美華


「上海ドリーム」が広がる浦東を望む

 仕事で、留学で、上海に滞在する日本人が増えている。その数は2万人を超えると言われるが、なかでも元気に上海ライフを謳歌しているのが、20、30代の働く女性たちだ。

 「日本でOLをしていても閉塞感を感じていた。これからは中国の時代と思い、留学した。働きながら、中国語をスキルアップさせていきたい」

 「女性にとっては先が見えてしまう日本にいるよりも、はるかに責任ある仕事を任せてもらえて、やりがいを感じる。思い切って、飛び出してみて本当に良かった。自分の人生に積極的な中国人にも刺激を受ける」

 「刻々と変化を続けるこの国にいることが楽しい。国にも、人にも活力がある。日本のような、こうあらねばならないというプレッシャーもないから、自分らしくのびのびと生きられる」

 彼女たちは、上海で働く理由をこんなふうに話す。

 彼女たちの多くが上海進出の日系企業で現地採用者として働いている。雇用は一年契約を更新していく形が多く、安定性には欠ける。

 「与えられるままだった日本での就職より、大変と言えば大変だが、すべてが自己責任なので、権利や責任を自身で認識、主張できるようになった。そして緊張感を持って働けるようにもなった」と、OL留学後に上海で就職した20代後半の女性は「利点」を指摘する。

 給与も日本の同世代より低いが、物価水準が低いため、「日本にいた頃より豊かな生活ができる」と話す女性たちが多い。
 
 また、保険の付与がないといった雇用形態の人も少なくなく、多かれ少なかれ不安定さを感じているはずだが、彼女たちは一様に前向きだ。その不安定さを補っても余りある「何か」を上海滞在から得ているからだろう。


クリエーティブ職、起業をめざす人も


「中国は面白い」と岩波信江さん。上海の街角で

 上海には、そんな彼女たちの親睦団体「上海で働く女性の会」がある(同様のものが、北京にも)。三カ月に一度集まって、情報交換をしたり、交流を深めている。1995年に発足した当時は20人前後だったが、現在は二百数十人にのぼる。

 メンバーは、留学から現地就職というパターンだけでなく、中国男性との結婚を機に上海へ移住する女性や、上海で働いている間に中国男性と結婚し、上海での永住を決意する女性も年々増えており、上海で働くきっかけも多様になっているようだ。

 業種も以前は、製造業やホテルが中心だったが、最近は医療、住宅、コンサルティングなどサービス分野への広がりも著しい。さらにこの1、2年は、上海の可能性にひかれて起業したり、一般企業ではなくクリエーティブな仕事に従事する人も出てきている。

 昨年、中国人の友人たちのネットワークに支えられて旅行コンサルティング会社などを起業した山本弥生さん(30歳)は、旅行添乗員として初めて訪れた中国にビジネスチャンスを感じた。半年後には上海へ留学。大学で中国語を勉強するかたわら、会社設立の準備を進めたという行動派だ。

 日本で劇団の演出助手など演劇活動に10年かかわってきた岩波信江さん(34歳)も昨年から、CM制作会社でアシスタントプロデューサーとして働いている。もともと中国語の音の美しさに惹かれ、中国語に興味を持っていた岩波さんは、演劇で10年という区切りがついた時、リフレッシュするための環境として北京を選んだ。語学留学を経て、上海にやってきた。

 「中国人は企画や発想が大胆。日本のようなきっちりさはないけれど、その分、わき見をする面白さや力を抜く面白さを感じる」

 違う国の人との交流によって、絶対のものはないと実感している。「自分の目で見て、自分で判断していく気持ちよさ」を感じているようだ。将来的には中国での日本の演劇公演や映画製作にも携わりたいと夢は広がる。

 彼女たちの目に映る中国は、近くて遠かった「竹のカーテン」に覆われた国ではない。むろん特殊な人が行く国でもなく、さまざまな魅力を持った「新天地」になりつつあるようだ。