「ちょっとした発見や驚き、人とのふれあい。そんな旅のおもしろさを、中国の人たちにも味わってもらえたら……」
外国の人たちに、日本の観光の魅力を宣伝する仕事をしている。国土交通省の外郭団体である「国際観光振興会」につとめて四年。この四月からは北京事務所に着任し、より多くの中国人観光客を日本へ呼ぼうと、努力している。
「ちょうど新型肺炎SARSがはやったころでしたが、帰国もせずに、一日交代で出勤していました。感染率が低いので怖いとは思わなかったし、北京に慣れるための時間がもらえたようで、かえってラッキーでしたよ(笑)」
「新聞やテレビに日本観光の広告を出したり、宣伝パンフを作ったり、見本市に参加したり……。SARSの影響から、本格的な宣伝活動が行えるのは秋以降になりそうですが、その時がきたら、どんどん動きたいですね」。これまで通り、積極的に働ける日々を待っている。
大学一年の春休み。新疆ウイグル自治区への一人旅では、中国の人々のやさしさに救われたという。語学の短期留学をしたばかりで、中国語もほとんど話せなかったころのことだ。
「敦煌の駅で、列車に乗り遅れてしまったんです。次の列車が来るのは六時間後の深夜の一時。ぼうぜんとして立ちすくんでいたら、中国の人たちに取り囲まれて、あれよあれよという間にキップを払い戻してくれたり、次のキップを買ってくれたり。ストーブのある駅員室で待たせてもらい、ようやく列車に乗るさいにも、駅員から乗務員に『彼女をくれぐれもよろしく』って取り次いでもらって……」
好奇心が旺盛で、面倒見がよく、世話好きな中国の人たちに助けられた。日本人には薄らぎつつある、他人に対する思いやりだった。予想外のカルチャーショックが心地よかった。その後「中国をもっと知りたい」と雲南に短期留学したほか、大学を一年休学して北京に留学、本場のことばを身につけた。そして今では、好きな旅行や中国にかかわる仕事に就くことができ、満足している。
「日本にとってアメリカ、香港、台湾、韓国からの観光客に大きな伸びは期待できませんが、所得が上がり、旅行ブームを迎えている中国内地からの観光客は、いちばんの狙い目です。日本六泊で一万元(一元は十五円)を切る格安ツアーが人気ですが、せっかく来てもらうなら、東京や富士山を駆け足でまわる表面的な旅でなく、日本のもっと深い部分にふれてほしい」
京都で和服を着付けてもらったり、茶道や華道を体験したり。東京の人気スポット・六本木ヒルズを歩くような新しい要望にも、きめ細かく対応したいと願っている。
「私が中国で体験したように、中国の人たちにも感動してもらいたい。そして、二度、三度と日本を訪れるようなリピーターを増やしたいですね」
(文・写真 小林さゆり)
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