【お祭り賛歌】


雲南省紅河州瀘西県のイ族・入祖
子孫繁栄を先祖に伝える

             文 黄金貴 写真 田 峰


 

羊は、小白イ族が崇拝するトーテムで、供物としても欠かせない

 雲南省紅河州の北東部に位置する瀘西県は、面積1674平方キロで、36万人が暮らしている。同地に古くから生活しているのは、イ、ミャオ、チワン、回、ダイ、漢の六民族で、東山の一帯には、イ族の一支族である「小白イ族」が集まっている。

 中国全土に550万人以上いるイ族は、主に、雲南省、四川省、貴州省、広西チワン族自治区に暮らす。歴史や地域性などが原因で、多くの支族に分かれ、それぞれ黒イ族、白イ族、赤イ族、甘イ族などと呼ばれる。イ族は「黒」を尊び、黒イ族の先祖はもともと奴隷社会の武士集団だった。一方、白イ族は「雑用をする人」で、多くが農耕民だった。

 小白イ族の多くは、山間部と寒冷な高山に暮らす。客好きで人柄がよく、弱きを助け、協力し合う民族性がある。また、依然として、古くから伝わる祖先を祭る習俗を守り続けている。イ族のこのような信仰は、宗教にはならなかったが、家族が社会活動での中心的役割を果たしているため、祖先崇拝が彼らの信仰における特殊な意味を持つようになった。

「入祖」の儀式に向かう村人

 小白イ族の祖先を祭る「祭祖」という行事は、毎年、旧暦10月15日前後に行われる。二年に一度の大祭り、一年に一度の小祭りがある。大祭りでは、オスの羊を殺し、氏族の本家全員が参加する。小祭りでは、羽の赤いおんどりをつぶし、祭られる祖先と近い親族のみが参加する。

 2002年の旧暦10月13日には、白水鎮小邑村の黄金富さんの家で「祭祖」があり、同時に、亡くなって3年経った父親の「入祖」の儀式を行った。

 黄さんの父親は、93歳で世を去り、9人の子どもがいた。この日は、黄家の家族のほか、親戚、友人、村中のイ族が、穀物、豚肉、ニワトリ、酒などの贈り物を担いで黄さんの家に集まった。女性たちはみんな、祭りのために盛装し、あちこちから駆けつけた。

 「入祖」とは、死者を苦界から救うために、経を読み、魂を弔う儀式である。イ族の伝統的な考え方では、人が亡くなると、その魂は「善良な鬼」(成仏した魂)と「邪悪な鬼」(悪霊)に変わる。「善良な鬼」は、人を助け災厄を除け幸せにするが、「邪悪な鬼」は、しばしば人に災いをもたらす。

長老は祖先と亡くなった人を象徴する銅片を服の上に広げて吉凶を占う

 民間では、子どもがいなかった人、非業の死を遂げた人などの魂は、「邪悪な鬼」になることが多いと言われる。貧困、病気、災害、殺人なども、すべて「邪悪な鬼」によるたたりだと恐れられ、各種の巫術やタブーを作ることによってのみ、鬼を追い払い、福を呼び込むことができるとされている。

 最近では、社会の発展にともない、少なくない迷信的な行事は簡素化され、家族が集う祝日になった。

 黄家の祖先を祭る儀式は、2日間行われる。1日目には、村で最も人徳があり、スピーチにも歌にも長けた71歳の長老・黄紹明さんが、自家で儀式を執り行った。まず長老が酒をついだ碗をかかげ、後ろに黄家の親戚が続く。黄さんの父親の「入祖」のために仕立てた服の前で、長老はこんな歌を歌った。

 「今年の大祭りがやってきた。今日は子どもたちが全員戻ってきた。――さあ、あなたを背負って祭りに行こう。明日はあなたの魂を祖先のもとに送り届けよう」

 歌い終わると、服を壁から手にとって、黄家の婿が背負った麻布の袋に入れ、様々な模様のある布で装飾された輿に乗せた。輿の前には、みんなが持ち寄った酒や肉、お菓子などの供物が置かれ、その中には、羊も一匹いた。

祖先を象徴する銅片を埋葬している神木に向けて出発
長老は祖先と亡くなった人を象徴する銅片を服の上に広げて吉凶を占う
旧暦10月13日には、各家ごとに祖先の魂を祭る

 伝説によると、小白イ族の祖先は山賊に襲われて殺され、身ごもった妻だけが洞穴に逃げ延びた。彼女は洪水のために洞穴から出られず、そこで子どもを産んだ。そして途方にくれて赤子を粗末な木箱に入れて川に流したところ、一匹の羊が子どもを救い上げ、小白イ族は断絶をまぬがれた。こんなことから、羊が小白イ族のトーテムとなった。

 2日目、昼食を取った後、黄さんの親戚や友人は、長幼の順に隊列を作り、美しく飾られた輿の後ろに続き、長老やチャルメラ、ドラ・太鼓の楽隊を先頭に、にぎやかに進んだ。そして、約3キロほど先の丘の上で輿を降ろした。そこは、祖先がいるとされる「祖洞」の前で、「入祖」の儀式を行う場所である。

 長老は、一本の大木の下の「祖洞」から、民族の始祖と亡くなった同族の人の象徴である人の形の銅片が入った木製容器を取り出し、「入祖」用に使う模様のある麻布で包んで背負い出した。

 数歩進んでから、長老が「祖先は降りてきたか」と大声で叫ぶと、みんなは「降りてきた」と応えた。この一問一答が、祖先が後代の人たちの前に姿を現したことを意味する。

 長老は、容器をテーブルの上に置き、酒を供えた。そして、容器から数多くの銅片を取り出し、長老が着いていた上着の上にきれいに並べ始めた。それらは亡くなった家族一人ひとりの象徴である。

 まず、祖先の夫婦を象徴する銅片を一番上に置き、両側には子どもを授ける使者の銅片を置いた。そして、男性を象徴するとがった銅片と、女性を象徴する四角い銅片をセットで並べた。

 手元に残った銅片のうち、とがったものが多ければ、3年以内に家族の中で男の子の誕生が多いこと、逆に四角形のものが多ければ、女の子の誕生が多いことを表す。

 黄家の婿は、長老のところで二枚の銅片を受け取り、お米で作ったおにぎりの上にさし、両手で捧げ、親戚たちは長幼の順にひざまずいた。長老はまた、こんな歌を歌った。

 「小白イ族のご先祖さま、今日は私たちの大祭り。家族みんなでお祝いします。どうぞ私たちを迎えてください」

「祖洞」の前で「入祖」の儀式を行う

 そして穀物をまきながら、「祖先を祭る儀式は終わった。子孫のどの家でも五穀豊穣で、代々繁栄していこう」というところまで歌って締めくくった。その後、銅片を入れた容器の片づけをはじめ、丁寧に包み、「祖洞」まで背負って戻り、中に安置し、入り口でひざまずいて三度叩頭して、先祖に別れを告げる。「入祖」は終わった。人々は山の坂で、羊肉や穀物を煮込んだ粥を一緒につつく。

 小白イ族は、「入祖」後には、亡くなった人の魂はすでに生命の彼岸にたどり着き、引き続き祖先の周囲を回ると考え、このような敬虔な儀式を行うことで、祖先の魂は神に変わり、子孫を加護してくれると信じている。