中国の国有ホテルとしては最大にして最高級、北京の目抜き通りに面した北京飯店(北京市東長安街)。そこで働く1700人のうち、唯一の日本人スタッフである。
ホテル二階の経営部を訪ねると、携帯電話や固定電話がジャンジャン鳴りひびく中、その応対に追われて飛びまわる姿があった。
「大型会議が入りまして……。でも、いつもこんな調子なんですよ」。元気いっぱい、にこやかな笑顔を返してくれた。
はじめは、中国に対してさほど興味があったわけではないという。外国語を身につけたいと思い、たまたま中国語専門学校の日中学院(東京・文京区)を選んだ。二年生のとき、夏休みを利用した語学研修で北京に滞在し、その広大なスケールに圧倒された。
「北京のメーンストリート・長安街を、初めて見たときの印象が忘れられないですね。ずーっとどこまでも続いていて、北京のすべてを凝縮するかのようで……」
中国を肌で感じた瞬間だった。学校を卒業後、中国の美術作品を輸入販売する会社(東京・練馬区)に入社。北京へ出張するたび、北京飯店をよく利用した。「都合四十回は宿泊したでしょうか。社長が気に入っていたからですが、ここの重厚な趣や、服務員さんの温かな応対が私も大好きになりました。よくしていただいたことが、とても心地よかったのです」
当時、日本で見ていた人気ドラマ『ホテル』の影響があるかもしれないが、サービス業へのあこがれもあった。ホテルの仕事がしてみたい、とそれはだんだん具体的な目標になった。そんな折のこと、中国の友人に勧められ、北京の崑崙飯店で働くチャンスをつかんだ。その後、サービス業を志すきっかけになった北京飯店のスタッフになりたいと積極的にラブコールし、2001年初夏に正式採用された。
宿泊客の六割にのぼる日本人客への応対をはじめ、ときには営業で日本へ出張することもある。得意の中国語が使えるし、好きな仕事で、やりがいを覚えている。「なぜか大変な仕事とは思えないのです。しいて挙げれば、忙しいことくらい(笑)。営業部には若くて、元気で、ユニークな中国人スタッフが揃っています。その輪の中に入って、自由に意見を交わしたり、いっしょに食事をしたりして、けっこう楽しく働いています」
観光客のほか、会議や商談で宿泊するビジネス客も多くなってきた。夜中まで仕事をする宿泊客をサポートしながら、そんな自分の役目にも充実感を覚えるという。
「お客様が目的を持ってこられ、ときには徹夜で、一生懸命がんばっておられる姿を見ると励まされます。そういう時間を少しでも共有できるのはうれしいし、満足感を覚えます」
休日には英会話学校に通ったり、クラシックコンサートに行ったり、サイクリングで軽く汗を流したりと、リフレッシュを兼ねつつ「自分磨き」にも余念がない。
「北京飯店には、世界各国のお客様がお見えになります。そうした機会に、各国の皆様によりよく接したい。北京飯店を利用してよかったと思っていただけるよう、心地よいサービスを提供したいと思っています」(文・小林さゆり カク慧琴 写真・小林さゆり)
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