河北省唐山市ハイテク開発区
日系企業へのサービス、ますます充実

                                   文 王浩

 河北省東部に位置する唐山市は、中国の環渤海湾経済圏の重要都市の一つで、北京市、天津市とともに経済発展の「ゴールデントライアングル」を形成している。

唐山松下産業機器有限公司の外観

 同市は北京、天津からそれぞれ車で二時間強の便利な場所にあり、海への窓口である貨物取扱能力1500万トンの京唐港にも隣接している。

 同地の陶磁器業には長い伝統があり、「北方の陶磁器の街」として知られているほか、工業都市としても名高く、中国で最初の近代的な開ツミ炭鉱は、唐山にある。また、機関車・鉄道車両工場や近代的なセメント工場でも有名だ。

唐山神鋼の生産ライン

 有利な立地条件と便利な交通事情が、唐山発展の基礎であり、唐山市北部の「唐山市ハイテク開発区」(以下、開発区)が、唐山経済を牽引している。同開発区は、1992年に省管轄の開発区として誕生し、敷地面積は13平方キロ。今後、30平方キロに拡張される。

 開発区内の高層ビルと緑地の間の広くまっすぐな道を進むと、まるで公園にいるような錯覚を覚える。環境のすばらしさは、ここが伝統的な工業都市であることを忘れさせてくれる。

 開発区のスタッフによると、現在の開発区一帯は、かつては見渡す限りの農耕地で、10年の建設工事を経て、唐山でもっともにぎやかな地区の一つになった。環境保護にも力を入れているため、同地の住宅を購入する若者が増えている。

唐山神鋼溶接材料有限公司総経理・茂木勘司氏

 開発区では、日系企業の看板が格別目を引く。進出した日系企業は20社に近く、一番乗りは唐山松下産業機器有限公司だった。開発区管理委員会の周暁成主任によると、同社は進出調査に3年を掛け、中国各地を視察した結果、総合的な投資環境が優れていた唐山の開発区を選んだという。

 1994年6月、正式に唐山松下が設立され、電気溶接機及びその他の関連製品を生産。生産開始からわずか2年でほぼ中国全土に販路を広げ、以来、売上と利益で中国の電気溶接業界トップの座を守っている。また、松下電器グループから、中国に41社ある合弁会社のうちで、最優良企業の一社との評価を受けている。

 同社の成功により、日本の関連企業が唐山進出を視野に入れるようになり、神戸製鋼、小池酸素工業などが、相次いで進出を決めた。

唐山市ハイテク開発区管理委員会主任・周暁成氏

 神戸製鋼は2002年10月、唐山神鋼溶接材料有限公司を立ち上げた。茂木勘司総経理は、「中国が北京五輪と上海万博の招致に成功したことは、中国市場の潜在力の表れ。唐山には歴史的に工業の基礎があり、交通便利な都市で、弊社が必要な原材料や部品類をすべて現地調達できる。一年の調査を経て進出を決めた」という。唐山進出から一年が経ち、昨年末には生産を開始。準備が順調に進んだため、2004年の生産目標は、月産125トンから200トンに引き上げられた。

 世界的に有名な切断機メーカーである小池酸素工業は、独資での進出を選んだ。唐山の独資会社を中国の生産基地として中国マーケットを開拓するだけでなく、アメリカ、インド、香港、台湾などの国や地域に輸出する計画がある。同社も昨年末に生産を開始したばかりだが、すでに6台の大型切断機の注文を受けているといい、桑原幹静総経理は、「手ごたえがある」と語る。

唐山松下の元総経理・小林誠氏(右側)が、「唐山市名誉市民」の称号を贈られた

 小池酸素の唐山進出も、唐山松下の成功例がポイントとなった。桑原総経理は、「弊社は唐山松下と良好な関係にある。唐山松下の成功が私たちに多くの教訓を与えてくれた。いまでは神戸製鋼を含む日本の電気溶接分野の三大企業がそろって中国に進出した。今後はどう共同発展していくかが課題」と語る。

 唐山への投資には、日系企業以外の外資系企業も早くから関心を寄せている。2003年末までに、同開発区には562社が進出し、うち外資系企業は73社、投資総額が1000万米ドル以上の外商投資プロジェクトは10項目にのぼる。日本のほかに、アメリカ、ドイツなど、十以上の国と地域からの投資があり、世界トップ500に数えられるアメリカのロックウェル・オートメーション、ドイツのシーメンス、日本の伊藤忠商事の名もある。

小池酸素(唐山)有限公司総経理・桑原幹静氏

 同開発区の効率的な仕事ぶりと細かなサービスは、外資系企業に定評だ。唐山神鋼の工場建設の際には、こんな出来事があった。

 同社工場では、電気消費量が多いために、新たに電気ケーブルを敷設する必要があった。開発区管理委員会は、同社がより早く生産を開始できるよう、ケーブル敷設に関する全工事の請負を申し出て、工場の敷地外の敷設費用は請求しなかった――。同社の茂木総経理は感極まったという。

 開発区に対する外資系企業の意見は、時を移さず関連部門に報告されるため、桑原総経理は、「企業思いでサービス精神がある。これこそ、弊社が唐山に進出した理由の一つ」という。

唐山松下を見学する投資視察団

 外資系企業に対するサービスについて、開発区管理委員会主任で、市人民代表大会代表でもある周暁成氏には、独自の哲学がある。「単に企業に代わって手続きをすることがサービスではない。真のサービスは、外資系企業が中国に投資する際の参謀になること。私たちは、外資系企業に必要なすべての資料を提供し、中国市場、産業発展の価値分析を援助する」と語る。

 昨年のSARS騒ぎの際には、日立グループの企業が訪中視察をできず、管理委員会が市場調査を委託され、780もの項目がファックスで送られてきた。開発区では、同社の中国での業務を支援するため、北京から金属の専門家を呼び、市場調査を行った。その報告書は同社から高い評価を得て、SARSが収まると、すぐに視察団が派遣されたという。優勢な資源条件の他に、管理スタッフの高い実務能力も、視察団に好印象を与えた。

アメリカの大手企業と開発区の契約式

 日系企業が相次いで中国に投資する中で、多くの唐山駐在の日本人が、唐山への思いを深めている。唐山松下の初代総経理である小林誠氏もその一人。彼は、中国でのパートナー選びから工場建設までの過程を見てきた当事者で、総経理を6年間務めた。定年退職後も唐山への思いを断ち切れずにいたところ、唐山市政府は彼を唐山市の日本駐在事務所長に任命し、さらに唐山市栄誉市民の称号を贈った。小池酸素の桑原氏も「唐山の人は、人間味があって、ここでの生活は快適」という。

 開発区の今後の発展について、周暁成主任はこう締めくくった。「私たちの発展目標は、ここに『日系企業工業パーク』を作りあげ、中国の溶接と切断機器及び自動車部品の生産基地としての『二つの特徴を持つ生産基地』を育てること。唐山は50万人の労働者を有する伝統ある工業都市で、今後もまったく新しい容貌で、世界的な成功を収めている企業を歓迎し続けます」