「水墨画を描く」」C  講師 沈和年先生
一番を象徴する―カニ

 
 
 
沈先生の今月のことば 「カニについて」

 カニは絵の題材として、昔から徐渭(明末期の文化人)や揚州八怪(清の時代にいまの江蘇省揚州で活躍した八人の個性主義的画家)のような文人画家がよく描いていました。カニが選ばれた理由の一つは、「甲羅」の「甲」の字が、「甲乙丙丁」の「甲」であり、一番という意味が含まれているからです。進学や職場での昇進などのお祝いに、中国でカニの絵を贈ることがあるのはそのためです。

 またカニは珍味として、中国でも人々に好まれています。特に、もう季節は過ぎてしまいましたが、「冬の名物」として上海ガニが人気です。

完成 少しかれ気味な線で足とはさみを描く。最後に濃墨で目を加える。

 
 

「カニ」を描くポイント
  筆の勢いと濃淡の対比で、カニの力強さと画面の緊張感を表現する。

 

       
  @大筆に水を含ませ、墨を付けて混ぜ、中墨を作り、筆の腹の部分に含ませる。そして穂先には濃墨を付け、筆の腹まで使って、甲羅の凹凸を表すように矢印の方向に描く。
  A甲羅を描き終わってから、墨の加減を調整し、足と足の間の余白の変化に気をつけながら、勢いよく足を描く。   B穂先に水を付け、墨を薄め、はさみを描く。小筆に濃墨を付け、トゲを加える。ほぼ墨が乾いた段階で、大筆に水を加えて混ぜ、淡墨をつくり、矢印のように後ろのカニを描く。  

 


  プロフィール
 上海大学美術学院卒。唐雲氏に師事。1990年留学のために来日。洋画家・荻太郎氏に学ぶ。中国水墨画の伝統の上に、現代的で斬新な感覚を盛り込んだ画風は画壇で注目されている。現在、上海市美術家協会会員、日本翠風会代表、国際水墨芸術促進会運営委員。日本全国向けの水墨画添削指導に当たっている。作品集に『沈和年画集』(上海書画出版社)、『沈和年作品集1、2』、『墨絵をたのしむ』(全3冊)、『ステキなはがき絵』(全3冊)(二玄社)がある。