(その4) キラキラと輝く中国の油絵
中川美術館館長、美術評論家 中川健造

 

 美術史をひも解くと、世紀末から世紀の初めに名画が誕生していることに気がつく。すでに今、中国に21世紀の名画が誕生していると考察している。それを裏付けるかのように、中国の油彩画(油絵)は、いま、キラキラと輝いている。

 中国文明は輝かしい歴史と伝統の上にある。歴史的観点から見るならば、それらの伝統文明の優れた遺伝子を引き継いでいるのが中国の画家たちであると言える。

 中国の油彩画の世界には、西洋画の印象派、キュビズム、抽象絵画はもとよりフォービズム、ハイパーリアリズム、ニュー・ぺインテングまで西洋絵画の百数十年間の技法、様式が一気に流入し、中国の画家たちは、それを吸収してきた。中国の油彩画はいま、いうなれば華やかな黎明期にある。

 中国油彩画の特徴は、個々の具体的な対象の形を、より本質的なもの、永遠なるものとして捉えようとしている。彼らの作品には、それがたくみに表現されている。日本でも、よく比喩的に、「西洋画は見た物を描き、東洋画は見て感じたことを描く」とか、「西洋画は自然を量において捉え、東洋画は質において捉える」といわれている。中国の画家たちは、絵画が根元的に二次元の芸術であることを冷静に見極めていたのであろう。

 また作品には、精神性と哲学性が求められた。この芸術思考から生まれる絵画は、必然的に精神主義的な色彩を帯びる。そして、造形的には、それは象徴的な方向と、装飾的な方向に現れる。象徴的とは、対象の本質的な部分を抽出し、単純化した形で端的に、より直接的に示そうとする傾向である。装飾的とは、対象の形状のさまざまな現れ方から決定的な形を見出し、様式化する傾向である。

『貌大地の如し』王兆中 164cm

 これからの絵画の表現で重要なのは、象徴性と装飾性を追求し、独自の作品を創作することである。偉大な過去の伝統に学びながら、加えて「現代性」を追求している中国油彩画の画家たちに、私は限りない未来を感じている。そして、世界の美術評論家は非常に強い興味を抱いて中国油彩画を見ている。私は25年にわたり中国油彩を収集してきたが、現在、大いに満足をしている。

 「芸術は人なり」と日本を代表する画家・横山大観は喝破した。人間性を磨かなければ芸術性は高まらないと言う。

 伝統的に中国の芸術家は、素養と学識に富んでいる。人物を磨くという考え方のもとで学んでいる故に、作品にも哲学性と精神性が滲み出ている。

 20世紀は西洋絵画の世紀であったが、21世紀は中国油彩画の世紀となろう。 

 これからの油絵市場について言及するならば、中国油彩画の作品に注目が集まると予想する。それは、これまで、西洋画の主流であった遠近法や明暗法の作品から、装飾的で象徴的な油彩画が世界の多くの収集家の感性に合致するものとなるからだ。20世紀にヨーロッパ絵画を高値で収集したのはアメリカの新興財閥の富豪たちであった。21世紀は、中国の富豪たちが収集を始めるだろう。歴史は繰り返すから、中国油彩画は予想するよりも高い価格で取引されるであろうことを予測している。(2004年4月号)