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死後の世界への想像かき立てる
帛画 人物竜鳳図
 
     文=魯忠民 写真=王露


帛画 戦国(紀元前475〜前221) 
長さ28センチ 幅20センチ


 

 1949年、中国湖南省長沙市の東南郊外にある楚墓から、白い絹の布(帛)に描かれた絵が発見され、後に『人物竜鳳図』帛画と名づけられた。これは、これまでに知られている限りでは、中国で一番古い絵画作品である。

 この2400余年前の絵は、葬儀の際に旗指し物として使われたもので、絵はすでにかすれて、ぼけてしまっているが、絵の中に描かれた情景はだいたい見てとることができる。そこには、一人の横向きの女性が描かれていて、その女性はゆったりした筒袖の服に長いスカートを穿いている。両手を前に合わせて合掌し、祈っているようにも見える。女性の頭の上には、一匹の鳳が空に舞い上がり、女性の左側には一匹の竜が体を捻じ曲げて、まさに飛び立とうとしている。ただ、竜の足の一本が剥落しているため、一本足の竜のように見える。

 この絵の女性は墓主であり、竜と鳳は彼女を導いて昇天させようとしていると考えている人もいる。またある人は、この絵は呪術を描いた絵画で、女性は巫女であり、墓の中の死者が竜と鳳に導かれて昇天するよう祈祷している、と考えている。さらに、竜と鳳の戦いが善と悪の戦いを象徴しており、この女性は善が悪を打ち負かすよう祈っている、と考える専門家もいる。このように諸説まちまちであり、なお検討が必要だ。

 『人物竜鳳図』の帛画が発見されて24年後、その近くの楚の墓から、また一幅の帛画『人物御竜図』が発見された。この絵には、高い冠を被った男性が長剣を手に、長竜を舟のように操って前へ進む姿が描かれている。

 この二枚の絵はほとんど同じ時代のもので、内容も似通っていて、姉妹の関係にあるようだ。ともに戦国時代の絵画の表現手法で描かれている。戦国時代の絵は、写実を重んずるものもあるし、装飾性を重んずるものもあり、中国の細密画の基本的な表現手法はだいたいこの時期に確立したといえる。

 この二枚の絵は、線で輪郭を描き、その筆致は滑らかで力強く、墨を入れるところもあり、色で染めたところもある。人や竜鳳の造型は装飾性を重んじている。

 絵には背景が描かれていないが、画面の完成度は高く、充実していて、構図は生き生きと躍動感に満ちている。中国の絵画史上、稀に見る逸品であることは間違いない。

 
 

湖南省博物館

 

 
湖南省博物館は、中国の省クラスの歴史・芸術博物館である。同博物館は、湖南省長沙市の湖南革命烈士公園の北側に位置し、敷地面積は5万平方メートル以上、建築面積は2万平方メートルある。1951年3月に建設計画が始まり、1956年2月にオープンした。

 同博物館の収蔵品は11万点以上、そのうち、1級文物に指定されている収蔵品は763点ある。その中には、新石器時代の石器や陶器、殷(商)・周の青銅器、戦国時代の楚の文物、馬王堆漢墓の出土文物、後漢から隋唐までの湘陰窯と岳州窯の青磁、唐・五代の長沙窯の下絵付け磁器、唐代に書き写された王羲之の『蘭亭序』の書などがある。また珍品としては、人面紋の方鼎や象紋の大鐃(ドラ)などの殷の青銅器、長沙馬王堆の3つの漢墓から出土した3千点以上の貴重な文物と女性の湿屍(ミイラ)がある。

 長沙馬王堆の1号墓から出土したT型の帛画は、長さ2.05メートル、天上や人間社会、地下の世界の情景が描かれ、神話と現実が渾然一体となっている。3号墓から出土した28点の帛書は、12万字以上の文字が書かれ、その中には『老子』『周易』『経法』『戦国縦横家書』『五星占』『五十二病方』などが含まれている。これらの書はほとんど、早くから散逸してしまった古籍で、古代哲学や歴史、天文学、医薬学などの研究にとって、いずれも非常に高い価値をもっている。

 同博物館の常設展示は、「湖南歴史文物陳列」と「馬王堆漢墓陳列」で、そのほかこれまでに、「楚文物展覧」や「館蔵明清絵画展覧」「斉白石画展」など40あまりの展覧会が挙行された。同博物館が編集、出版した書籍や雑誌には、『湖南省博物館』(大型図録)や『長沙馬王堆1号漢墓』(発掘報告)など30種以上ある。