「水墨画を描く」」D    講師 沈和年先生
紫のツバメのような――花菖蒲

 
 
 
沈先生の今月のことば 「「花菖蒲について」

 品種が多く、何度も改良されている花菖蒲は、花の色、大きさ、形などが多様で、栽培された地方によって、江戸、伊勢、肥後などと呼ばれます。

 あやめ、杜若と似ていることから、しばしば混同されますが、原種の野生花菖蒲の葉は剣状で、葉脈が隆起している特徴があります。一方、あやめは葉脈が目立たず、杜若は葉脈がないために、見分ける際の参考になります。

 また、花菖蒲の形はツバメに似ているため、中国では「紫燕」とも呼ばれています。

完成 筆の余分な水気をふき取り、濃墨を付け、乾かないうちに葉脈を加える。最後に胡粉に{とうおう}藤黄を混ぜ、しべを描く。

 
 

「花菖蒲」を描くポイント
  胡粉(貝殻を砕いて作った白い顔料)をうまく使って、花弁の質感を表すことと、葉に強弱をつけることで、画面にメリハリをつける。

 

       
  @ 中筆に水を含ませ、胡粉を薄め、穂先に臙脂(紅色の顔料)と藍色を混ぜて作った紫を付けて混ぜ、筆の腹まで使って矢印のように描く。
  A薄めた胡粉を付けた小筆で花弁の模様を加える。大筆に水を含ませ、草緑を薄め、萼と茎を描く。   B同じ筆に墨をつけ、手前の濃い葉を描く。そして、薄めた草緑を付け直し、ほかの葉を描き加える。  

 


  プロフィール
 上海大学美術学院卒。唐雲氏に師事。1990年留学のために来日。洋画家・荻太郎氏に学ぶ。中国水墨画の伝統の上に、現代的で斬新な感覚を盛り込んだ画風は画壇で注目されている。現在、上海市美術家協会会員、日本翠風会代表、国際水墨芸術促進会運営委員。日本全国向けの水墨画添削指導に当たっている。作品集に『沈和年画集』(上海書画出版社)、『沈和年作品集1、2』、『墨絵をたのしむ』(全3冊)、『ステキなはがき絵』(全3冊)(二玄社)がある。