◆あらすじ
フィアンセと同僚の交通事故死で二人に裏切られたことを知った自動車会社のエンジニアの早瀬(渡部篤郎)は、傷心から立ち直れないまま上海支社に赴任してくる。赴任したその日、ホテルの部屋で酒と睡眠薬をあおって昏倒、ホテルに勤める方敏(ミン、徐静蕾)に命を救われる。早瀬を見守る支社長の勧めで通うことになった中国語教室の先生は、大学で日本語を専攻する敏の妹の方琳(リン、董潔)だった。ふとしたことで方家と親しくなった早瀬は、暖かい家庭の雰囲気にだんだん癒されていく。だが、助かる見込みのない心臓病で、妹リンの早瀬への気持ちを知るミンは、早瀬の求愛を一旦は拒絶する。
やがて紆余曲折の末、エタニティ(永遠)という名称の早瀬が設計に参加した新車の上海でのディーラーも決まり、短いながらも幸せな時を早瀬と過ごして死んでいったミンの思い出を胸に力強く生きていこうとする早瀬がいた。
◆見どころ
上海の風景と言いたい所だが、今時ガイドブックでもこんなにベタではないのでは、というあまりにオーソドックスな上海ロケ。バンドや上海展覧館、外白渡橋は上海に行ったことのない人でも見慣れた絵柄で、あまりに新味がなさすぎる。
それよりも、ヒロインが作る家庭料理が美味しそうで、これはこれで最近の若い中国女性でこんなに料理上手がいるか、と嘘っぽいけど(実際ヒロイン役の徐静蕾は宣伝で来日した時、私にはとても作れないと正直に答えていた)。姉妹の衣装はイトキンなど中国で生産販売している日本のブランドから選んだ物を使ったそうだが、日本の若い女性向け雑誌が続々と創刊されている上海の若い女性のファッションは日本とほとんど変わらないので、そのへんにはリアリティがあった。
渡部篤郎さんと徐静蕾は英語で、渡部と董潔は日本語で会話するのだが、それぞれ一生懸命頑張っている。でも一番感心したのは支社長役の石橋凌さんの中国語。以前出演した台湾との合作映画でも北京語を喋っていて、年季を感じさせる正確な発音だった。日本人駐在員でこれだけ四声の正しい中国語を話す日本人もそうはいないだろう。
というわけで、今回は石橋さんの台詞。ビジネス中国語会話として大いに活用できると思う。
◆解説
松竹配給の日中合作映画。思い起こすのは60年前、松竹が満映と合作した『迎春花』という映画である。同じく日本の会社員が満州支社に赴任し、李香蘭演じる満州娘の通訳と惹かれあうが、小暮美千代演じる支社長の娘も彼を好きで、という三角関係も似ている。当時、中国人の娘が日本人男性に反発あるいは迷いながら惹かれていくパターンの映画は何本か撮られており、いかにも日本の侵略を共栄と言いくるめる国策を仮託したストーリーだったのだが、あれから60年。早瀬と上海姉妹の恋は、そんな歴史とはまったく無縁で国境を越えた対等な男女の結びつきとして描かれているところに好感がもてる。あたりまえじゃないか、と言う向きもあろうが、映画の中に描かれてきた中国と日本のカップルは、これまでずっと歴史に翻弄される悲劇の恋人たちや夫婦ばかりだったのだ。
中国で働く日本人に対する視線にも偏りがなく、赴任したばかりの早瀬がホテルのフロントで「日本語話せないの?」と言う傲慢ぶりや、相手が日本語が話せるとも知らず陰口を利いて、相手にやりこめられるところなど、なかなか日本人駐在員の現実を反映していて面白い。ストーリーはよくある恋愛物とはいえ、中国に対する偏見も過度な思い入れもない肩の力を抜いた自然な語り口が日中合作としては久々のヒット作なのではないだろうか。
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