今から31年前となる1973年4月、日中国交正常化(72年)を記念する初の大相撲中国公演が、北京と上海で行われました。
当時は国交が正常化したとはいえ、両国の人々にとっては具体的なイメージが浮かばなかった。その上、中国は「文化大革命」(文革)の最中で、混乱していた。そんなときに「相撲を通じて日本を知ってもらいたい。日本に対して、いい印象をもってほしい」と訪中を熱望したのが相撲協会の武蔵川理事長でした。
なんでも武蔵川理事長は、かつて日本に亡命していた郭沫若さん(中国の文学者、歴史学者。国務院副総理、中日友好協会名誉会長などを歴任)とお隣同士で、ご家族と親交があったそうです。郭沫若さんが帰国され、中国政府の要人となられ、国交が正常化して、相撲のふるさとともいわれる中国で「里帰り公演」が行われることになったのです。中国側は、周恩来総理と廖承志中日友好協会会長が「国交正常化を人々に印象付けましょう」と認めてくれた。まさに両国トップの英断で、公演が実現したのでした。
中国籍力士の清の華(在大阪華僑の子息、現在は引退)も土俵に上がり、会場は大きな拍手に包まれました。北京の初日には郭沫若名誉会長が、千秋楽には周恩来総理がいらっしゃった。北京場所も上海場所も連日「大入り満員」で、大成功を収めたのです。
忘れられないエピソードがあります。万里の長城見学の前夜、中国側が突然、力士全員の足の大きさを測り出しました。ふしぎに思って聞くと「セッタでは滑って転ぶし、危ないから布靴を作る」というのです。一晩で縫い上げてくれ、力士全員がそれを履いて登りました。みんないたく感激しまして、帰国前には布靴をみやげに買う人が続出したほど(笑)。そうした中国側の細やかな配慮あってこその成功でした。
日本の相撲は千五百年の歴史をほこりますが、中国は紀元前にそのルーツをたどることができるそうです。日本の相撲は中国から伝わったとされ、独特なスポーツとして発展しました。
そういう意味で、中国のみなさんには相撲を両国共通の格闘技として楽しんでほしい。最近の日中関係にはギクシャクした問題もありますが、そういうときだからこそ明るい話題を提供したい。大相撲公演をぜひとも成功させたいと願っています。
(大相撲中国公演共催団体、4月13日、北京で)