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深夜でも灯りが点る「思考楽書局」浦東店 |
深夜〇時半、24時間営業のブックストア「思考楽書局」に行った。八佰伴百貨店や時代広場があり、浦東新区で最も賑やかな浦東南路にあるが、さすがに深夜で灯りが点るのはこのブックストアだけだ。
「今日は昼間からずっと雨でしたからね、客足も伸びていませんが、通常は平均で夜9時から深夜一時までで180人、深夜1時から朝9時までで70人ぐらい」と、店長さん。
この店長さん、書店の前は日系コンビニエンスストア「羅森(ローソン)」で働いていたとか。24時間営業が好きなのですね。こちらの冗談に笑っていたが、上海っ子の間に24時間スタイルはすっかり定着したようだ。コンビニは現在、市内に4500店舗。各チェーンがしのぎを削っている。
店長さんによれば、夜更かしをする人が増えていて、じゃ、書店に行こうかと思う人も多くなっている。客のほとんどは学生やホワイトカラー層だ。
思考楽書局の一号店が上海にオープンしたのが、一昨年。その後、昨秋に上海初の24時間営業のこの浦東店をオープンし、現在市内に四店舗を構える。「私たちは本だけを提供する本屋ではありません」というコンセプトのもと、キャラクターショップや米国のスターバックスを併設したりと、顧客獲得に力を入れてきた。
深夜の書店は自分だけの書斎
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浦東店の静かな店内 |
浦東店も、白木の床に眼に優しい灯り、そして居心地の良いソファー。本好きにはたまらない環境だ。この日出会った建築家(33歳)もソファーに足を伸ばし自宅で寛ぐように読書に耽っていた。
「週に二、三回は来ますね。夜九時くらいに来て、面白い本に出会うと深夜1時、2時までいることもある。昼間は忙しくて書店に来れないし、建築の世界とは全く違う本を読むことでリフレッシュするんです」
居心地の良いソファーは、本好きの人間たちに愛されているだけでもなさそうだ。舟を漕ぐようにうたた寝する男性もいた。「相当疲れているんでしょうね」と店長さんは優しげな眼差し。長時間寝込まない限り、見て見ぬふりをするらしい。
現代小説コーナーの床に腰掛けていた男性(26歳)も意外な理由でこの書店を利用していた。
「僕は家の近くの工場勤務なんだけど、明日はこの近くの関連工場に応援で出勤しなきゃいけなくて。家から工場まではバスを乗り継いで一時間半以上かかるから、朝八時に出勤するにはかなり早起きしなきゃいけない。友達からこの本屋のことを教えてもらったから、ここで一晩過ごして出勤するつもり。金もかからないし、たまには本を読むのもいいもんだね」
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浦東店では長椅子に座ってゆっくり読める |
本屋を出て5時間後の6時半、新聞の集配所を訪ねた。毎朝、新聞を買いに行くスタンド「東方書報亭」の主、郭さん(49歳)と立ち話をするうちに、集配所を見せてもらう約束をしたのだ。
集配所と言っても、スタンド横のいわば公道。新聞の詰まった麻袋五、六袋が届けられる場所が、集配所なのだ。雨が降れば、隣の商店の軒先に移動して作業を行う。急いで仕分けて数キロ分の新聞・雑誌を毎朝、自分のスタンドまで運ぶ。少しでも早くスタンドを開ければ、それだけ日銭を稼げるのだ。
東方書報亭は国有企業の失業者対策として設置されたと聞いていたが、郭さんも6年前まで靴屋の販売員だった。妻もリストラ組で、2人でスタンドに詰める。
「俺が朝6時に家を出て、集配してスタンドを開けるのが大体七時半。2時くらいに母ちゃんがやってきて、俺は5時半に帰る。母ちゃんはそのまま残って、店を閉めるのは夜九時か十時くらいさ」
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一番人気の朝刊紙『新聞晨報』 |
1カ月の儲けは、約2000元。郵便局の定期購読に負けまいと、二十数軒配達のサービスもして、お得意さん確保にも懸命だ。
聞けば、息子は上海大学の2年生。学費だなんだと1年間に1万元はかかる。生活は楽ではないが、大学くらいはきちんと出してやりたいと言う。
普段は布団の中で過ごす深夜と早朝、街を歩いてみたらいつもと違う上海っ子の顔が見えて、元気がわいてきた。工員の彼は遅刻せずに、本屋から出勤しただろうか。
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