◆あらすじ
唐王朝に反抗する一大勢力飛刀門一派を撲滅せよとの命を受けた捕吏の劉と金は、遊郭牡丹坊の売れっ子小妹が飛刀門の前頭目の娘ではと疑い、彼女を罠にかけて捕え、さらに侠客に化けた金が小妹の脱獄を助けることで、飛刀門の新頭目と一味の隠れ家を探ろうとする。逃亡の道中、互いを探りあいながらも相手に惹かれていく小妹と金。それをこっそり追いつつ2人を監視する劉。しかし、3人の関係にはさらに複雑に張り巡らされた何重もの策略が絡んでいるのだった。
◆見どころ
見どころは2つ。牡丹坊でのチャン・ツィイーと、四川省の美しい竹林での追いつ追われつのシーンだ。
そもそも、当初は春秋時代の斉国の話のはずだった時代設定が唐代に変わったのは、前作の『HERO』を敦煌で撮影中に有名な敦煌の壁画を見て、その色彩に魅せられたからと言う。その時の発想が、まさに冒頭の牡丹坊のシーンに結晶している。ベージュと桃色を基調にした遊郭の内装と女たちの衣装の美しさ。唐王朝の美人の基準はもっと豊満であったろうけれど、チャン・ツィイーも芳紀25歳の成熟した美しさをあますところなく披露。新体操の選手顔まけの柔軟な身のこなしは、さすがは中央舞踏学院出身とうならせる。演技も『初恋のきた道』や『グリーンデスティニー』の頃に比べると長足の進歩があり、伯楽張芸謀監督もさぞや満足であろうと思われる。
竹林は武侠映画につきもので、キン・フーもツイ・ハークも手を変え品を変え竹林アクションを撮っているし、近いところでは"グリデス"のチョウ・ユンファとチャン・ツィイーのアクションというよりまるで愛の交歓のような竹林での闘いのシーンが思い出される。今回もまたなかなか楽しいアイディアが凝らされていて、監督の伝統的武侠映画への挑戦が楽しめた。まあ、これはアク
ション監督チン・シウトンの力かも知れないが。
小妹が踊りながら歌う詩の出典は、『漢書』の「外戚伝」。漢の武帝の妾の兄である李延年が作ったという。「傾城、傾国の美女」の成語にもなった。
◆解説
アイディアだけでは人を感動させる映画は撮れない。今回の張芸謀作品の最大の欠点は映画にソウル(魂)がないこと。この映画で何を撮りたかったのか、何を訴えたかったのか。前作には「平和」というそれなりに感動的なテーマがあった。邦題が『LOVERS』であるように、監督がこの映画で「愛」を描きたかったのだとしたら、それは完全に失敗している。この映画の愛の部分に少なくとも私はときめかなかったし、心も揺さぶられなかった。そもそも、ヒロインのチャン・ツィイーがラブシーンよりアクションしている時のほうが色気があるのだから、ラブストーリーとしては失敗である。
この映画にはテーマなどなくて、監督はただ自分の武侠映画が撮りたかっただけなのだとしても、アクション映画としての醍醐味も少なかった。『HERO』には武侠小説によく出てくる意識の上での闘いを映像化してみせた面白さがあったが、『LOVERS』で新鮮だったのは舞踊とアクションの融合だけだ。
もともと張芸謀監督の作品は意表をつく発想と巧みな映像技術で支えられているところがある。だが、最近の張芸謀作品は映像技術が抜群に上手いだけに、内容の空虚さが浮き彫りになってしまっている。発想で人を驚かすことに走っていて、作り手のソウルに観客の心が打たれるという肝心な点を忘れてしまっているのではないだろうか。
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