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江原規由 |
1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
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今回は、中国が目指している2020年までにGDPを2000年の水準の四倍にすることは可能か(注1)について考察してみたいと思います。
中国は2000年までに1980年の水準のGDP四倍増を達成していますが、この二つの四倍増を別の視点でみると、「温飽」(衣食住が基本的に満たされた状況)から「小康」(いくらかゆとりのある)社会を実現するということになります。2020年までの四倍増(年率平均で7・2%以上の成長)は、前の四倍増(年率平均9・6%)に比べ、年平均成長率が低いことや中国の経済実力からみて十分達成可能と期待できます。しかしながら、今後の持続的成長には新たな条件と制約が付くことになるでしょう。
持続成長のカギは外資にあり
新たな条件とはなにか。私は次の三点に注目したいと思います。即ち・「引進来」(外資導入のこと、ここでは、特にM&A方式(注2)による直接投資の受入れ)の維持と増加・「走出去」(中国企業の海外進出)の促進・東北振興(重化学工業の発展)です。いずれもこれまでに言及してきましたので(注3)、ここでは詳しく説明しませんが、最近の主たる動きを紹介しておきます。
【M&A】2004年の時点で、対中進出した外資系企業は四十八万七千社。M&A方式(買収、経営請負、株式参加、リース、技術供与など)での外資による最近の対中進出例では、米国のアンハイザー・ブッシュ社(世界最大のビールメーカー)と同第二位のSABミラー社が、競って中国第四位のハルビンビール社(黒竜江省ハルビン市)をM&Aしようとした事例で、後者がハルビンビール社の持ち株を前者に譲渡して落着した。
【走出去】今年7月、中国は『対外投資国別産業導向目録』(対象進出国67カ国)を発表。中国企業の海外進出を具体的かつ明確にした(注4)。最近の主要事例では、7月、中国の自動車最大手の上海自動車集団が、韓国の双竜自動車の債権金融機関と双竜買収交渉に関する覚書に調印した。2004年5月現在、海外進出している中国企業は7720社、今年1〜5月の中国企業による海外進出は前年同期比65・6%増(250件)と急展開している。
【東北振興】八月、東北発展銀行が設立された。東北振興のメッカ、瀋陽市への直接投資(今年上半期は契約ベースで385社)は前年同期比55%増と急増。東北振興は、重化学工業にも中国の経済成長を牽引するといった新たな成長パターンの採用を意味する。
重要な点は、上記三点が相互補完的であり、かつ、外資が主要な役割を演じているということです。「引進来」では、これまでの合弁、合作、独資(注5)などの新規設立型投資やM&A方式での外資導入が増え、同時に、「走出去」が積極化してきています。M&A方式とは、中国企業に外資の血(資本)を入れるということですから、中国企業の「走出去」とは、即ち、「外資の入った」中国企業の海外展開、いわば、中国で育った多国籍企業の海外展開ということになります。また、東北振興も、ハルビンビールの事例からもわかるように、M&A方式による外資導入に大きな可能性があるといえます。
なぜ「引進来」「走出去」「東北振興」の三点セットが中国の持続的成長を支える重要な柱なので
しょうか。喩えてみれば、こういうことになるでしょう。
「最近、長期的に生計を安定させようと新規事業に着手した適齢期の子だくさんの家(重化学工業の振興にも本腰を入れた中国)が、隣り近所や遠方から、お嫁さん(外資)を大いに娶り(導入し)、多くの子供(M&Aによる多国籍企業)をつくり、その何人かを、時期を経て、実家(中国に投資した国・地域)に里帰りさせ、その生業(その国・地域の経済)の手伝いをさせる」
孫の顔を見れば、実家の親は喜び、嫁ぎ先(中国)ともよい関係になるというものです。
世界最多の外資を受け入れている中国は、M&A方式で世界に冠たる外資導入を維持し、多くの中国式多国籍企業を育て、世界に輩出するという点で、正に「世界のインキュベーター(孵化器)」になる大きな可能性を秘めていると思います。そうなることが、今後、「中国脅威論」やら「中国一人勝ち」などといった中傷や妬みを受けることなく、中国が持続的成長(四倍増)を実現させ、世界経済の発展にも貢献する道ではないでしょうか。
「和平崛起」の意味するもの
ただ、四倍増へのその道は平坦ではありません。その最大の制約要因が資源・エネルギー問題と環境問題ではないでしょうか。今後、中国が重化学工業の発展に力を注ぐ方針であるということは、これまで以上に資源とエネルギーを必要とするということです。
特に中国の産業構造は、資源・エネルギー多消費型(注6)ですし、また、高成長は、車社会を出現させ、水を多用するようにもなります。最近では、中国の石油の輸入量が急増(注7)しており、そのため中国が原油価格を押し上げているといった警戒感が原油輸入国にあることなど、2020年までの四倍増の達成には、これまでと異なった難しい対応が求められているようです。今後四倍増の過程で、省資源、省エネルギー対策、代替エネルギー開発などに中国の威信がかかることになるのではないでしょうか。
この点でも、外資導入に活路があるように思われます。中国の持続的成長に外資企業を大胆に参画させ、その技術や経験を基礎に世界経済の成長や環境保全に大きく貢献するという姿勢を内外で積極的に示す必要があるように思えます。
この点、現指導部が推進する「以人為本」(人を以って基本とする、即ち人間本位)こそ、中国から世界へのメッセージといってよいと思います。中国の経済成長が量的拡大を追求しているのではなく、「人民のため」に質的向上を目指すという基本姿勢を明確にしたのが、「以人為本」ということです。
そのために、中国は「循環経済」の建設を目指すといっております。「循環経済」とは、資源や物資の再利用といった、人と環境にやさしい経済発展パターンの構築にあります。中国は、年率7・2%成長に向けて、外資との協調を図り、「循環経済」の実現に邁進してほしいものです。
外資を交えた三点セットの展開と循環経済の実現で、中国の経済発展が世界経済にとってマイナス面よりプラス面がはるかに多いことを実証することが、今、中国が世界に発信している「和平崛起」(平和的台頭)ということではないでしょうか。
注1 一人当たりGDPでは3600ドル〜4000ドルとなる。
注2 喩えていえば、M&A方式とは、軒先(新規設立型)から母屋に外資を入れるということにほかならない。
注3 東北振興と「走出去」は本誌1月号を、「引進来」は3月号を参照願います。
注4 対日進出では、製造業で電気機械、印刷機械、計器・メーター類、事務用機械、サービス業では小売り、R&D(研究開発)、ソフト開発などが奨励されている。
注5 外資100%投資のこと。
注6 中国のGDPが世界のGDPに占める比率は約4%だが、中国で消耗される石油、石炭、鋼材、セメントは、世界全体のそれぞれ約7.4%、31%、27%、40%を占めている。
注7 昨年の原油輸入量は前年比31.2%増。中国の原油輸入依存度は3分の1。2020年には同55%となると見込まれている。
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