名作のセリフで学ぶ中国語J

 

草ぶきの学校(草房子)
 
監督・徐耿(シュイ・コン)
1999年 中国 1時間47分
1999年中国・金鶏賞 [児童映画部門]
最優秀作品賞、脚本賞、助演男優賞受賞
 


あらすじ

 1960年代初めの中国江南地方。桑桑は村の小学校校長の父と母、妹と学校の裏にある家に暮らすやんちゃな少年。遠くの村から転校してきた物寂しげな女の子、紙月が何となく気になって仕方がない。仲良しの陸鶴は生まれつき髪の毛がないことを同級生たちにからかわれ、先生からも目立つからと不当に扱われることに腹を立て、わざと体操コンクールをめちゃくちゃにするが、代役で出た劇の芝居が大受けに受けて自尊心を取り戻す。村一番の金持ちの息子で、優等生の杜小康は桑桑のライバルだったが、家が破産して学校をやめ、父親のアヒルの養殖を手伝うことになる。小康が独学できるようにと、父親が大切にしていたノートに教科書を写す桑桑。初めは激怒した父親も事情を知って桑桑を抱きしめる。やがて難病に侵された桑桑を普段は厳格な父は必ず治してやると名医を求めて駆け回るのだった。

見どころ

 中国の児童映画には大人が理想とする子供像が多く、小さい大人のような少年少女を、これまた大人顔負けの妙に小賢しい演技をする子役が演じて鼻持ちならないので、この作品を1999年の北京国際児童映画祭で見せられる前はまた似たような作品だろうと気乗りしなかったのだが、あっという間に映画に引き込まれ、美しい自然と素朴な子供たちの愛らしさ、誠実な大人の俳優たちの演技にすっかり魅了されてしまった。興行的には難しいだろうこの映画を何とか日本で公開したいと、知り合いのプロデューサーに買ってもらい、配給してもらったという経緯がある。

 主人公を始め、出てくる子供たちがみんな地元の学校から選ばれた、学芸会で演技もしたことがない子供たちというのが信じられないほど1人1人の個性と表情が抜群。児童劇団の子役ではないので顔立ちそのものが整っている子は皆無、それがかえってリアリティーがあり、かといって自然で闊達な演技は、例えば同じ素人の地元の子たちを使った『あの子を探して』の演技でないリアルさとはまた違って、ちゃんと演技しているという驚き。よくぞここまで、と監督を初めとするスタッフの苦労がしのばれる。

 桑桑の父を演じた杜源は『野山』で若い農夫を演じ注目されたが、その後、あまりパッとしなかったのが、この役で見事、金鶏奨の助演男優賞に輝いた。そのことからも分かるように大人の鑑賞に充分耐える中国児童映画史上に燦然と輝く名作である。

 映画のエンディングに流れる童謡は『上海ルージュ』の劇中でコン・リーと少女が歌っていたのと同じ歌。さて、この歌詞の謎々の答えは何でしょう? 答えは水とコーヒー、というのは来日した監督の冗談だが、あなたの答えは? 因みに筆者の答えは「涙」です。




解説

 原作はベストセラーになった北京大学教授の曹文軒の同名小説。映画の中でも桑桑のお父さんが「北京に行って北京大学に入るんだ」と言う台詞があったが、たぶんに自伝的な小説らしい。文革前の貧しくものんびりとした雰囲気、人々の温かい情愛が実に懐かしくもいとおしい。日本の中高年の観客にも、高度経済成長前の日本に通じるものがあると自らの少年期を喚起されて涙ぐむ人が多かった。当時の日本にも『山びこ学校』などという名作があったなと思い出される。

 映画が撮影された無人島は太湖に浮かぶ建湖島という島で、実は前述の『上海ルージュ』の離れ島のシーンもここで撮影され、地元ではコン・リー島と呼ばれているとか。黄金色に輝く味わい深い草ぶきの学校と桑桑の家はすべて映画のためにスタッフが作ったものだ。白壁の家々は湖に突出する半島にある陸巷という村で、『春の惑い』もここで撮影されたという。江南への旅情も刺激される作品である。