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江原規由 |
1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
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今年4月以降、半年余りの間に、北は黒竜江省のロシアとの国境都市である黒河市から、南は広州市、西は新彊ウイグル自治区の省都であるウルムチなど、中国各地を訪問しました(地図参照)。行く先々で、中国経済のダイナミズムと変化のすさまじさを目の当たりにし、改めて、「百聞は一見に如かず」を実感しました。その「一見」の中から、今の中国経済を見るキーワードを紹介しましょう。
進む物流革命
各地とも、その地の特色を活かした経済を構築しようとしていました。
黒竜江省のチチハルは、「緑色食品の都」といわれ、有機・無農薬食品の北のメッカです。また、中国・東北地区を代表する重化学工業基地でもあり、農業と工業がバランス良く配置されています。内陸都市なので物流が問題になりますが、東北地区で生産された無公害食品と重化学工業製品が、これからは大連に向かうのではなく、チチハル経由、陸路でEU、そして世界へ向かう可能性が高いと思いました。
この点については、ランドブリッジ会議に参加したウルムチでも同じ思いを持ちました。新疆ウイグル自治区は、中国を代表するトマト、ワイン、綿花など農産品の生産地であり、会議では、ランドブリッジを利用した中央アジアなどとの経済交流の可能性が力説されました。
近隣諸国を含めると、ランドブリッジ関係国の人口は26億人で、ウルムチはその扇子の要にあるとの発想には、思わず「その通りだ」と膝を打ちました。世界地図を逆さから、あるいは斜めからみると、中国の新しい可能性が見えてきます。
チチハルも黒河も、そしてウルムチも、高速道路網が驚くほど発展しており、かつ、鉄道幹線が高速化し、時速200〜300キロの時代を迎えつつある今日、資源が豊富で、世界にも類を見ない重化学工業の拠点である中国の東北地区や内陸地区が、地球的規模で物流の表街道となる日は意外と近いのではないかと思いました。中国では、今、急ピッチで物流革命が進行しつつある、ということを実感しました。
物流はモノの流れですから、そのモノを作るため外資を導入したいということが、東北地区と内陸地区で力説されていました。私は、そのための手法はM&A方式(買収合併)にあるとみております。その良い例が、ビール業界で、世界最大手の米国のアンハイザー・ブッシュ社がハルビンビール(黒竜江省、中国ビール業界第5位)の株式29%を取得したケースだと思います。
中国の米国商会(商工会議所)が出した「白書」によれば、米国企業は東北地区で中国企業のM&Aの機会をうかがっており、中国政府もこれを大いに歓迎する意向のようです。いよいよ、重化学工業関連や資源関連の中国企業にも、M&A方式で外資の血が入る時代が到来しつつあるのです。
環渤海経済圏の台頭
M&A方式による外資受入に大いに関心を示したのは大連でしたが、同時に、大連はソフト産業、人材の育成・発展、そして語学教育で、中国の他都市を一歩リードしていると実感しました。例えば、日本語の話せる人材という視点では、大連が中国一でしょう。
語学に加えコンピューター関連の人材などが圧倒的なスケールで育成されているのには、驚きました。大連のみならず、中国は目下、「人材立国」を目指し、教育向上に邁進しています。将来的には、中国の人材が世界で活躍する時代が来るのではないでしょうか。なにしろ、世界史上未曾有の、50万に近い外資系企業を受け入れている中国ですから、人材の活用の場は山ほどあるわけです。
山東半島の煙台市では、副市長が地元企業の海外展開を大いに期待していました。一年前にお会いした時、私は中国企業の海外展開の勧めを説いたのですが、あまり関心を示さなかったことを思うと、改めて中国経済の変化の速さを実感しました。
9月に廈門(アモイ)で毎年開催される中国最大級の廈門投資商談会では、海外からの出展企業や機関による中国企業の誘致が大いに目を引きました。目下、中国は企業の海外展開を推進しつつありますが、同時に、海外からの中国企業誘致が本格化しつつあるようです。
山東省といえば、韓国企業の進出が多いのが特徴です。週末、韓国からフェリーや飛行機で青島、煙台などにやってきて、ゴルフをして帰る韓国人が多いと聞きました。十月、威海で開かれたか2004年北東アジア経済協力フォーラムで、韓国のスピーカーが、「フェリーで韓国からやってきた車を、山東省内でも走れるようにできたらよいのに。両国の経済関係はそれを許すほど、緊密なのだから」と発言したのには驚きました。
また、華北地区では、北京と天津という中国二大直轄市が両立する「首都経済圏」が形成されつつあります。両地は百キロ余りしか離れていません。高速道路で一時間余の至近距離です。両地とも各種展示会やセミナーといったイベントが花盛りで、中国第三の経済圏の成立を目指しています。
山東省(煙台、威海、青島など)、北京、天津、遼寧省(瀋陽、大連など)は、渤海をとりまく環渤海経済圏を形成しつつあります。それをさらに少し拡大して日本、韓国などを含めると、黄海経済圏となります。こうした経済圏は「一日経済圏」といってよいでしょう。今、その経済圏の動向に内外の注目が集まっており、投資など域内経済協力関係が急展開しています。その担い手は、日中韓の三カ国です。東北地区や環渤海経済圏を含む北東アジアが、世界経済の発展に大きく関わろうとしています。
リードする両デルタ経済圏
中国経済の持続的発展と国際化を支えたのは、華南(深セン、広州など)の珠江デルタ経済圏と上海を頭とする長江デルタ経済圏でした。前者は1979年の改革・開放以後、後者は1990年代に入って、主に、委託加工や軽工業を発展させ、世界が注目する対中ビジネスの拠点となりました。
今後の中国経済の持続的成長と国際化は、重化学工業の発展にかなり依存します。ですから両経済圏には、これまで以上に東北地区や内陸との経済連携の強化が求められます。M&Aの環境整備、中国企業の海外展開、そして、新たな展開をみせつつある香港・東南アジアや中央アジアとのビジネス交流の拡大を通じて、将来的には、アジアおけるFTA締結などで、中国経済の国際化をリードしていくことが求められていると思います。
また、上海では、金融、情報、貿易、商業分野で、各国・各地区の企業がアジア総本部を設置するケースが増えています。一方、華南には、「モノづくり」を支える世界的にも類のない規模での部材生産企業が集積しています。中国が目指す「人材立国」と「世界のアウトソーシング拠点」として、両経済圏の発展の余地は引き続き大きなものがあると思いました。
日本人の就職先として、上海や華南の中国企業や外資系企業がクローズアップされる日はそう遠くないと、上海、広州の二つの大河(長江、珠江)を眺めながら改めて実感しました。
この一年間、本誌にさまざまなレポートを掲載しましたが、「百聞は一見に如かず」、現地を見て、レポートのその後を確認し、基本的に間違っていなかったことを確認できたと思っています。
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