新東京支局長 林崇珍

 



   

 世界各国の大使館が集まっている東京の本麻布一帯は、大通りは賑やかなのですが、一歩、路地に入ると、閑静な住宅地が広がっています。中国の駐日大使館もこの一角にあります。

 昨年11月5日の夕方、いつもは静かな中国大使館の正門前が、急に賑やかになりました。普段着の主婦や家族連れもいます。白髪の老人も、小中学生も、ガソリンスタンドで働く若者もいます。招待状を手に「新しく来た中国の大使がご馳走してくれるらしいよ」というのです。

 招待を受けたのは、近所に住んでいる住民約300人。新しく着任した王毅・中国大使がにこやかに出迎えました。

 日本では、引っ越してくると、ご近所に「よろしく」と挨拶する習慣があるそうです。「郷にいれば郷に従え」。王毅大使は着任後3カ月足らずで、ご近所の皆さんとの「懇親会」を開くことにしたのでした。

 
 

駐日中国大使館で開かれた近隣の人たちとの懇親会

 講堂に集まったご近所の人たちの前に、ゴマ団子、肉まん、「酸辣湯」など中国料理が並べられました。普段は立ち入りが許されない庭園も、この日だけは開放されました。

 最初に王毅大使は「遠親不如近隣」という中国の諺を引いて挨拶しました。「遠くに住んでいる親戚は、近くの隣人に及ばない」という意味です。

 美味しい料理や雑技などの中国演芸の出し物に、最初はやや堅苦しかった雰囲気もたちまち和み、ご近所の皆さんと大使館のスタッフとの歓談が続きました。

 料理の中で一番人気が高かったのは熱々のお湯の中で煮た「水餃(水ギョーザ)」でした。中国で「餃子(ギョーザ)」といえば、普通は「水餃」のことを指します。日本でよく食べる「餃子」は「鍋貼」という焼きギョーザです。懇親会に参加した子どもたちは口々に「水ギョーザは初めて食べた」と言いながら「美味しい」「美味しい」を連発していました。

 同じ「ギョーザ」でも、中日両国の間で、こんなに理解が違うのか、と驚きました。これは「ギョーザ」に限ったことではないかもしれない。地理的に見れば、中日両国は近い隣人であるのに、いま中日関係が「政冷経熱」といわれるのは、知らないが故に誤解したり、反発しあったりすることが少なくないのではないか、と考えました。

 会も終わりに近づいたころ、和服を来たある老婦人がこう言いました。

 「十数年前から中国大使館の近くに住んでいますが、こんなにやさしいお隣さんだったとは知りませんでしたよ」

 

 
 

  本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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