弁護士の仕事をしていると、残念ながら取引にまつわるトラブルの話を聞く機会が数多い。いろいろなトラブルの相談を受けることもある。トラブルの内容は、些細なものから重大なものまで千差万別。その原因も実にさまざまである。
その中で、不動産を購入した時、「訂金」と「定金」の違いを知らなかったためトラブルに巻き込まれたケースが少なくない。
中国では、不動産や車を購入する場合、正式な購入契約書を締結する前に、購入意向書を締結することが多い。その場合、購入者はたいてい「訂金」(「申し込み証拠金」)又は「定金」(「手付金」)を支払う。その金額は、不動産購入の場合、両方とも2万元であることが多い。
「訂金」と「定金」という二つの用語は、発音は同じだが、性質はまったく異なる。この二つの言葉を区別せずに契約すると、2万元取られ、ひどい目に会う恐れが大きい。
例えばマンション購入意向書やマンション購入契約書をディべロッパーと締結し、「定金」(「手付金」)を支払った後、購入をやめようと契約の解除と「定金」の返還を求めたが、ディべロッパーから「契約手付金は返還しない」と拒否されるケースがある。
また、両当事者間の認識の相違により、「訂金」か「定金」かを争う紛争事件も少なくない。北京市第一中級人民法院が今年八月に終審判決を下した以下のケースでは、マンション購入者である原告は弁護士でもあって、その間の微妙さをよく理解し、適正に対応したため、裁判により前払金を取り戻すことに成功した。
高氏はディべロッパーから、子どもが近くにある有名校の中関村第三小学校に入学できると言われて、ディべロッパーとマンション購入意向書を締結し、「定金」(手付金)として二万元を支払った。その翌日に高氏とディべロッパーの間で、この2万元の性格について「訂金」(前払金)とする協議書が締結された。
その後高氏は、中関村第三小学校に入学できる旨を住宅購入契約書に盛り込むよう要求したところ、拒否された。このため、ディべロッパーに虚偽の宣伝行為があったとして、契約の解除と「訂金」2万元の返還を求めて訴訟を起した。
ディべロッパーはこの2万元は手付金なので、返還する必要がないと反論した。訴えを受けた人民法院は、原告と被告の間の協議書により、手付金は「訂金」(前払金)と変更されたため、返還を求め
驍アとができると判断した。
「訂金」は、日本の「申し込み証拠金」に似ている。法律上明確な規定がないが、一応、前払金と解されている。これは購入申込みの意思表示の際に「優先的に購入しうる権利を確保する目的」で、売主に対し「預ける」もので、冷やかしではなく本気ですよ、と言うほどの意味で授受されている。
その時点では売買契約は成立していないから、後で購入の意思表示を撤回することは可能である。従って、契約をしなければ「必ず返還される」べきものなのだ。しかし、紛争を避けるため、意向書の中に「契約不成立の場合には全額返還する」と明記するのが望ましい。
これに対して、手付金は、一般的には解約手付金とされる。解約手付金とは、宅地や建物の売買契約を結んだ後、契約の解除を可能とする手付金のことである。買主からの解約は手付金の放棄、売主からの解約は手付金の倍返しとなる。
従って、正式な契約を締結するまでの段階で購入意向書や購入承諾書というような書類を締結するとき支払う金は「定金」ではなく、「訂金」であることを知っておく必要がある。
ここで注意を要することは、日本では、例えば「土地売買承諾書」なるものに、サイン・捺印し、百万円の手付金を支払ったとしても、不動産売買契約書に記名・押印はしていないかぎり、申込の段階であり、百万円のお金は、正確に手付金という性格のものではなく、申込金または申込証拠金の扱いになる。だから撤回の意思を表示すれば100万円は戻ってくる。これに対して、中国では、手付金とする約定であれば、いくら申し込みの段階であると言っても、返還を求めることはできないか、あるいは返還は極めて難しいのである。
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